Lastly key you Lv.5(五話)
路地で倒れたキャリーは、気を失ってからずっと起きようと真っ暗な頭の中で、足掻き続ける。そして、一筋の光がようやく見えた時、彼女は目覚める。
はっと起き上がったキャリーは、知らないベッドの上にいた。
呼吸は荒く、心臓がバクバクと揺れていた。
キャリーは自分の体を触って確かめる。
腕と頭に包帯が巻かれていた。
布団を捲ると足は伸ばした状態で木の板に固定されていた。
「……」
これはしばらく、働けないなと理解させられる。
自分の足を見ていると少し離れたところから声が聞こえてきた。
「目を覚ましたか」
顔を上げて声のする方を見る。
窓越しの椅子に座りながら、小さな本を読んでいる目つきの悪い、メガネをかけた青年がいた。
「オリパス?」
「あぁ、久しぶりだな、キャリー」
オリパスは本を閉じながら答える。
メガネを外して立ち上がりキャリーのそばまで近づく。
「生きていたんだね。あたしはてっきり……」
その先の事を口に仕掛けたるが、彼は呆れて否定した。
「勝手に殺すな。それよりキャリーどうして、あの路地でボロボロになって倒れていたんだ? お前ならそこらのごろつきぐらい逃げ切れるだろ?」
「不意をつかれたんだ。そのまま、ずっと蹴られて……」
悔しそうに顔を顰める。
キャリーは布団を握りしめていた。
思い出すだけで腹が立ってくる。
そんな様子を見てオリパスは、ベッドの横にある瓶から水をコップによそり、キャリーに差し出した。
「少し飲め、落ち着くぞ」
「ありがとう……ねぇ、オリパス」
キャリーはコップに映る自分の顔を見つめながら大事な話をする。
「メア姉が……処刑されちゃう」
「あぁ、知ってる」
「そっか、そりゃあそうか、だってこの国にお前がいるもんね」
オリパスは顔を合わせない。
そんな彼に不安を覚えながら話を続ける。
「他の奴らは今、どうしてるの? もしかして、どこかに隠れてるのかな? もう、時間がないけど、処刑台へ輸送中に助けるの? あたし、今、脚がこのザマだけど、何か手伝わせてよ。あたしだって、メア姉を助けたいんだ。頼む!」
キャリーはオリパスにしがみつく。しかし、オリパスは決して振り向く事はなかった。
ただ、一言、呟くだけだった。
「仲間は来ていない。ここには俺一人だけだ」
「え?」
何を言っているのか、分からなかった。動揺するキャリーにオリパスは冷たく告げる。
「俺はただの傍観者だ。手は貸さない」
「何言ってるの……? 訳がわかんないよ! メア姉が捕まっているんだ! 助けないと!」
キャリーは彼の裾を引っ張る。しかし、オリパスは黙ってキャリーの腕を払いのけた。
何も話さない。
ただ、彼の拳は震えているのが見えた。オリパスは立ち上がり、顔を合わせずに話す。
「俺はファイアナドを裏切り、団長を売った」
彼の言葉に反射的に叫ぶ。
「オリパス、ふざけんな! お前がそんな事するはずがない! だって、お前は、お前はメア姉の……」
そのあとを言おうとしたが、正しい表現が浮かばず、途絶えてしまう。
怒りと動揺でキャリーは何が何だか分からずにいた。
オリパスは俯いて話を続ける。
「俺は平和と安全のためにあいつを売った。だから、キャリー、お前に手を貸す気はない」
そう冷たく吐き捨てられた、キャリーは豆鉄砲をくらった鳩の様に目を丸くする。そして、ぐったりと彼女は肩を落とし、絶望にうちひしがれてしまった。
しばらくの沈黙の後、ドアの近くにある時計が鳴り響く。
キャリーはオリパスの顔を見ようとしたが、何も変わらないと思い諦める。
ベッドから降りて自分の靴を履いた。
彼女の頭の中には、あの日の焚き火の光景が映っている。
(メア姉はあたしを抱いて優しく包んでくれた。あの腕はとっても力持ちで強いのに、全く怖くない。
それで、オリパスはメア姉とあたしの隣で一緒に笑い合っていたのに……)
キャリーは灰色な現実にいるオリパスに話しかける。
「今でも、信じられない。あたしの知ってた二人はもっと強くて、正しかった……なのに、どおして?」
言葉が震える。
思い出が崩れる様に今日見た光景が、全てを塗りつぶしていく。
ボロボロで右腕と片目を失ったメアリーは、牢屋に閉じ込められ、彼女を支えたオリパスは、こんな綺麗な部屋で読書をしていた。
いろんな思いに胸が苦しくなる。
じんわりと目が熱くなった。
(みんな、どうして、変わっちゃったの?)
「……」
オリパスは何も言わず、ただ、目を逸らし続けているばかり。
キャリーは足を引きずりながら、ドアの前まで歩いて行く。
ドアの部に手を掛けながらオリパスに今の自分の想いを伝えた。
「お前に助けてもらわなかったら、あたしはもう動けなかったと思う。だから、ありがとう……もし、お前の助けがあったら、メア姉を説得して逃げ切れたかもしれない……でも、オリパス、あんたはあたしとメア姉を裏切った! 見損なったよ! バーカ!」
オリパスに怒鳴り、引きずる足で外に出ていく。
バン! と扉が閉まる音の後には何も聞こえなかった。
一人取り残されたオリパスは、髪をかき上げて、深くため息をつく。
彼はドアの横にある戸棚に近づいた。手に取っていた本を置き、そのすぐ下の引き出しに指をかける。
「言いたい放題、言いやがって……」
そう呟いた彼の前には古い二丁のラッパ銃が置かれていた。
オリパスは手に取り、鋭い視線で目の前の壁を睨む。
あやしいものじゃないよ、あやかしだよ。
どうも、あやかしの濫です。
ファイアナド騎士団副団のオリパスが出て来ましたね。
彼は、メアリーの幼馴染で小さい頃から一緒にいました。
なのになぜ、裏切り者になったのでしょうね?
彼が手に取る、ラッパ銃は、一体、誰に向けるのか?
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