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Lastly key you Lv.5 (九話)

 誰にも見つからない様に城壁を抜けて出てきたキャリーは、来る時に通った丘の上を目指して歩いていた。


 丘を登り切る時に、木のそばで誰かが丸くなって俯いているのに気づく。


 恐る恐る近づいてみた。すると、仕掛けが発動した罠の様に俯いていた男は跳ね上がり、振り向き、手に持っていたラッパ銃を近付いてきたキャリーに向ける。


 キャリーは一瞬、撃ち殺されるのだろうなと思ったが、そうはならなかった。

 月明かりがさして彼女の姿を照らす。

 男はキャリーの顔を見てハッとなりしばらくしてから、名前を呼んでくれた。


「キャリー?」


 キャリーは軽く頷く


 目の前にいたのはオリパスだった。彼は視線を少し下げて、彼女が持っている物に気づいてしまう。


 瞳孔が開き肩を震わせる。

 溢れる涙に気づかず、オリパスは唇を噛み締める。しかし、それも虚しくただ、流れる涙に彼は崩れ落ちて顔を埋めるだけだった。


 オリパスは爪を立てて、草と土を引っ掻きながら嗚咽を吐く。


 そんな様子を見ていたキャリーは、イラ立ちや憎しみを通り越して、疑問と呆れがにじみ出てくる。

 こんな風に惨めに泣くのなら、あの人を裏切らなければ良かったのに、とキャリーは思いながら、ため息をついた。


「なんで、裏切ったの?」


 冷たく尋ねる。


 息を潜めて外まで出てきたキャリーはもう、疲れ切っていた。

 もう、すべてがどうでもよかった。


 オリパスは俯いて過呼吸になる。息を整えて顔を上げた。

 唇を強く噛み締めていたから血がヨダレの様に垂れる。彼は一回袖で口を拭いてからこちらを睨み返した。


「裏切る……俺が? そんなわけないだろ!」


 オリパスは拳を握り片手を振り払う。


「俺は今まで一度だってメアリーを裏切った事はない! 少なくとも利害が合わなくっても最終的には許されて来た!」


「だから、今回も許されると思って売ったのか? ふざけんなよ! お前のせいでメア姉は死んじゃったんだよ!」


「違う……!」彼は一瞬、口籠る「これは……これは、団長の作戦だ」


 立ち上がりかけたオリパスは、片膝を抱えて丸くなる。


「……は?」


 キャリーはその言葉を信じる事は出来なかった。メアリーが自分の命を捨ててまで、そんな事をするはずがないと分かっているからだ。


「嘘だ! 嘘だ、嘘だ、嘘だ! メア姉がそんなのするはずがない!」


 キャリーは必死に首を横に振る。しかし、オリパスは嘘じゃないと言葉を叩きつけた。


「これはメアリーが出した決断だ。俺たちは技術の街スタックタウンの独立の為に戦った。彼女の祝福の力はお前も知っているだろう?」


 すべてを威圧できある力。

 キャリーを拒んだ力だ。


「俺たちは少しずつだが、領土を広げて行ったんだ。それで、もう十分、独立の為の領土を手に入れた一年前、気付いたんだよ……戦争を止める事が出来ないって事に……」


 オリパスは頭を抱えた。


「どういう事?」


「俺たちは強すぎたんだ。最初はほとんど、ファイアナド騎士団だけで戦っていた。だけど、時間を重ねる事にスタックタウン自体に力がついて来たんだ。それはほとんど、ここ、神の国バシレイアと同じぐらいに。そこにファイアナド騎士団の戦力を足したら余裕で俺たちは勝てる。その時、軌道に乗っていた仲間の中にはこのまま、さらに進軍して、領土を広げようと言い出す者も現れて来たんだ。だが、そうすれば、その近くの村の人々にも唯一の安全区域の交通網にも手を出す事になる。そうなれば、他の所が黙っちゃいない」


「だからって、メア姉が首を差し出す事はないでしょ!」


 話を聞いていたキャリーは、思っている事を口に出した。その時、足の力が勝手に抜ける。

 体が浮いた様に視界が空を写す。


 地面に倒れてそのまま、丘を転げ落ちると思った。だけど、そうはならなかった。

 オリパスに抱かれて倒れずにすんだのだ。


「あぁ、そうだ。ここで何もなく止める事が出来たならメアリーはあんな真似しなくてすんだんだ」


 キャリーを抱えながらオリパスは頷いた。


「だが、そうはならなかった。スタックタウンはダメージを受けなきゃ止まらないし、何よりバシレイアが素直に認める訳がない」


 オリパスは肩を貸して、キャリーを丘の木の根元に座らせる。それからほつれていた足の包帯を巻き直し始めた。


「俺たちは必死になって考えたさ、だが、上手い案はないか探した。だが、意向に浮かばなかった。例え、ここで騎士団だけが戦争を降りたとしても、スタックタウンは進軍をやめない。そうなれば、どちらかが滅ぶか、このまま永遠に大陸を壊すほどの戦いになっていただろう……チッどうして、こんなにほつれてんだよ」


 話の途中でオリパスはキャリーの解れた包帯に文句を言う。


「うっさい、文句があるならやるな」


「目障りなんだよ。人が話してる時に倒れられるのは……」


 二人は文句を言い合ったが、お互いやるせない気持ちだけしか残らない。しばらく、黙っていたがキャリーはこんな事になってしまった訳を知りたいと思うようになった。オリパスの顔を見つめる。


 自分と同じように目元が赤くはれていた。


「戦争を止める為にはスタックタウンの力を押さえて、バシレイアが納得のいく条件を出さなきゃいけなかって事?」


 オリパスは頷く。


「あぁ、そうだ……だけど、俺たち雇われの騎士団が好きに出来るのは限られている。俺もメアリーも必死に考えたんだ。だが、一向にいい案は出なかった。でも、ある日メアリーに呼び出されたんだ。その時にあいつは自分の命が全ての条件を満たして相応しいって言ったんだよ」


「嘘だ!」


「嘘じゃない!」彼はそう、言い切った。「嘘だったらどれだけ良かったか……」


 オリパスは頭を抱える。


「俺だって、信じたくもなかったし、納得もしていない。だけど、あいつの祝福の力はそれだけの価値がある」


 彼は目線をこちらに向けた。

 キャリーはゾクッと全身が震えるのを感じる。


「……」


 頷く事しか出来なかった。それは、メアリーの事が大好きなキャリーだから、メアリーの事を知らないわけがない。あの祝福の力も優しさもキャリー全部知っていた。

 オリパスはただ、自分に言い聞かせる様に話を続ける。


「メアリーの力は人を優位に超えている。気迫だけで、人を圧倒できるんだからな。武器を取れば敵はいない……」


 話を聞いていたキャリーは抱き抱えていた袋を見つめる。


(そうだ、確かにそうだ、メア姉の力はあたしと同じで人の物じゃない。その祝福の力があればなんだって出来た)


「メアリーの首を差し出せば、バシレイアは素直に身を引ける。そして、スタックタウンには大きな痛手で下手に進軍できない。だから、メアリーは俺を連れてバシレイアに乗り込んだ。そこで首を差し出して、交渉を俺に任せたんだよ……」


 オリパスは話し終えると立ち上がり、木に怒りをぶつける。そして、どちらとも言い難い悲痛な叫びをあげる。

 そんな様子を見てキャリーはやっと全体がわかって来た。


「昔、言ってたね。メア姉に質問されたら、みんな嫌でもイエスって言っちゃうんだって」


 悲痛な叫びをあげて拳を震わせていたオリパスは一瞬、何を言われているのか分からない顔をした。がいつかのあの日の事だと思い出す。


「あぁ、そうだ。あいつがどんな時でも、俺はイエスって言っちまう。否定する事が出来なかったんだ。すまない……俺は裏切り者だ。仲間に内緒でメアリーを売って、あいつの意思を最後まで聞いてやれなかった。お前が出て行った後、俺もあとを追った。だけど、お前が助けるのをどさくさに紛れて手助けしようとしたんだが無理だった……すまない、勝手にお前に期待しちまった。自分の意思で動く事が出来なかった」


 オリパスは膝を降り、両手を地面につけて頭を下げる。

 キャリーは袋を抱きしめながら目を背く事しか出来なかった。


 こいつを許せないはずなのに、殴りたい程、恨んでいるのに、今はどうしていいのか分からない。


—疲れた……—


 キャリーは体を丸めながらオリパスに一つお願いをする。


「ここを掘って……」


「え?」


「ここの木の根元を掘って、メア姉の頭をここに埋める。あたしがどんなに早く走ってもメア姉を腐らせちゃう、それは嫌だ。だから……手伝え」


 オリパスは分かったと言って、キャリーの横で穴を降り始める。

 そうして、オリパスの腕がすっぽり入るぐらいの深い穴を掘った。


「このぐらいでいいか?」


 泥だらけのオリパスは聞く。


「うん」


 キャリーは軽く頷いた。


「あとはあたし一人でやる」


「分かった」


 彼はそう答えると潔く丘を下って行く。


「…………」


 ようやく、一人になれたキャリーは立ち上がり、抱きしめていた袋をそっと穴に入れる。

 そして、丁寧に土を被せて掘り返されない様に硬く押し込んだ。


 穴を埋め切った時、ようやく、最後のやるべき事をやり切った彼女の黄色い瞳からポロポロと涙を流す事が許される。


 でも、嗚咽ばかりで声が出せず苦しい思いをする。

 もう、ここには誰もいないのに声をあげて泣くことが出来なかった。

 どうしたらいいのか、分からない。


 この国を恨めばいいのか、全てを投げ捨ててどこかに消えて仕舞えばいいのか。

 今、自分は泣きたいのに泣き方を忘れてしまった。


 上手く泣けないで苦しんでいる時、ふと、あの日の焚き火で目覚めた時のメア姉の顔が思い浮ぶ。

 キャリーは顔をあげて、空を睨む。

 締め付けられる首を掻きむしりながら空目掛けて叫んだ。


「メア姉に会いたいよ! 生きてて欲しかった! なんで? なんで、死んじゃったの! どうして、死のうとしたの? メア姉には祝福の力があったじゃん。その力で争ってよ! 置いて行かないで……行かないで」


 少女は丘の上で一人寂しく泣いていた。

あやしいものじゃないよ、あやかしだよ。

どうも、あやかしの濫です。

誰か一人を犠牲に、戦争が終わるなんて悪くない話に感じられますよね。しかし、本当にこれで争いは、終わる事が出来たのでしょうか……?

 ついに「Lastly key you 」は、これで完結です。

続けて見ていただいた方、本当にありがとうござます。

 「Lastly key you 」を読んでいただき、ありがとうございます。

キャリー・ピジュンの冒険に興味を持ってくださったら、

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