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嵐を超えてシスターに送る Lv.1(五話)

 慣れた手つきで新しい箱を作りケーキを入れていった。

「お前さん、誰に送るんだ?」

「え?」

 唐突に聞かれてキャリーは驚く。

 この人と話すのは怖いと思ってしまい、目線が泳ぐ。

「ベリル姉……」

 間を開けてから恐る恐る小さな声で答えた。

 名前を聞いてお婆さんが声を上げて驚く。

「まぁベリルて、あのお方かい? バシレイアの教会にいる。あのベリル・アプストリー・テミス様かい?」

 こくりと頷く。

「まぁ! 爺さん謝って! 私たちすごい人の使いに無礼な真似をしてしまったわ!」

 そんな事、お構いなしにお爺さんは言う。

「知るか。誰にあげようと、こいつが俺のケーキを粗末にした事に変わりねぇんだ。だが、ベリル様か……」

 ニヤリと微笑む。

「あの人も相当な甘党と聞く。必ず口に合うぜ」

 お爺さんには自分のケーキは美味しい確信があった。

 近くの引き出しからシールを取り出した。

 暗めの緑色と金の枠をして、ブローチぐらいの大きさだった。

 お爺さんは箱にシールを貼る。

 ふと、箱の周りに暖かみを感じた。

 キャリーは目を見開く。

「今のは……?」

 お爺さんはケーキを大事に持ち上げる。

 キャリーの前に行くと箱を渡してきた。

「オラ、次は雑に扱うんじゃねぇぞ!」

 高圧的な言い方とは真逆で、丁寧で紳士的な渡し方だった。

 キャリーはゆっくりと震える手で受け取る。

 先程よりも重く責任を感じる。

「あっ、そうだ」

 ふと、お爺さんは思い出したキャリーに尋ねる。

「お前さん、ベリルに渡すって言ってたな。つまり、バシレイアの光の塔から来たんだよな?」

 こくりと頷く。なぜ聞かれたのか分からずに首を傾げた。

「そこにリーフってガキいねーか? そいつはこの村出身でよ。一緒に畑をいじる仲だったんだ。でも、一枚も手紙を書いてこねーから気になっとる」

 お爺さんは腕を組んだ。

 眉を寄せて、どこか不安げな表情をしていた。

「知ってるよ。ここのこと教えてくれた」

「会ったのか?」

「うん」

「どうだった?」

「どうって?」

「どうって、あれだ、その……」

「元気にやれていますか?」

 口ごもるお爺さんに変わって、お婆さんが尋ねてきた。

 キャリーは答えるのに困る。

 リーフとは、今朝知り合っただけなので話せる事がないのだ。

「んーあたしは教会で働いてないから分からない……」

「そうか……」

 お爺さんはげんなりとして首をさする。

「実はな、あいつがちゃんとやれているか……心配でな……」

 キャリーはジッと黙って話を聞いていた。

「なんだ、話す訳ないだろ。よく知らないお前なんかに!」

 お爺さんは追い払うように言い返す。

 彼女は急いでケーキ屋を出ようとする。しかし、お爺さんはすぐに呼び止めた。

 ドアの部を掴んで外に出ていたキャリーは振り返る。

 お爺さんはしばらく口ごもっていた。

 やがて、ポケットに手を突っ込む。

 何かを掴んでキャリーに差し出した。

「こいつをリーフに届けてくれないか?」

 ゆっくりと手を広げると中には大きな種が一つあった。

「あいつはコツコツ植物を育てるのとか好きでな、まだ続けていたらいいんだが」

 目を下に向けて、悲しそうに言う。

 キャリーは一瞬、預かるのを躊躇した。

 この人が苦手で避けたい気持ちがあった。しかし、そんなことは関係ない。

 いつになく真剣な顔で頷く。

 キャリーは大きな種を受け取った。

「任せて!」

「それとそのシールを食べる直前まで剥がすんじゃないぞ。それは俺の祝福の力でケーキを守っている。逆さまにひっくり返っても中身は無事だが、シールが剥がれるとそうはいかない。だから、絶対に気をつけるんだぞ」

 お爺さんは念を押すように強く言う。

「分かった!」

 こくりと頷く。

「本当に分かったのか?」と言い終わる前に彼女は外に出て行ってしまった。

 外に出たキャリーはケーキを持ちながら考えた。

 自分の鞄とは比べて、中の重さは感じるが、揺れる気配は感じない。

 お爺さんの話は本当だと思えた。

(これなら思いっきり走っても大丈夫!)

 雷を纏い全力で走り出した。

 雑木林と小川を超えた所まで戻ってこられた。

 ケーキ屋のお爺さんから離れられて、キャリーは安堵のため息をこぼす。しかし、彼女の目の前に大きな障壁が現れた。

 草原を覆い尽くす大きな雲の壁。

 ゴロゴロと稲妻が走る音が聞こえてくる。

 計り知れず、果てしなく続く積乱雲。

 しかし、これは雲でないとすぐに気がついた。

 よく目を凝らしてみるとウヨウヨとうごめく何かが見える。

 キャリーは息を飲んだ。

 額の汗はゆっくりと頬を伝っていった。

「弱竜の群れだ……」

あやしいものじゃないよ、あやかしだよ。

どうも、あやかしの濫です。

お爺さんがリーフとの関係を結局話さなかったシーン、個人的になんか好きなんです。

キャリーは物語の主人公なんですけど、お爺さんとは赤の他人なんです。だから、お爺さんが一線引いた感じがして気に入ってます。

リアルで呼んでくれた方からは、情緒不安定とか言われてしまったんですけど……他の所が確かにそうなんだけど……こっちの方が自然な気がしたので直さずに出しました。

今日はクリスマスですね。

素敵な物語がたくさんある日ですね。僕は昔、朗読で聞いた物語で、

何でも願いが叶う特権が回り回って、渡す側のサンタさんにわたった話が好きですね。

ほっこりします。

「キャリー・ピジュンの冒険」に興味を持ってくださったら、

ブックマーク、評価を付けてくださると嬉しいです。

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