アイオライト防衛線 Lv.3(十三話)
例え、心が折れてしまっても再び立ち上がらなくてはならない。なぜなら、大切な人たちを守るために
アイオライトコンパスを盗もうとしたアンリード。しかし、予告を出した当日、奴は来なかった。
翌日、現れお宝を盗み取る。
その正体は黒い髪に少年のような顔立ちの女、リードだった。
彼女は今、お宝を盗みだし、姿をくらます為に街中を駆け回っていた。
細い路地を進み、角を曲がったと見せかけて、隙間でやり過ごし、同じ道を通って相手に自分の行動を予想させる。
こうする事で相手は先回りしようと動く。しかし、そこには誰もいなかった。
こうして、相手の目線から何度も外れるように立ち回る。しかし、一向に振り切れることはなかった。
リードは川沿いの路地で一休みする。
息は上がり、足はもう当分動かしたくないと思った。
(ちくしょ、全然振り切れね……まぁ、そりゃそうか、上からずっと見られてるもんな)
リードは顔を上げる。
屋根の上から黄色い瞳に綺麗な金髪をした少女が、息を潜めてこちらを見ている。
(アンだと、とうに捕まっていただろう……俺もそろそろ、なんとかしないと……)
このままでは疲れて逃げられず捕まってしまう。
どうにかして、こっちを見ている小娘を抑えなくちゃならなかった。
どこか狭い場所に誘い込もうと思った。
「いたぞ、ダイン!」
博物館から追ってきた二人が追いついてくる。
(マジかよ! もう追いついてきたのか?)
今考えた策が役に立つか分からない。
(現役の兵士にあのデカブツ、体力バカどもが!)
このままでは捕まる。そう思った時、男たちの背後に大きな影が現れた。
「リード! 助けに来たよ!」
大きな体にマルタのように太い手足。ねじれた薄い金髪は月の光で輝いて見えた。
「アン!」
思わず叫んでしまう。
本来なら先に隠れ家に行って息を潜めてもらうてはずだったのだ。
「なに!」
二人が振り返った時、アンは大きな材木を手に振り下ろしていた。
間一髪、ルークは転ぶ様に避ける。しかし、ダインはモロに頭にくらってしまった。
「「ダイン!」」
気を失って、倒れゆくダインに、容赦なくアンは二、三発顔を殴り飛ばした。さらに赤いベストを掴んで、川に放り投げてしまう。
流れる様な攻撃を防げず、ダインは川の底へ沈んでしまう。
「アン、なんで戻ってきた⁉︎」
「あなたが心配で……」
凄まじい攻めを見せた彼女だが、リードの質問には、もじもじと小さく答える。
「まあ、いいや。サンキューあまり無理するなよ。目の前の男も頼めるか? そいつ、相当強いから気をつけろ!」
「大丈夫、次は仕留めるから」
アンは拳を握り、ルークと戦う用意をとる。姿勢を低く、頭を守るように拳を構えた。
リードは相棒の強さに誇らしさを感じる。
自分も上の奴を振り切るために、動かなくては……
リードは突然、目の前の空き家に飛び込んだ。
「!」
屋根の上からずっと追跡していたキャリーは焦る。
このままでは、どこにいくか分からず見失ってしまう。
仕方なく、キャリーは屋根から飛び降りて廃墟の中へ追うことした。
窓に入ろうとした時、背後からルークに呼び止められる。
振り返ると彼はアンと睨み合いながら言った。
「こいつらは殺人も厭わない。もし、危なくなったら逃げてくれ!」
一瞬、間が開くがキャリーは頷いてリードの後を追う。
中に入ったのを見てルークはアンに忠告する。
「……おい、今すぐに投降しろ。出ないとこちらも容赦はしないぞ」
剣を抜き、構えを取る。
その瞳は地獄の審判官の様に輝いた。
殺気を感じ取るアン。しかし、彼女も戦う理由があった。
「悪いけど、貴方にはここで夜空を眺めてもらうわ」
アンは剣を構えるルークに臆せず突っ込んだ。無謀な行為かと思われたが違う。
ルークが彼女の首筋から切ろうとしたが固く切れなかった。
「!」
「残念だけど、私には刃物は通らないわ」
そう言いながらアンはルークの顔面に重い一撃を与える。
手応えのある一撃にルークは路地の奥へと飛ばされて行ってしまった。
「ガハッ!」
兜の中から血が溢れ出る。鼻血を出してしまった。
「祝福持ちか?」
朦朧とする意識の中で呟く。
アンは胸に手を当てて答えた。
「そうよ。私には豪傑の祝福が備わっているの。だから、小さい頃から人より力持ちでね。硬い皮膚で怪我もしなかったわ」
倒れてしまったルークにはアンがとてつもなく大きな存在に見えた。しかし、それ以上の恐ろしい奴と向き合った彼には、可愛く思えた。
まだ、クラクラとする頭を押さえながらゆっくりと立ち上がる。
「そのまま寝ていればよかったのに……」
アンは悲しげに呟く。
哀れみを向けられたルークは折れた鼻で笑って返した。
「他人の心配をしている暇はないぜ盗人。次は首をもらう」
ルークの言葉にアンは切られかけた首に手を当てみた。水滴がわずかに感じる。
見てみると僅かに血が手についていたのだ。
「どうやら、豪傑の肉体でも刃はとおるみたいだな……」
嘲笑おうとしたが、頭が痛く、ふらついてしまう。
ふと、ルークの目に気になるものが見えた。
「余裕ぶってられるかしら?」
苦笑いを浮かべるアン。次の瞬間、全身に身の危険を感じとる。
ルークが真っ直ぐに駆け出してきたのだ。
慌てて殴りかかるが、軽く交わされ懐に入られてしまう。
(しまった切られる!)
慌てて腹に力を込める。しかし、ルークの刃は当たることはなく、彼は通り過ぎて地面に倒れてしまった。
訳が分からず振り返ってみると、ルークの手には青く輝く宝石のコンパスが握られていた。
「お前が持っていたとはな。これは……返してもらうぞ……」
先ほど、ふらついてしまった時、アンの腰に袋がぶら下がっているのが見えた。
もしやと思って奪ってみたら、案の定だった。
盗まれたアイオライトコンパスが入っていた。
「返しなさい!」
血走った目で彼女は叫ぶ。
ルークは余裕な態度を見せて語る。
「悪いが返せない。これはこの国の大事な宝で歴史なんだ……」
この宝石は博物館にも展示されるほど価値があり、額のあるものだとルークは知っている。いつか、娘を連れて見に行った時に何かに興味を持つ、その選択肢の一つを守りたい。
「ここからはアイオライト防衛戦だ!」
兜の隙間から鋭い瞳が一瞬輝いた。
「ふざけた事を言わないで!」
アンは走り出し、お宝を奪い返そうとする。
直接、宝石を掴もうとするが、交わされて反撃をもらってしまう。次にルークを仕留めて奪おうと思ったが、寸前のところで避けられ背後に回られてしまった。
攻撃が当たらない。
アンは焦って大ぶりのパンをハンマーの様に振り下ろしてしまった。
最低限の動きでルークは交わす。
彼女の隙を見逃すほどルークは甘くなかった。
彼は剣を振り上げ叩き切る勢いで振り下ろす。
アンは慌てて腕で防ごうとした。
カンッ!
地面に赤い水滴が落ちる。
次に鉄の塊が落ちた。
刃が通らなかったことにルークは目を見開いて驚く。
真っ直ぐな太刀筋、本気の攻撃だった。しかし、片手での攻撃は弱く、彼女の両手に折られてしまった。
「さっきも言ったでしょ。私には刃が通らないわッ」
強がるアンだが、スパッと肉は切られ、重たい一撃に腕が痺れてしまう。
お宝を奪い返すために反撃に移る。
ルークの顔、腹、全身をアンはがむしゃらに殴り続けた。
避けることが出来ず、彼女の重たい拳を全て受けてしまう。
ルークの兜は潰れ中から大量の血が溢れ出る。
腕は折れ、剣を手放してしまった。
それでも彼は、アイオライトを離すことはなかった。
アンは急いでリードの元へ行くためとどめの一撃を入れようとする。
「死ねぇぇぇぇ!」
その時、川の方から獣の様な狂気の声が夜の路地裏まで響いてきた。
あやしいものじゃないよ、あやかしだよ。
どうも、あやかしの濫です。
逃げるリードを上からキャリーは隠れて追ってましたね。
アンと戦うことになったルーク、祝福の力によって全く刃が立ちません。
コテンパンにやられました。
見せ場と思ったのですが、すぐにやられちゃいました。残念です。
でも、アイオライトコンパスを取り返したのはさすがだ!
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