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黄金 の森に住む娘と再燃する哀惜 Lv.1(一話)

 太陽の光で黄金の様に輝く森。

 小さな小道を抜けると、大きな塔が一つ立っていた。

 すぐ隣には小さな家が繋がっている。

 少女は手を伸ばして扉を叩いた。

「うん、武器の用意も周辺の防衛策も大丈夫……食料も特に平気だな、あとは向こうの動き次第だ 」


 テントの中に机を置いただけの作戦室で、地図を開きながら青年は頷く。


 神の国バシレイアから北西に進み、山に囲われた場所を眺めていた。


 彼が眺めている場所から東に目をやると小さな基地がある。これから戦いに行くのだが、別動隊が交渉に出ているため、今は待機をしている。


 連絡が来るのは明日なので今日、今すぐにやることはもう何もないのだ。


「んじゃ、今日はどうするんだ?」


 誰かが話しかけてきた。青年は顔を上げる。

 目の前には、紅い瞳に、炎の様に紅髪をした自分と同い年のメアリー・ホルスだった。

 彼女はファイアナド騎士団団長で、青年と幼馴染だ。


「メアリーか……村の周辺はどうだった? 何か異常はあったか?」


「いや、特に」


 メアリーは手を腰に当てながら、首を振る。


「そうか……」


 青年は困った顔を浮かべる。


「今日はもうやる事がない……」


「オリパス、それはいい事じゃねえか」


 メアリーは笑って返す。


 青年もといオリパスは顎に手を当てて考え込んだ。

 みんなに何と伝えていいのか分からなかったのだ。

 目を丸くして、必死に頭の中でどうするか考え続けてしまう。


(あっ固まっちゃった……)


 メアリーはフリーズするオリパスをジッと眺めていた。そこにファイアナド騎士団の幹部がやってくる。


「お? する事ないってマジ?」


「おい待て、サンツ! 逃げんな!」


「嫌だね、君みたいな脳筋にはロマンは分からないだろ」


 オリパスとメアリーの間で口論しているのは、祝福の力で虎の耳と尻尾をした少女オットーとあらゆる武器を使いこなす少年サンツだ。


「あんたら、今度は何で口論してんだ」


 呆れた顔だがどこか楽しそうにメアリーは聞く。


「こいつがまた私のことを馬鹿にしやがったんだ」


「馬鹿なのは元々だろ。そもそも、俺の戦い方にケチをつけたのが始まりじゃないか。そんな事より今日はやる事ないってマジなん?」


 サンツは目を輝かせながらメアリーを見る。

 メアリーは顎でオリパスを指しながら言った。


「あぁ、副団長がやる事なくて固まってるぐらいに何もない」


「ツーマーリー?」


 サンツは目を輝かせた。オットーを両手で指差しフリを送る。


「……?」


 しかし、うまく汲み取ってもらえず彼女は首を傾げた。仕方ないのでサンツは一人でバンザイをする。


「休みだ! フォー」


「休みか……」


 あーとメアリーは感心する。


 元々、オリパスとメアリーは貧民街出身のため、生きる為に動き続けていた。だから、休みと言う選択肢が浮かばなかったのだ。


 メアリーは一人頷いてから指示を出す。


「そうだな、今日一日は休みにしよう。オットー、サンツ、みんなに伝えて来てくれるか?」


「おう! メアリーさんの頼みならなんなりと」


「俺は酒場の方行くから、お前はレサトさんに伝えて来てくれ!」


 威勢のいい返事をするオットーに対して、サンツはあっという間に走り出していた。


「あぁ? ズルいぞ、勝手に決めるな! インチキヤロ!」


 嵐の様な二人だったとメアリーは一人感心していた。


(あの様子だと、レサさん達の方には行かないな)


 こっちで伝えに行くかと思った。その時、オリパスが口を開く。


「メアリー、お前も好きにしな、レサさん達の方は俺が伝えに行っとく」


「お? 良いのか?」


「あぁ、念の為、数人は見張りをつかせなきゃだから。正直、あいつらが行かなくてよかったと思ってる」


 オリパスは前髪を掻き上げながら言った。

 あぁ、とメアリーもなんとなくだが、想像がついた。

 あの二人の勢いなら見張り役全員まとめて休みだと言いそうだと。


「そう言うことなら、後は頼んだ」


 オリパスに手を振りながらメアリーはその場を後にする。



 

(とは言うもの、休みって何をしたらいいんだ?)


 人生初の休みに何をしたら良いのか分からずに道を歩いていると目の前に黄色い閃光が走る。


「キャリーか?」


 見えた場所から数メートル先の方を見ながら言う。


「メア姉?」


 そこには綺麗な金髪に黄色い瞳をした少女、キャリー・ピジュンが立っていた。

 彼女には雷をまとって走る祝福の力を持っていた。


 神の国バシレイアでは、まれに祝福の力持つものが生まれる。


 火や水を操る頂上的な能力や奇跡や身体能力の延長戦の能力を人々に与えられる。

 足が他の人より早い子供や難しい数式を生み出せる天才が持つ才能と似たようなものである。

 そして、メアリーもこの世の理を引き裂くほどの祝福の力を秘めているのだった。


 歩きながら挨拶をして少女の横につく。


「おう、どこ行くんだ?」


 キャリーはメアリーにくっつきながら答える。


「ランサン郵便協会で残り続けていた仕事を片付けに行くところ。メア姉はどうしたの? オリパスと一緒じゃないの?」


 彼女は首を傾げた。


「休みだって」


 肩をすくめながら答える。


「休み?」


「そう、つってもこれからどうするか、なーんにも考えてないんだけどね」


 空を見上げながら苦笑いを浮かべる。

 ふと、熱い視線を感じてキャリーの方を見る。

 黄色い瞳の中に星の様な煌めきを浮かべ熱い視線を送っていた。


「一緒に来ない?」


 がっしりと腕を掴んで見つめてきた。

 メアリーは一瞬考えてから、こくりと頷いた。


「いいぜ、どうせやる事ないし」


 ニカっと笑う。

 キャリーも真似てニカっと笑った。



 

 鬱蒼とする森の入り口に黄色い閃光と紅黒いモヤが高速で向かっていく。

 それはキャリーとメアリーだった。

 二人とも祝福の力をフルに使い、村からここまで競争していたのだ。


 キャリーが止まった時、横ではメアリーが木を蹴って薙ぎ倒していた。


「ほぼ、同時だね」


「はぁ、はぁ、やっぱりキャリーは速いな。あたしも結構全力で走ったのに抜かせなかったよ」


 額の汗を拭いながらメアリーは呟く。


「そんな事ないよ、メア姉はなんか木を薙ぎ倒してるもん。あたしにはできないよ!」


 少女は純粋無垢な眼差しで言った。

 メアリーは首を軽く振りながら答える。


「キャリーもいつかできる様になるさ」


「できないよ。そんな力、あたしにはないんだから」


「それはそうと、この先で合ってるのか?」


 森の奥を指しながら尋ねる。

 キャリーは依頼書を見ながら頷く。


「うん、合ってる。この先に塔があるんだって。でも、本当にあるかな? 見た感じあんまり見晴らし良くなさそうな場所なんだけど……」


「まあ、行ってみればわかる事だろ」


 メアリーは臆する事なく歩き出す。後を追う様にキャリーは走り出した。


「そうだね」


 二人はしばらく、薄暗い森の中を歩き続ける。

 ジメジメとした森にキャリーは段々怖いと思い始めていた。

 無意識にメアリーの腕に抱きついて歩く。


 不意に視界が明るくなった。

 チラチラと照らされて目がおかしくなりそうになる。


「ふぁ、綺麗」


 薄暗い森だった道は、太陽の光によって黄金の森に変わっていた。


「あれじゃないか?」


 メアリーは指を差し 尋ねる。

 目の前には小さな膨らみの上に塔が立っていた。そのすぐ真下には隣接された 小さな小屋 が立っている。


 キャリーはもう一度依頼書を眺めて確かめる。

 確かにこの家で間違いなさそうだ。


「ここみたいだよ。人住んでるのかな?」


 目の前の建物を見ながら首をかしげる。

 ジッとしていてもどうしようもないと二人は目を合わせて頷く。

 建物に近づき、扉を叩いてみた。


「ごめんください! ランサン郵便協会のものです。荷物をお届けに参りました……」


 キャリーは配達の時にいつも使うセリフを口にした。

 しばらく、待っているとコツコツと足音が聞こえてくる。

 次にガチャっと鍵が開く音が聞こえた。


「あーい、いらっしゃいどちらさま……ってさっき言ってたね。ランサン郵便なんとかって……」


 現れたのは長い、長い金髪を引き摺りながら、頭を掻く女性だった。


 ダラリと垂れた服を身にまとい、気だるげな眼を浮かべている。一番、目を引くのは彼女の長い、長い髪の毛だった。


 普通、長くても肩や腰ぐらいだ。しかし、目の前の彼女の髪は床につき、ずーっと部屋の奥に続いていた。さらにハリの上に引っ掛けるように髪を乗せている。


 入り口から見えるだけでも家の中は黄金の海の様に髪が伸びて地面が見えなかった。


「あーれー? どったの?」


 家の方を覗き込むキャリーを見ながら聞いた。

 キャリーはハッとなりここに来た目的を思い出す。

 鞄から小包と手紙を取り出した。


「お届けものです」


 女性は荷物を受け取ると中身が何か確認する。


「んー? あーお気に入りの紅茶だありがとう。嬉しいね。でもなんで知ってるの?」


 目を細めながら笑みを浮かべる。


「えっと、お届けの依頼があって……あのもう一つ探し物の……」


 目の前の女性の抜けた感じに不安を感じてしまいオドオドとした態度で話すキャリー。

 横で見ていたメアリーは補足を入れてやった。


「あたしらはずっと前に出された依頼を受けに来たんだ。覚えてないか?」


 メアリーの言葉に女性は考え込む。次の瞬間、何かを思い出してポンと手を叩く。


「あー思い出した。ずっと前、村に変なお店があったやつだ。うん、確かにそこで依頼を出したね。ごめんね、忘れてた」


 手を合わせながら謝る。

 それに対してメアリーは首を振る。


「いいんだ。もともとあたしらがほっといてたのが悪いから、依頼人のあんたは気にしなくていいよ」


「そーお? んじゃ、そういう事で。何はともあれ、うちに上がって。私はノーザンよろしくー」


 ノーザンと名乗った彼女は自分の髪を踏みながら部屋の中に入って行く。

 少しした後でいまだに中へ入ろうとしない二人に気がついた。


 キャリーたちはどうしたものかと床を眺めている。


 一面に広がるのは、ノーザンの長い髪だった。

 そういう事かと気づき彼女は自身の髪のことを話した。


「私の髪、ちょー長いっしょ。踏んでもいいよ、痛くないから。祝福の力でさ、多少無碍に扱っても気にならないから」


 ノーザンは髪を抱えて二人が通りやすい様に道を作る。しかし、抱えただけじゃ玄関の床だけが見えるようになっただけだった 。


 そんなことしていいのかな、と指をこねるキャリーは、メアリーと金髪の海を交互に見ていた。


 メアリーはキャリーの視線に気づいてから自身もどうしたものかと悩んだが、ノーザンが言うのだから良いのだろうと中に入って行く。


 キャリーも後に続いた。


 家に入って少し進むとちょっと不思議な建物の構造が見えた。

 この家はすぐ隣に塔が立っている。塔の根元に大きな穴が空いており、そこと繋げる様に家が立っていた。


 二人がジッと見ているのを見てノーザンは面白おかしく笑う。


「洒落てるっしょ、私のお気に入りなんだ」


「そうだな、にしてもなんでこんな穴が空いてるんだ?」


 メアリーが尋ねるとノーザンは塔の奥を指さして答えた。


「一本だけ上に伸びてるの見えるっしょ」


 言われた場所には、渦を巻いた髪の中心から上に伸びていっているのが見えた。

 キャリーは近づいて見る。


 一番上にピンと髪の毛がぶら下がっているのが見えた。

 ランタンを下げる場所に引っかかっている のだろうと思った。


「昔、ここで遊んでた時に邪魔だったから掛けたんだよね。んで、落ちない様に結んだら解けなくなっちゃって……我ながら間抜けな話ね。大人たちに助けを求めたんだ。けど、ダメで代わりに家を建ててもらったんだ」


 遠い 目を浮かべながらノーザンは言う。が、そんな境遇気にするものかと言わんばかりに声を出して依頼した内容について聞いてきた。


「随分前に依頼したからさ、正直、出した本人が忘れてるんだよね。どんな依頼だっけ?」


 キャリーは持っていた依頼書を確認する。


「手紙が三枚と紅茶の配達。あと、お気に入りのクシ を探して欲しいと依頼に書いてある、あります」


 最後なんて終わらせばいいのか分からず、おかしな敬語を使ってしまった。

 メアリーと話す感覚といつもお客と接する敬語が混ざってしまったのだ。


 キャリーは顔を赤くする。


「あーー思い出した。そうだ、試しにそれを依頼したんだ」


「ちなみに、具体的にどこでクシをなくしたんだ?」


 メアリーは尋ねる。


「仕事が早いね……私もそうやって話を進めたい人だからいいんだけどね。えっとね。大体あの辺りじゃなかった?」


 ノーザンは塔とは反対の窓際を指さす。そこには山の様に積まれた髪の毛の束があった。


「そとでなくしたのか?」


「違う」


 ノーザンは首を振る。


「この家のどっかになくしちゃったんよね。んで、多分あの辺に埋まってると思うってわけ」


 話を聞いた二人は一瞬視界が遠のきそうに感じた。

 黄金色の海からクシを探すのは骨が折れるんじゃないかと心配にな る。

あやしいものじゃないよ、あやかしだよ。

どうも、あやかしの濫です。

メアリーとオリパス、そして、ファイアナド騎士団の幹部であるオットー、サンツと登場人物がすごい出てきましたね。

陽気な連中で酒場で騒ぐのが好きです。

作中で行ってた通り、メアリーとオリパスは休みを知りません。毎日が仕事のようで、また、休みの日の様なものなのでそういった区別をしたことがなかったんです。

主人公のキャリーも気分によって休んだりするタイプです……なんか、羨ましいですね。

「キャリー・ピジュンの冒険 黄金 の森に住む娘と再燃する哀惜 Lv.1」

最後まで読んでくださると嬉しいです。よろしくお願いいたします。

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