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八重する企みと囚人たち Lv.4(七話)

 何もない殺風景な部屋で待たされていたキャリーたちはシャーフの案内の元、看守長の部屋へと案内された。

 二度のノックの後にシャーフは扉を開けて中に入る。


「失礼します」


 中に入ると目の前にはマゼンタピンクの髪に黄緑色の目をした女の人。

シャーフと同じ白い線が入った、黒いコートの制服を着こなす美人。

椅子に座って待ち構えていた。

 彼女は微笑みながら口を開く。


「わざわざ、遠いところからお越し下さりありがとうございます」


「どうも」


 ルークは啓礼と共に自己紹介をしようとした。


「ルーク・エンゲルさんね。先ほど、シャーフくんからお名前は聞きました」


 ルークの言葉を遮って彼女は話す。


「それで、そちらの……あら、いい男♡ はダイン・カメネフね。毎日、うちに来てくれているらしいじゃない。入りたかったら、いつでも私に言ってちょうだい。歓迎するわ。フフ♡」


 椅子を引いて立ち上がる。

 相手はジョークで言っているつもりだろうが、ダインはムッとする。


「いいえ、その様なことは一生ないでしょう」


 キッパリと断る。

 看守長は数回笑う程度だった。


「私はここの看守長を務めます。アシュメ・ダイです。よろしく」


「アシュメ看守長。先に一つよろしいでしょうか?」


 シャーフは前に出て言う。


「なーに? シャーフくん」


 アシュメはドキドキと楽しみそうに笑っていた。


「中庭のあれのせいで、彼らに不快感を与えています。どうしてくれるんですか?」


 アシュメは一瞬、何のことか分からずいたが、すぐに思い出す。


「あーはい、はい、あれは見せしめ半分、私の趣味だから仕方ないじゃない」


「趣味!」


 彼女の悪びれない態度にルークは思わず叫びだす。


「あら、もしかしてルーク・エンゲルさんも、あの様な過激なご趣味をお持ちで?」


「ふざけないで下さい!」


「ほんの冗談ですよ」


 頭に血が昇りそうになる寸前、シャーフが手で納める。

 下がっていてくださいと言いたげに。

 彼女は微笑みながら話す。


「彼らは問題を起こしたのです。看守長として、罰を与えるのは当然の責務なんです」


 シャーフも言いたい事があり口を挟む。


「三人の囚人だけです」


「一人は骨がありそうだと思ったのだけれども……」


「二人の看守の件はどう説明するんですか?」


「生意気な子たちだったから、黙らせちゃった♡ 命はとってないわ」


「何もしてない方もいましたよね」


「タイプだったから襲っちゃった♡」


「いい加減にしてください」


「シャーフ、さっきからうるさいわね。ディープキッスされたいの。全然してあげてもいいわよ♡」


「黙ります!」


 そう言って、彼はルークの背後に隠れてしまった。


 情けない。


 アシュメは呆れた様子でため息をこぼす。

 コツコツと机を叩きながら言った。


「私への尋問はもう良いですか? そろそろ、こちらの本題に移りたいのですが」


 この場の誰も納得いかない。しかし、彼女のズレた感性に、どう言えば良いか分からずにいた。

ただ、一人だけ尋ねることが出来た。


「人をあんな風に扱うなんて、酷い事だと思わないの?」


 声のする方をアシュメが見ると綺麗な金髪に、黄色い瞳の可愛い顔をした少女が眉に皺を寄せていた。

 堂々と立ちまっすぐにアシュメに間違いだと、訴えてきているようだった。

 どこから迷い込んだのだろうと疑問が浮かぶ。


「誰、この子?」


「あたしはキャリー・ピジュン。荷物を運びに来たの」


「キャリー……ピジュン……」


 アシュメは一瞬考え込む様に俯き、目を見開く。


「あなた、ランサン郵便協会のキャリー・ピジュンなの!」


 驚く看守長に引き気味でキャリーは頷く。


「なんて素敵な日なのかしら♡ まさか、あの伝説の三鳥に出会えるなんて!」


 彼女は飛び上がり、キャリーに近づこうとした。

 一瞬、触れられたら命がないと感じる。


 どんよりとした触手で捕まれたら二度と離してもらえない。そんな気がした。


 キャリーは瞬く間にアシュメの裏に回り込み、机の後ろに隠れた。

 次に相手はどう動くのか鋭い目線で見つめる彼女は小刻みに震えていた。


「フフ、噂どおりの速い子ね」


「アシュメ看守長。三鳥とは何ですか?」


 彼女が今度は何に興奮しているのか、分からなかったシャーフは尋ねる。


「あら、知らないの? 物流、魔物の討伐、その他、活動などの仲介役や実行してくれるランサン郵便。あそこを確固たる事業に仕立て上げた一人……いいえ、一羽の可愛い小鳥ちゃんよ」


 微笑みながらアシュメは手招きをする。

 おいで、何もしないからと言いたげだ。

 だが、この場にいる全員が予感していた。

 


—絶対、何かすると—

 

 その通りだ。


 アシュメはあわよくばキャリーをもっと近くで見てみたい。

 捕まえても良いから、と腰にある二つのリングに手を伸ばしかけていた。


「……」


 キャリーは怖くて動こうとしない。

 やはり、疑われたかと思ったアシュメは一度、諦めることにした。

 小鳥ちゃんが来たと言うことは、おそらく彼女が荷物を運んでくれる。


 そう考えたアシュメは、向きを変えてルークたちに目線を向ける。


「さてと、そろそろ、仕事の話をしましょう」


 今抱えている問題を話し始めた。


「ここ、ファドン刑務所はスタックタウンとの戦争中は通常の囚人に加え、捕まえた捕虜を幽閉するためにも使われていたの。でも、戦争は終わった」


 元々いた囚人に比べ、スタックタウンの捕虜は倍近く収監されている。


「食料が底をつきそうなのよ。小鳥ちゃんには麓の食料を運んできてもらっていいかしら?」


 ニンマリと微笑みながらアシュメはキャリーの方を見る。

 シルバーから聞かされていた内容と殆ど同じである。


 机の裏に隠れながらもキャリーはこくりと返事をした。

 話は以上と言いたげなアシュメにルークは聞く。


「ん……それだけか?」


「えぇ、それだけよ。本当は抱えている捕虜を釈放してあげたいのだけれど、今は現実的に厳しいの。彼らを束にして放てば、牙を向けて戻ってくる。火を見るより明らかでしょ」


 ルークはアシュメの考えを読み解く。


(なるほど、本当はシルバー様を呼んで、安全に捕虜を解放しようとしていたのか……)


 しかし、この程度ではあの人は動かない。

 アシュメは厄介な現状に頭を抱えて、小言を言う。


「はー、メアリー・ホルスには死ぬ前に捕虜たちを連れ帰って欲しかったわ。あぁ〜でも、あったら、あったで襲いたくなっちゃうかも♡」


 頬を押さえながら顔を熱らせて早口になる。


「強者だった彼女が、自ら首を差し出すなんて、今でも信じられないわ。どうせなら、うちに預けてくれれば良かったのに。そしたら、私好みにイッぱ~い犯せたのよ。優しくして、醜くして、そして、また優しくしてあげたのに。死ぬなんて、飛んだ大馬鹿娘だったのでしょうね。きっと、アンアンキャンキャン、雌犬の様にいい声で泣いてくれたのに!」


 クスリと高笑いを始めようとした瞬間、彼女の頬に強い衝撃が走る。


「メア姉を馬鹿にするなぁ!」


 大切な人を汚そうと考えている奴がいる。

 そんなのは許せない。

 キャリーは、アシュメ看守長に手を出してしまった。


 どれ程の失態とも考えずに。


「アハっん♡」


「キャリー! 何やってるんだ!」


「キャリー! すぐに謝りなさい」


「うるさい! メア姉を悪く言う奴は許さない」


 彼女の言葉に場が凍りつく。

 ここでキャリーは間違いを犯した事に気づく。

 唖然とする彼女にシャーフはレイピアを向ける。


「メアリー・ホルスの信徒か!」


「違う!」


 キャリーは首を振るが、信じてもらえなかった。

 危険な状況を収めなくてはと、ルークとダインが動こうとした。


「辞めなさい」


 その時、アシュメが手の平をシャーフに見せて止めさせる。

 唇を切ってしまい血が滲みでる。

 彼女は拭き取り、ペロリと舐めた。


「取り敢えず、シャーフくん、剣を収めて」


「はい」


 言われた通りに彼は動く。

 アシュメは一息置いて、少女の方を見た。


「あなたがメアリー・ホルスと仲が良かった事は知ってたわ。でも、ここで私に歯向かうって事は、どう言う意味か分かるわよね」


 冷ややかな視線、キャリーは何も言えずにいた。


「……」


「この事を雇い主に話さなきゃいけないわ。ルーク・エンゲルさん、正直に話してちょうだい。この子の仲間は居たりするの?」


 彼女の問いかけにルークは一瞬躊躇ったが、正直に話した。


「あぁ、サソリの心臓、副団長オリパスとサソリの尻尾、暗殺者レサトが居ました……」


「あら! なかなかの粒揃いじゃない♡ 全員まとめてここにぶち込んであげましょ!」


「ダメ!」


 思わず口を挟んでしまう。

 オリパスやレサトには、迷惑をかけたくなかった。


「そうね、言われたくないわよね。彼らは仮にも私たちの敵だったのだから、ただじゃ済まさないわ」


 ここでようやく、自分のやらかしに気づいたキャリーは顔を青くする。


「ご……ごめんなさい……」


 謝る彼女の頬を撫でながらアシュメは笑った。


「今更、謝ったって遅いわよ。シャーフ、この子を独房へ♡」


「よ、よろしいのですか?」


 うろたえる彼に看守長は厳しく言う。


「看守への暴行は罪になるのよ」


「……それではこちらへ」


 キャリーの肩を抑えて、連れて行こうとする。

 部屋を出る時、思い出したようにアシュメは、キャリーに抱きつく。


 どんよりとした甘い吐息がキャリーの耳に当たる。

 全身に鳥肌が浮かぶ。


 心臓の音がけたたましくなるのが分かる。


「分かってるでしょうけど、逃げたら承知しないわ。大人しく待ってなさい。そしたら……はぁ、たっぷり可愛がってあ♡ げ♡ る♡」


 最後の言葉でキャリーは恐怖のあまり涙をポツリポツリと流してしまう。

 キャリーはゆっくりとシャーフに連れられて部屋を後にした。


「フフ……♡」


「「……」」


 残されたルークとダインの視線を気にせず、この後のお楽しみにワクワクと心を踊らせていたアシュメ。しかし、まだやる事は残っていると二人の方に向きを変える。


「さてと、ここからは大人の時間ね」


 不敵に笑みを浮かべながら彼女は扉をしっかりと閉めたのだった。

あやしいものじゃないよ、あやかしだよ。

どうも、あやかしの濫です。

当初、アシュメを考えた際、こんな奴いていいのか心配になったんですよ。

もう、ホント、胃が痛かった……

でも、キャリーが連れていかれる際に、

彼女が抱き着いた、瞬間のキモさが、もう……刺さって、

アシュメ・ダイ最高では? と思ってしまったのは

内緒(隠す気0)の話です。

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