八重する企みと囚人たち Lv.4(十一話)
脱獄の疑いで連れてかれたリードは、その気はないことと、あれは誤解だと説得する。
今回は注意と言う形でシャーフの長話に付き合う羽目になった。
「では、この後の刑務作業、頼んだぞ」
「ヘェ〜い」
「それともう一つ聞きたいんだが」
「なんすか?」
「りんごの芯があの場に転がっていた。貴様、つまみ食いでもしたか?」
「してませんって。あははは」
適当な返事でも解放されて、無事にアンの元へ戻る事ができた。
「あっ、おかえり」
木箱を二つ抱えながらアンは言う。
「酷い目にあった。どんな感じだ?」
リードは鼻の上を押さえながら聞く。
自分でも見るつもりだ。
「今は、キャリーちゃんとダインが下で大きな荷物を運んでる最中だよ」
こっちではアンとサチが上げられて来た荷物を運び入れているのだと分かる。
「よし、手は足りてるな」
「そんな事ないよ」
「俺は、肉体労働は専門外なんだよ」
「ほぉ、サボる気だったのか?」
背後から冷たい空気が背筋を凍らせる。
「ひぃー! シャーフ、さんじゃないですか。んなわけないでしょ」
そう言って駆け足で積み上げられた荷物の山に向かう。
その中で一番小さい箱を手に取る。しかし、想像の数倍重く、上げられずにいた。
「……」
全く動かせる気がしない。
「テメェ何入ってんだよ。こんなか!」
思わず今まで隠していた本性が出てしまう。
「食料だ」
「嘘つけ!」
その通り、リードも先ほど中身を確認したが、食料は上の方だけだ。
下の方には黒い鉄球や火薬、武器などが入っている。
「リ、リードさん……」
横からサチが話しかけて来た。
「何だ、テメェ煽りに来たのか!」
「リード、落ち着いて」
アンが宥める。
サチはビクン、と肩を震わせながら話なす。
「違いますよ。私も持ち上げるの大変で、一緒に運んでくれませんか」
リードは箱を見てから答える。
「あぁ、いいぞ。取り敢えずそっちを持て」
顎で反対側を指す。
「「せーの」」
掛け声に合わせて持ち上げた。
二人がかりでも重い箱だった。
「クソ、あのガキ。俺と同じ身長なのにこんな重いのを運んでんできたのか!」
アンは気づいていた、キャリーの方が、少し身長が高い事をリードはなかった事にしていることを。
荷物を運ぶ二人を微笑ましそうに眺める。
リードの言葉でアンはある事を思い出し、口を開いた。
「それ、ダインが初めに持って来たやつだよ」
「ハァ⁉︎」
「リードさん、もうちょっと、そっち側持ってください」
三人はわいわい騒ぎながら最初の荷物を運び切る。
「はぁーマジで意味分かんねぇ」
肩を落としながらリードはため息をこぼす。
もう、へとへとの様子だった。
「叫びながら運ぶからですよ」
「うっせえ」
「二人は、もう少し軽い物から運んだら?」
「そうします」
不意にアンが笑い出した。
「何笑ってんだよ」
「うんん、ただ、こんな風に働くのって初めての様でちょっと楽しくて」
今まで盗みや息を潜めて悪事を働くのが、普通だったアンには新鮮な物だったらしい。
彼女たちが話しながら戻ってみるとシャーフの元に他の看守が話を聞きに来ていた。
三人は横を通り過ぎる。
「あぁ、貴様ら」
意外なことに呼び止められた。
リードは少し警戒して睨みながら尋ねる。
「なんだよ?」
「実は今、このファドン刑務所に名簿に存在しない囚人がいるらしいんだ」
「存在しない囚人?」
リードの問いかけにシャーフは頷く。
彼の隣にいた看守が説明する。
「あぁ、現在、うちには二種類の投獄者がいる。一つは貴様らの様に罪を犯したクズ共だ」
クズと言われて少しムッとなる。
実際、その通りだから仕方ない。けど、言われると嫌なもんだ。
「二つ目はスタックタウンに加担した間抜け共だ。彼らの中で問題がなさそうな者たちは、後日、釈放する予定だ」
「羨ましいぜ」
適当な事を言いながら後ろ手に頭を支える。
「それでだ」看守は一息置いて話す。「誤って他の牢にぶち込まれていたり、人数に誤りがないか調べていたのだが……」
彼は口籠る。
「合わないのだ。本来、あり得ないはずなのだが一人名簿より多いんだ」
「……」
「数え間違えだろ」
リードは嘲る様にみる。しかし、シャーフがあり得ないと言った。
「調べたのがヘンリクさんだからあり得ない」
「もしかすると俺も歳なのかもな」
「そんなわけないですよ」
シャーフの様子を見てアンは思わず口を開いた。
「随分と信頼なさってるんですね」
キョトンとした顔で彼女は二人の看守を見る。
一人は水色の髪に夕日の青とオレンジが混ざった瞳の青年。
もう一人は伸びた無精髭と疲れの黒いクマをした男だった。正直、彼からやる気は感じられない。
いつも、気怠そうにしている所を見かけるからだ。
シャーフは何を当たり前だと言いたげにアンを睨む。
「当然です。この方はファドン刑務所の心臓とも言えるシステムを開発したお方です」
彼は讃える様にヘンリクと言う男を手で指した。
刑務所の心臓とも言えるシステム?
一体何のことか分からずに三人の囚人は首を傾げる。
シャーフは呆れた様にため息を吐く。
「貴様らがつけている手枷だ」
彼女たちの手首を指差した。
銀色に何やらカクカクとした模様と読めない文字が刻まれている。
アンとリードは収監の際につけられたのを思い出した。
「呪文を唱える事で囚人を地面に這いつくばらせる魔法が刻まれているんです」
"ダウン・リブストック!"
掛け声と共に全身が支えられない程、重くなるのを思い出す。
「あれか……」
リードは小さく呟いた。
「貴様らの手枷にはそういう呪文とこちらが認知できる様の呪文も入っています」
シャープの言葉に続けてヘンリクは話す。
「だが、私の魔術でも存在しない囚人が誰なのか把握する事ができないのだ」
一様、犯罪者と反乱分子は分けてあるがと付け足す。
「貴様らも何かしらないか?」
彼の問いかけにアンとリードは首を振る。
「そうか……もし、見つけたら我々に報告しろ。そうすれば、刑を軽くする事を前向きに考える」
ヘンリクはシャーフに別れを告げて他の人に話を聞きに行った。
「こうなると手探りでやるしかないんですよ……」
誰になく看守長補佐官は呟く。
彼は向きを変えて囚人に鞭打つ様に言った。
「さてと……貴方たちには、もう少し働いてもらいますからね」
「マジか……」
思わず嫌がるリードだった。そんな彼女をアンは宥めながら二つの木箱を持ち上げる。
「くっそ……おい、サチ、手伝え!」
荷物を運ぼうと同室のサチを呼ぶ。しかし、彼女はどこか浮かない顔をしていた。
「……」
「おい」
肘でどつく。
「わぁ! ごめん」
「ごめん?」
「あっいや、ごめんなさい……」
サチは慌ててリードが運ぼうとした荷物の元へ行く。
「これを運べばいいんですよね?」
彼女はそう言って腰を下ろし、持ち上げる準備をした。
挙動不審な様子はおそらくさっきの話しの時からだとリードは予想する。
(とするとまさか……)
空想じみた推測が頭をよぎった。しかし、あり得ないと思い笑い飛ばす。
「馬鹿馬鹿しい……」
リードは嫌々、刑務作業を再開した。
あやしいものじゃないよ、あやかしだよ。
どうも、あやかしの濫です。
X(旧Twitter)をまだまだ使えこなせていない今日、この頃。
今回は、女囚の皆さんが和やかに刑務作業をしていましたね。
それにしても、存在しない囚人とはいったい誰なのでしょうか?
次回もお楽しみに下さい!
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