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Lastly key you Lv.5(六話)

 外に出たキャリーは、メアリーがいる牢屋に向かっていた。

 ここからだと、大通りを跨いだその先である。


「クソ、なんで、離れた場所で手当するんだよ。この足さえ使えれば……」


 キャリーは自分の足を睨みつける。


 空が段々と緋色に染まってゆく、時間が刻々と迫っているのだ。上がらない足を引きずりながら彼女は必死に走った。


 人混みが多くて思う様に進めない。

 かき分けてキャリーはやっとの思いで大広間まで戻って来られた。

 あと少し、もう少しで辿り着ける。


 自分を鼓舞しながら歩いているとカウントダウンの秒針がすぐ側まで近づいている事に彼女は気がつく。


 人々は集まり処刑代を眺めていた。

 その奥には銀色に輝く騎士たちの整列が見える。


 急がなくては、水をかく様に人混みを分けて進んだ。しかし、押し除けると返って進めない。


「ウグッ!」


「押すんじゃねえ、みんな見たがってんだ!」


 キャリーは押し返されてしまう。


「見て、神父様よ」


 誰かが声を出して指を刺した。


「後ろにシルバー様もいらっしゃる」


 キャリーは処刑代の方を見る。

 黒い飾りのないコートを着た老人が、分厚い聖書と巻物を手に処刑代に上がってきた。その後ろには今朝見た、白髪に切り揃えられた顎髭の老人が続く。そして、さらに後ろから、もう一人白い鎧を着た男が上がってきた。


 人々は口々に話す。


「シルバー様の横にいらっしゃるお方は、もしや」


「あぁ、間違いない白い鎧、あれを着られるのはただ一人、シルバー様の息子ヴァイス様だ!」


「あぁ、いつ見てもお美しい……」


 三人の男たちは神父が前にシルバーとヴァイスが一歩後ろに並んで立っていた。

 キャリーは先を急がなきゃいけない。そう、分かっていた。しかし、処刑代から目が離せずにいる。


 人々の囁き声が混ざり合う音が、向かい風の様にやって来る。そして、風と共に数えきれない兵士の地面を踏みつける行進が聞こえてきた。


 彼らは旗を槍に結びつけ天を指して行進する。

 その後ろに一人の囚人が素足のまま街を歩いていた。


 キャリー位置からは何も見えない。だけど、どうしてだろう?

 誰がやって来るのか、分かってしまう。


(お願いだ、違ってくれ! この大通りを歩くのが別の誰かだと)


 キャリーは心の底から願った。


 淡い期待は無意味だと、分かっていたはずなのに彼女は願わずにはいられなかったのだ。

 やがて、兵士の行進は止まり、道を作る。一人の囚人がその道を歩いてきた。そして、処刑代の階段を一段、一段と上がりその姿を見せる。


 ぼさぼさの赤い髪に服についた自身の返り血、左手はなく、使われない僅かな袖は寂しく垂れていた。

 囚人は俯いて髪に隠れて顔は見えない。しかし、キャリーには、自分の怪我よりも酷く屁ぐれた瞳が隠れているのを知っていた。


 小さく言葉をこぼす。


「メア姉……」


 声は震えて喉と肺が締め付けられる様な苦しさと背筋を撫で回される様な恐怖を感じてしまう。

 メアリーはシルバーとヴァイスの真ん中に立たされる。


 神父は一度振り返り、三人の様子を伺ってから元に戻り、咳払いを一度してから巻物を広げ演説を始めた。


「皆様、知っての通り我々は五年前から今日に至るまで、独立を望むスタックタウンと戦争を続けて来た。彼らは異端と呼ぶに相応しい技術の為に戦争を始め、我々は法を守り神の教えを通す為にそれを阻止しようと戦った。戦いは激しく多くの死者を出してしまった。神はそれを嘆き悲しんだ。戦争は両者拮抗で、五年おも長い年月続いた。だが、それも今日まです」


 神父は巻物を握りしめ、先ほどよりも強く力を込めて続ける。


「私の後ろにいる、罪人の名は悪名高きファイアナド騎士団、団長、メアリー・ホルス、彼女は軍隊を一つ二つと一人で全滅させ、また、三つ四つと騎士団を使って我々を苦しめたのです。その所業はまさに紅蓮の竜巻と言っていい物だった。これは魔女の所業、決して許される事ではありません!

 よって、ここにいる、ヴァイス・ヴォルフの手によってここで斬首刑と処す。」


 神父の演説に便乗して、聞いていた人々の中から声を上げるものが現れた。

 その声は波紋の様に広がり、たった一人のメアリーに向けられてしまう。

 彼女は俯いて言い返すことはせず、じっと黙っていた。


 キャリーは、このうるさい罵声を上げている人々と処刑代で交互に見た。

 ふと、今のこの状況ならメアリーを助けられるのでは、と思いつく。


 同時に最後のチャンスなのだと緊張が走る。

 キャリーは姿勢を低く、目を見開く。


 —だし惜しみはしない。例え、この足が二度と使えなくても、絶対に助ける—


 キャリーは覚悟を決め、路地で出来なかった祝福の力を使おうとした。

 雷が全身を駆け巡るように振るい上がり、弓をめいっぱい弾いて狙いを定める様に、メアリーがいる処刑代を見る。


(メア姉、今助けに行くよ!)


 そう、思い飛び出そうとした。その時、辺りは暗闇に飲まれたかの様に静まり返る。


 人々は先ほどまで、ただの囚人だと思い、罵声を浴びせていた相手が、戦場で猛威を奮っていた恐ろしい怪物だった事を忘れていた。


 怪物の目は炯々と紅く輝き、見えるもの全てを喰らい尽くさんばかりの強烈な引力を持つ視線で睨む。

 人々はこの視線は今、怪物を殺そうとする自分らに向けられていると錯覚した。しかし、それは違う。

 メアリーは”キャリーたち”に向けたのだ。


 飛び出そうとしたキャリーはピタリと動きを止める。止めなきゃ殺されてしまう……


 握りしめられた様に心臓が止まりそうになる。

 全身から汗が滝の様に出てきた。


(どうして? なんで、拒むの?)


 キャリーは分からない。なぜ、怖い視線を自分に向けてくるのか。どうして、助けようとするこっちの思いを拒絶する様にそんな事をするのか、彼女には何一つ理解できずにいた。そして、とってもショックを受ける。


 揺れる瞳にメアリーが気づく、彼女はスッとむき出しの殺気を収める。

 静かにこちらを見つめてきた。


 キャリーはあまりの怖さに、震えながら一筋の涙をこぼしてしまう。


 その様子を見て彼女は申し訳ないと最後の微笑みを見せてくれた。

 次の瞬間、材木が割れ、強い音が響き、時の流れは元に戻る。


 メアリーの視線から誰一人動けなかった状況だったが、彼女が殺気を収めた一瞬のうちに距離を詰める者がいた。


 処刑代に立つ中で一、二を争う老体の男で、切り揃えられた真っ白な顎髭を持つシルバーだ。

 シルバーはメアリーの頭を掴み、床に叩きつける。その衝撃で処刑代の材木は割れ彼女の顔は半分、処刑代にめり込んだ。


「化けの皮を剥がしたんじゃないのか?」


 シルバーは怪物を見下しながら聞く。しかし、怪物は不敵に笑って見せた。


「はあはは、残念だったね。最後まであんたの望む展開にはならないよ!」


 シルバーは一瞬、両目を瞑ってから自分の息子の方を見る。


「ヴァイス! こいつの首を切れ!」


 自分の名前を呼ばれた彼は、ハッとなり、手にしていた処刑用の剣先が広く分厚い大剣を握りしめ振り上げる。そして、まっすぐな太刀筋で鈍い音と共に怪物の息の根を止めた。


 広場に静けさが訪れる。そして、恐ろしい怪物の死を理解した者が喝采の声を上げる。

 それに便乗して他の者たちも喜びの声をあげていった。


 波の様に聞こえる民衆の喝采。


 涙を隠す様に俯くキャリーは引き裂く様な悲鳴を上げた。しかし、喜びの波の中で気付くものは決していない。

 手を下した、ヴァイスは鎧がぶつかる音をたてながら肩で息をしていた。


「ヴァイス」


 名前を呼ばれて震える体がピタリと止まる。


「よくやってくれた……」


 ヴァイスは答えることが出来ずにいた。ふと、不安を尋ねようとする。


「……」


 ヴァイスは人生で初めて不安と恐怖で溜まり切った今の心をどうしたらいいのか、父親に聞こうとしたが、父親の憂いに悲しむ瞳を見て聞くのを辞めた。

あやしいものじゃないよ、あやかしだよ。

どうも、あやかしの濫です。

メアリーの祝福の力は、異例で破壊、崩壊、威圧と滅びを連想させるような強力なものです。

近づく危険を排除し、彼女に無敵の力を授けました。

「キャリー・ピジュンの冒険」を面白い、興味を持ったという方は、

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