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Lastly key you Lv.5(七話)

 夕焼け空がだんだん暗くなり、街を彩るランプがともり街角から愉快な曲が流れる。

 人々は川の様に大通りを歩き始め出店は活気に溢れ始めていた。


 逃げる様に路地に行き、何もかもがひっくりかえる程に吐き出す。

 今にも熱を出して倒れそうなキャリーは、顔を上げる。


 大通りを見れば、黒紫な空に淡い黄色に輝く街のランプ、綺麗に彩られた街並みは、彼女から見ると正気とは思えないほど、グロテスクに見えた。


「メア姉……」


 寂しく彼女の名前を呟く。


(最後に止めないでくれれば……)


 キャリーは最後の瞬間を思い出す。しかし、もう、どうにもできないのだ。

 首を振って立ち上がり大通りに姿を見せる。


 ぼんやりとする意識の中で、転ばない様にゆっくりと俯いて前に歩いていると、香ばしい匂いが鼻を通る。


 顔を上げて見ると昼間、立ち寄った串焼きの出店があった。

 店主はせっせと肉をひっくり返して、焼けた串焼を客に渡していた。

 そんな様子をぼんやりと眺めていると店主のおっさんがキャリーに気づく。


「昼間のお嬢さんじゃないか! 仕事は片付いたのかい?」


 肉を焼く手を止めて彼は聞いてきた。しかし、キャリーは唇を震わせて喉がギュッと潰れた様に声が出せなかった。

 この気持ちを揺らしてしまうと、隠そうとする物が全部溢れ出しそうで、怖くて仕方なかった。


 ずっと黙っているキャリーに見かねた店主は、焼いてからしばらく経った古い串焼きをサッと焼き直す。


 タレをつけなおしてキャリーに手渡した。


「え……?」


 キャリーは思わず声を漏らす。

 その声は店主に聞こえるか、分からない程小さかった。

 店主はキャリーの驚いた顔を見ながら話す。


「ほら、一本食ってけ! そのようすじゃあ、仕事は上手くいかなかったんだろう」


 キャリーは口を大きく開けて串焼きにかぶりつく。

 肉はパサパサしている。でも、ソースはしっかり付いていて、あまじょっぱい、今じゃなきゃもっと、美味しく思えたはずだ。


 今、思えば、朝から今まで何も口にしていない。喉は未だ、キツく、塞ぎ込まれて苦しいが、食わねばと体は心と反対に無理矢理にも串焼きを味わっていく。


「美味しい……です……」


 キャリーはぼそっと呟く。


「そうだろ! ウチの串焼は美味いんだ!」


 店主の逞しく笑う姿を見てキャリーはどうしたらいいのか分からない。


 悔しさと悲しさと寂しさが頭の中を渦の様にかき混ぜられて、今食べている串焼きすらも吐き出してしまいそうなくらいに気持ち悪い。


 でも、隠さなきゃ、隠さなきゃ……


 力無いキャリーは自分にそう言い聞かせる。


 今にも溢れそうな涙を抑えていると懐かしい様な、愛しい様な、そんな、曖昧な空気がキャリーに吹く。

 顔を上げて振り返ると見覚えのある赤髪が大通りを歩いているのが見えた。しかし、その姿は淡い光になって一瞬で消えていってしまった。


 あれは幻だ。そう分かっていても、その幻影の後を追いかけたかった。


 キャリーはゆっくりと引っ張られる様に後を追いかける。

 立ち去る彼女の背中を見て、店主のおっちゃんは声をかけた。


「また、来いよ! 今度は金も用意してくれ」


 店主は最後までキャリーの背中を見る事はなく自分の仕事に戻る。


 キャリーは幻影に引っ張られる様に広場に向かっていた。

 そこでは大通りより沢山の人が行き交っており端の方で酒を飲み交わす集団もいた。


「グハハハ、美味いなぁ! いい酒じゃないか!」


「そりゃ、そうだろ! 五年前に熟成し始めたんだ、マズいわけないだろ! そういや、お前あれは見たのか?」


「あれってなんだよ?」


「さっき、処刑代で首を切った女だよ。広場の真ん中に飾ってんだよ」


「あぁ? そんな物どこにもねぇぜ」


「いや、あるってほら、あそこに……」


 酒飲みは震える指を広場の中央に向けたが、代の上には何もなかった。

 赤い血痕が見えたかもしれないが、酔っ払いには何も見えない。

 ただ、音楽に合わせて踊る人たちが回っている。


「おかしいなぁ、ひっく」


 酒飲みは頭をかきながらしゃっくりをした。

 付き添いの男は辺りを見渡して、一人の少女に声をかける。


「嬢ちゃん、広場に晒し首が置いてあるって聞いたんだけど、知ってるかい?」


 声をかけられた金髪の少女は大きな袋を抱き抱えながら振り返って答えた。


「いいや、知らないよ。てか、おじさんたちそんなの見ながら酒を飲むの? 趣味悪いね。そこで、踊っている綺麗なお姉さんたちを見た方が、よっぽど酒が進むよ……」


 男たちは一瞬、きょとんとしたが確かにそうだなと言いながら、ゲラゲラと笑い出す。


「そうだな、ありがとう。嬢ちゃん、良い夜を……」


 少女はすでに国の外へ向かって歩き始めていた。

あやしいものじゃいよ、あやかしだよ。

どうも、あやかしの濫です。

輝く街並みににぎわう通りはきっと華やかで楽しい物でしょう。しかし、彼女だけは違う。

大切な人を助けられず、嘆く場所もない。息苦しいでしょうね。

にしても、酔っ払いへの返しは悪くないんですよね。

「キャリー・ピジュンの冒険」を面白い、興味を持ったという方は、

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