アイオライト防衛線 Lv.3(十二話)
例え、心が折れてしまっても再び立ち上がらなくてはならない。なぜなら、大切な人たちを守るために
アイオライトコンパスに満月の月明かりが照らす。
深い青色の宝石に入り込む光は、辺りをまるで海中の様に照らしていた。
この部屋には誰もいない。
警備をしていた兵士たちは運の悪いことに、それぞれ外せない用事ができてしまったのだ。
数人は本部に呼び出され、外を警備していた者は女に声をかけられる。様子を見に中の兵士も外へ出てきてしまう。
部屋に残ったのは片手で数えられるだけ。しかし、その数人も急な予定が入ってしまう。
怪しい物音を見に動いたり 、急に腹痛を起こしてしまう。
結局、アイオライトコンパスを見張る者は誰もいなくなってしまった。
誰にも見られない夜を過ごしていたお宝。しかし、一人だけジッと目を離さずに天井から観察する者がいた。
その者は部屋に誰もいないことを確認すると慣れた手つきで、紐を垂らし始める。
下までつくかつかないか、ギリギリまで垂らした紐をするり、するりと音を立てずに降りてくる。
アイオライトコンパスはガラスケースの中に入っていた。
その者は懐から特殊な細工をした、文房具のコンパスに似た道具を取り出す。
表面に貼り付けた。
シーと背筋が凍る様な音を立てて、ゆっくりとガラスを切り取る。
その者は切り取ったガラスを置く。お宝へ静かに手を伸ばした。
突然、背後から声が聞こえてきた。
「ついに来たな」
目線を後ろに向ける。
鎧が並べられた廊下、あたりには誰一人いない。
真ん中の鎧が動き出す。
待ち伏せされていた。
「昨日、予告を出して次の日の今日に取りにくる。怪盗としては、あり得ないだろうが、お前はただの盗人だ。こちらの警備の質を落とす算段だったのだろう。お前のことを色々と調べていたら、別人の証言が二つ出てきた。一人は、大柄の人物。もう一人は小柄の小さな少年だった。姿を変えられる奴が盗みを働いているのかと思ったが違った」
忍び込んだ者は、お宝に触れかけた手を離し、近づいてくる鎧の男の方を見る。
「アンリードは一人の盗人じゃない。二人だ。二人で一人の盗人だったんだ。そうだろ? アンリードの片割れ」
鎧の男の目が光る。
目の前には黒髪に背の低い少年の様な女が、鋭い目線でこちらを見ていた。
静かな時間が訪れる。しばらくして、彼女はクスリと笑って話し始めた。
「ご名答、俺はアンリードの片割れリードだ。すごいな腰抜けと言われていたお前が、一人で捕まえにきたのか?」
「いいや、一人じゃありません。前回の雪辱を晴らしにきました!」
背後からリードを捕まえるため、ダインが突進してくる。
気づいたリードは降りてきた紐に飛びつき、襲ってきた相手を踏み台に高く登った。
軽く踏まれただけで倒れ込むダインを見ながら彼女は愉快げに高笑いをした。
「ははははは! 惜しかったな、残念だがお前らは俺を捕まえることはできない。目の出来が違うからな」
リードの手にはアイオライトコンパスが握られていた。
「こいつはもらっていくぜ。アン! 頼む!」
上を見て叫ぶ。すると、素早く入ってきた天窓の外へ消えてしまった。
あっという間に脱出された事にルークは動揺した。
すぐに警報の笛を鳴らす。
「ダイン俺と来てくれ! 奴を追う」
二人は博物館を出てリードの後を追いかける。
あやしいものじゃないよ、あやかしだよ。
どうも、あやかしの濫です。
ついに現れたアンリードの正体は、先日お世話になったリードじゃないですか!
じゃあ、もしかして……
次回はルークたちとアンリード、いえ、リードの対決第二回ですね。
第一回はいつかですって?
宿屋でのことです。
あの時は死角に潜り込みましたが次は闇の中にでも潜るのか!?
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