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嵐を超えてシスターに送る Lv.1(六話)

 患者のカルテを一冊ずつ棚にしまっていく。

(急に飛び出して行ったけど、大丈夫かな……?)

 リーフは作業の手を止めて考え込んでしまった。

 その時、ガシャン! と室内に音が響く。

 振り返ると書き物をしていたベリルが床に手を伸ばして固まっていた。

 見ると床に白いティーカップが割れているのが分かる。

 リーフは駆け寄って破片を拾い上げる。

「何やっているんですか、ベリル様?」

「ごめんなさい、つい手元が狂ってしまって……」

 彼女は立ち上がり箒と塵取りを取りに行く。

 リーフはベリルの方を睨みながら尋ねる。

「大体、なんで目隠しなんかしているんですか? さっきだって、近くにある杖探してたし」

 ベリルは黒いレースの目隠しをしている。

 彼女はそっと目隠しを指でなぞる。

「よく、噂されてますよ。ベリル様の素顔、お美しいんだって、目隠しせずにいたらいいのに。僕は見たことないんですけど……」

 リーフは最後にボソリと呟く。

 彼女の姿は美しい、その言葉が相応しい容姿をしているのだ。

「見えているのなら目隠しを外すことをおすすめします。その方が綺麗ですよ」

 リーフは割れた破片を見ながら言った。

「ベリル様、目は見えているんですから、目隠しする必要ないでしょ?」

 彼女はしばらく答えなかった。

 やがて、小さな声で一言。

「見たくないものを見ないためです……」

 ベリルはそう呟いた。

「そう言えば、キャリーを見かけないのですが帰っちゃったのでしょうか?」

 箒と塵取りを持って振り返る。

「いつもなら私に一言、言ってから帰るのですけど……やっぱり、嫌われているのでしょうか……?」

 彼女は腕を組んで考え込む。

「そんな事ないですよ。あの子はベリル様に恩返しがしたいとケーキを買いに行きましたよ」

「あら、どちらまで?」

「僕の故郷の方まで」

 リーフは言った。

「はぁ? 今なんと?」

 ベリルは聞き返す。

「だから、僕の故郷の……」とリーフが言った瞬間、ツカツカと足音が近づいてくる。

 なんだと思って顔を上げようとした。その時、突然リーフは引っ張られる。

 目の前には、猫の様な鋭い眼光でこちらをカッと睨むベリルの素顔があった。

 薄いピンク色の髪と同じ瞳をした彼女の目は、普段の優しさとは遠く離れ、おっかない目をしていた。

「何やってるんですか? あなたは……」

 奥歯を噛み締めながら言う。

 何がなんだか分からなかった。しかし、すぐに自分の過ちにリーフは気づくことになる。

 ベリルは低い声で言った。

「あなたはとんでもないことをしました。朝礼で言っていたでしょ? 今、南の草原に弱竜の群れがあることを!」

 ハッと目を見開く。

 そんな話があったなんて知らなかった。しかし、弱竜の危険さについては重々承知している。

 弱竜の群れとはその名のとおり、小さく弱い竜の群れが移動をする事をさしている。

ベリルは思い出して、苦い顔を浮かべる。

「そうでした……あなたは居ませんでしたね……」

「今回、大移動したのはなんですか?」

 恐る恐る尋ねた。

 まだ、危険じゃない群れだといいのだが、とリーフは願った。

 残念ながら彼の願いは叶わない。

「スピナドラです」

「スピナドラ……」

 言葉を見失う。

 スピナドラ、鼻口が槍の様に長く鋭い弱竜である。

 ナイフや弓矢の素材として有用な竜だ。

 自慢の鼻先は風をよく切り、とても早く空を飛ぶことができる。

 普段は群れで谷に住み着いているのだが、産卵の時は大移動を行う。

 彼らは渦を作りながら外敵から自分らを守りつつ移動する。

 大移動の様子が積乱雲のようだと言われている。

 スピナドラの大移動はまるで大きな殺人雲と言われるほど危険なもので、家畜小屋の動物が赤い血だまりになった童話もあるほどだ。

 周囲のものを切り刻みながら進む。

 森は更地に代わり、山には谷ができるほどだ。

「今すぐに兵士頼みたいのだけれど……」ベリルは口籠る。「あの子、もうケーキ屋まで行ってしまったのでしょう?」

 独り言を続けた。

「ええ、あの子の足ならありえる……でも、それじゃあ、どうしましょう? 助けに行けないわ!」

 ベリルは掴んでいたリーフの胸ぐらを放り投げた。

 辺りを行ったり来たりとして、何か呟き続ける。

 リーフは放り出されてから立つことが出来ず、地面の割れたティーカップを眺めていた。

(僕はなんて愚かなんだ……面倒ごとを避けていただけなのに……)

彼は後悔する。

(もし、朝礼に参加していたら行かせなかったのに……)

 ふと、なぜ自分がサボってしまったのか、その理由はなんなのか考え始めてしまう。

(いつからだろう、こんな手を抜く様になったのは……)

 リーフには心当たりがあった。

(あの日だ。あの日、僕はもうどうでも良くなってしまったんだ)

 弱竜の群れ、しかも、スピナドラの群れとなると、遭遇したら命の保証はどこにもない。

あやしいものじゃないよ、あやかしだよ。

どうも、あやかしの濫です。

場面は光の塔にいるベリルとリーフのシーンですね。

ベリルは目が見えてるのですが、祝福の力が強すぎるあまり、目の負担が大きいので普段は目を隠しています。

こういうキャラが、目隠しを外すのは、眼鏡キャラとは別の魅力がある気がしますよね。

「キャリー・ピジュンの冒険」に興味を持ってくださったら、

ブックマーク、評価を付けてくださると嬉しいです。

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