八重する企みと囚人たち Lv.4(九話)
けたたましい音と共に外にアン、リード。そして、サチの三人は、出るよう指示される
赤髪の看守は厳しい目線を向けながら怒鳴りつけてくる。
「さっさと出ろ! 貴様らにはこれから刑務作業をしてもらう」
朝、無理やり叩き起こすみたいに、うるさくするなと、リードは内心呆れていた。
「なんだ、その目は?」
ギロリと睨まれる。
急いで目を逸らした。
(げっ目、付けられた……)
「貴様、たるんでるな。もっと、シャキッとしろ」
こう言う暑苦しい奴は他で間に合っているからとリードは遠い目でアンの方を見る。
(あいつは態度じゃなくて、体だけどな……)
赤髪の看守は三人が出たことを確認すると牢の扉を閉めた。
「あれ、お婆さんは来ないんですか?」
「あぁ、力仕事だからな」
そう言いながら彼は歩くように指示を出す。
「貴様らには荷物運びをやってもらう」
なんで俺たちなんだよ、と思ったリードは、サチに尋ねるよう、肘で脇腹を突く。
「イタッ」
「ん? どうした、腹が痛いのか」
「い、いえ……なんで、私たちなのかなって? 男性の囚人に任せるものだと思ってしまって……」
最もだと言いたげな反応を見せる。
「なんでも、貴様らにやらせた方がマシだとシャーフ看守長補佐官が言っていたからな。俺も詳しい事は知らん。まあ、大柄な貴様がいるから問題ないだろう」
アンの方を見て言う。
体格に関しては、ダインに認めてもらえて嬉しかったが、まだ、気にしている節がありアンは後ろめたそうに目を逸らした。
「ん……あっ! シャーフ!」
突然、赤髪の看守は叫び出す。
指を刺して前にいた小柄で、水色の髪をしたシャーフを指差した。
彼も声に気づき後ろを振り返る。
「あぁ、ノアルアか」
ノアルアと呼ばれた赤髪の看守は嬉しそうに近づく。
「ちょうど良かった。囚人たちがなんで自分らが刑務作業をするのか聞いて来たんだが、なんで何だ? 俺も気になってよ……ん? その子は?」
刑務作業について聞こうとしたノアルアだったが、隣にいる可愛らしい子に気を引かれる。
綺麗な金髪に、黄色い瞳の少女。
彼女は暗い顔をして、目元は赤く腫れている。
ここでは見ない顔だった。
ノアルアはハッとして叫ぶ。
「まさか、看守長に!」
ここでの問題の八割はアシュメ看守長だ。
この子にも何かしたのかと思った。
シャーフは肩をすくめて事情を話そうとする。すると、ノアルアの後ろにいたアンが目の前の少女に気づく。
「あれ、キャリーちゃん。どうしてここにいるの?」
名前を呼ばれて、少女が顔を上げるとそこには、筋骨隆々でマルタのように太い手足。
髪はふんわりとした薄い金髪で、ボロい囚人服を着たアンが立っていた。
キャリーはハッと目を見開く。
何も言わず、アンに吸い込まれるように近づいた。
「?」
そして、がっしりと彼女の胴体にしがみつく。
「キャリーちゃん、どうした?」
困惑するアンに、キャリーは何も答えず首を振るだけだった。
ふと、この子が今泣いていることに気づく。
静かに溢れる涙を服でナビっていた。
どうしたものかとリードの方を見る。
「知るか」そっぽを向かれてしまった。「そもそも、こいつは俺たちを捕まえたガキだ。突き飛ばせ」
彼女の手荒な提案にアンは困る。
「可哀想だよ……」
「なら、落ち着くまで連れてってちまえ」
自分たちの刑務作業があると言うのにキャリーを連れて行くのはちょっとと思ってしまった。しかし、意外な事にシャーフは問題ないと言う。
「君たちは合同でやってもらうから、構わないです」
なら問題ないかとアンはキャリーを抱え上げて行く事に。
外に出ると冷たい風が吹き込む。
彼女たちは二つ目の門を出て、坂を降り、一つ目の門の前まで行く。
途中、周囲の待機中の兵士たちの冷たい視線が気になったりする。
前を歩いていたシャーフは足を止めて振り返った。
「キャリーさん、僕たちは物資のある場所まで行きます。そろそろ、グズルのをやめて貰えますか?」
彼の言葉に一瞬、キャリーはアンの囚人服を掴む。だけど、すぐに手放して離れようと肩を押して顔を上げた。
アンもゆっくりとキャリーのことをおろしてあげる。
「ありがとう……」
少女は静かに呟く。
「どういたしまして」
アンが言い終わる前にキャリーはシャーフと共に壁の外へ出て行ってしまった。
「貴様らは、あの子供が荷物を運んでくるまで待機だ」
ノアルアは指示を出す。
「ゲッ! あいつの手伝いをするのかよ」
リードは思わず叫んでしまう。
「貴様、文句でもあるのか!」
あんな奴の手伝いなんてしたくない、と言いそうになるが、口を塞ぐ。
罰を受けるわけにはいかないと思った。
「あの子、大丈夫かな?」
アンは心配そうに一つ目の門の方を見ていた。
「あの子と知り合いなんですか?」
サチが尋ねる。
「うん、私とダインを引き合わせてくれた子なんだ」
路地裏での再会を思い出す。
その頃は特段、ダインの事を意識していなかった。
時々見る、雇われの骨のない屈強な用心棒だと思っていた。
そんな事よりキャリーが可愛くて、楽しかったことしか覚えていない。
でも、その後、彼の告白を聞いて惚れてしまったのだ。
顔を赤くするアンだったが、すぐに暗い顔を浮かべる。
(やっぱり、会いに来てくれなかった……嫌われちゃったかな?)
今朝の事で心が虚しくなった。
彼がもう来ないんだと思うと寂しくて、悲しくなる。
俯きかけた。その時、後ろから獣のような響く声で叫ぶ者がいた。
「アァァァァァァァン!」
アンは思わず振り返る。
そこには、筋骨隆々で一途に自分のことを愛してくれる男が堂々と会っていた。
「ダイン!」
アンは思わず走り出す。
ダインも同じように走り出した。
「アァァン!」
「ダイン!」
アンは息良いよくダインに飛びつく。
彼は彼女の体を軽々と受け止めて、勢いを逃すように一回転して抱きしめた。
「あぁ、良かった。会えて良かった! 看守長に今日は帰れと言われてしまって……どうしようと思っていたところだったんです」
「私も、私も……もう、会えないんじゃないかって思ってた……」
ダインは彼女の方を見て驚いた顔を見せる。
「そんなはずないだろ! 私がどれだけ君への愛を語って来たと思っているんですか。あり得ない!」
ようそね、そうだね、とアンは頷く。
嬉しくて笑みが溢れて来た。
突然、ダインは跪きアンの手を握る。
「私は君に謝らなくてはいけない」
謝る?
あなたが謝ることなんて何もない。
アンも同じ目線に立とうとした。しかし、彼の熱い眼差しにそんな真似ができないとすぐに分かる。
「私が……私が間違っていたんだ。もっと、もっと稼いでみんな幸せに暮らそう。だから、嫌いにならないでくれ」
懇願する彼の思いをアンはノーなどと言えなかった。
リードと三人で一緒にいられる。
させてくれる。
彼の決意と優しさにアンの瞳から涙が溢れてくる。
ダインは慌てて心配したが、彼女はなんでもないと言って抱きしめるのだった。
「良かったな、友よ……」
その様子をルークはジッと誇らしそうに見つめる。
反対側にいたサチもまた、胸を熱くして見ていた。
「良かった……」
ただ一人、面白くないと思う者がいる。
この中で誰よりも背が小さく、女のような色っぽさも可愛げも何一つ持ち合わせていないリードだけだった。
ただ一つ持っているとすれば、他者の不幸や偶然を我が物にできる陰湿な目だけだ。
彼女は目を逸らし、小さく呟く。
「馬鹿馬鹿しい……」
あやしいものじゃないよ、あやかしだよ。
どうも、あやかしの濫です。
最近、X(Twitter)始めました。
まだまだ、使いこなせてないですが……
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告知はこの辺にして、アン、リードとアイオライト組が合流しましたね。
以前の宿敵相手になつきすぎでは、
懐いてるのに何故、捕まえた? と思った方は多いでしょう。
あの子なりの謎の分別と言うか、優先順位があるんです。
一番上にはランサン郵便の依頼を優先があり、その次に好き嫌い。
こんな感じなんですよ。
(アンのお腹ぜってぇあったけぇ~だろ……)
「抱いてくれるよ。ダインが」
(NO!)