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アイオライト防衛線 Lv.3(十一話)

例え、心が折れてしまっても再び立ち上がらなくてはならない。なぜなら、大切な人たちを守るために

 石造りの三階建の建物が並ぶ大通り、ルークの後ろをキャリーはてくてくと歩いていた。

 先程、向かい合って話してから一言も言葉を交わしていない。

 お互い気まずく、早くダインが見つからないかと願っていた。


 静かに歩いているのに、耐えられなくなったキャリーが口を開く。


「ねぇ、ずっと気になっていたんだが、あんたは他の奴らとあんまり仲が良くないのか?」


 頭の上にハテナが浮かぶ。

 心当たりがないのだ。


「急にどうした。別に普通だぞ?」


「だって、昨日の隊長とかが……腰抜けって」


 キャリーは遠慮がちに言った。ルークは何のことかようやく理解して答える。


「昔の事だ。もう気にしていない。お前の仲間に励ましてもらったからな」


「?」


 誰のことか分からず首を傾げる。

 そこにフラッとダインが現れた。

 あっ! と思わず声を出す。


「やっと見つけた! 気まずかったー! どこに行ってたんだよ……」


 肩を落としてキャリーは文句を言う。


「日課のトレーニングをしていました。日々のトレーニングが素晴らしい筋肉を作りだす。いやはや、探していたとはすまない。どこに行くか伝えてお くべきでした」


 ひたいの汗を拭きとる。相変わらず、上着がないダインは上半身裸だった。

 ルークはため息を吐く。


「二人とも、一度うちに来てくれ。昨日のことで話がある」


 キャリーとダインはこくりと頷いてルークの後に続いた。

 気づいた時には彼の前を歩いていた。


 三人は朝の酒場に訪れる。

 朝食のパンとチーズ、ハムをとりながら話をしていた。


「率直に話すが昨日アンリードは現れなかったから」


「みたいですね。昨日は本当静かな夜でした」


 話よりも先に朝食を平らげるダインは頷いた。

 昨日、何も起こらなかったとなら、つまり、そういうことだと分かっていた。


「それで、私たちはどうするのですか? 報酬をもらって終わりでしょうか?」


 本来ならそれでも良かった。しかし、ルークにはまだ引っかかることがある。

 昨日、アンリードは念を押すようにアイオライトコンパスを盗みに行くと言った。


 不思議でしかない。


 二人の顔を見てからルークは首を振る。


「すまんが、もう少し付き合ってくれ。まだ、気になる事ばかりなんだ」


「そうと決まれば、腹ごしらえね!」


 突然、ハイディが大鍋を持って現れる。


「母さん? どうしたんだよ、昨日の残飯を机に置いて」


「そりゃあ、北の国のお客さんにこれっぽっちの朝食じゃあ物足りないでしょ!」


 彼女はそう言いながら大鍋の蓋を外す。湯気と共に昨日からずっと煮込まれたほろほろのビーフシチューが現れた。


「おお! いいのですか!」


「美味しそう!」


 路銀がなく、最近はしっかりとした朝食が取れていないダインは、思わず立ち上がる。


「ああ、たんとお食べ。お嬢ちゃんも育ち盛りなんだから食べるんだよ」


「はい!」


 二人は大鍋のビーフシチューを分け合いながら食べ始める。

 そんな二人を少し離れた所からルークは見守る。


「いいの、母さん? あれはお客さんに出しちゃダメなやつじゃない?」


 ハイディは肩をすくめながら言った。


「いいのよ。一日すぎたぐらい。それに……」


「貴方がとてもやる気に満ち溢れていたのだから」


 ハイディの言葉に合わせるようにアレッサがやってきた。

 二人は微笑みながら愛する男を見つめている。

 ルークはこそがゆくなる。


 頭をかきながら感謝を伝えた。

 そんなにやる気に満ちているように見えたのだろうか?

 不思議な気持ちでいっぱいだ。


「まあ、私は残飯を捨てずに済むと思ってやったんだけどね」

 と大袈裟にハイディは笑っていた。


 食事を終えた二人はルークの考えを聞くことにした。


「俺は……まだ、奴がアイオライトコンパスを狙っている気がするんだ。これはおそらく、シルバー様もお前らも感じていると思う」


 今まで予告通りに盗んできたアンリード。しかし、今回ばかりは予告の日付が変わっても盗みに来なかった。


 普通の人なら腰を抜かして逃げたのだろうと考えるが、ルークは違った。

 と言うより、どうしてそこまでして諦めたのか、むしろ、そっちが気になる。


「予告をして、さらにあの家で会った時には行くとまで言っていた。なのに来なかった……俺には引っかかるんだ」


「しかし、どうしますか? もう一度あの宿屋を調べてみるのです?」


 ダインが腕を組みながら聞く。

 ルークは首を振ってみせた。


「おそらくだが、何もないだろ……」

 ふと、一つアイディアが出てくる。しかし、それは実現不可能に近いことだった。

「出来れば……出来れば、盗みに入られた人たちの証言を聞きたいな。

でも、北の山奥の村だったり、その近くの館だったりで、流石に今日中には……」


 頭を抱え込みながら他に何か方法がないか考えてると突然、キャリーが立ち上がる。


「できるよ!」


「え?」


「場所さえ教えてくれれば、あたしがそこまで行って聞いてきてあげる」


「待ってください。ここから北の村までは、馬車でも半日はかかります。それに途中で魔物に襲われるかもしれません」


 ダインが止めにはいる。

 無理だといいたげな顔をした。

 二人の顔を見て、キャリーはニヤリと微笑む。次の瞬間、そこには誰もいなかった。


「シルフィードも言ってたでしょ。あたしは誰よりも足が速いんだよ。任せて!」


 背後から声が聞こえてきた。振り返ってみるとカウンターに仁王立ちをするキャリーがいた。

 あまりの速さに驚く。

 その前にアレッサが怒鳴り声を上げた。


「こら! 机の上に登っちゃいけません」


「ごめんなさい!」


 キャリーは身を縮めながら謝って、素直にカウンターから降りる。


(こんなに早く動けるなんて……いや、速すぎて見えなかった)


 唖然とするルークだったが、調査の糸口を見つけられて胸の底からふつふつとやる気が溢れ出る。


「キャリー!」


 アレッサに叱られていたキャリーを呼ぶ。


「頼んでもいいか?」


 ルークの手にはメモ用の紙切れと向かって欲しい場所を記した手紙が握られていた。

 キャリーは一瞬、口が閉じられずにいたがすぐにこくりと頷いてみせた。

 その瞳は熱く悲しみや憎しみで冷えた思いすら忘れてしまうような覚悟をしていた。



 

 キャリーはルークのメモを頼りに北の村までひと走りしてきた。

 帰ってきたのは、昼前ぐらいだ。

 キャリーはバンと酒場の扉を開いて叫ぶ。


「聞いてきたよ!」


 不思議なことに彼女は汗の一つもかかず、呼吸も乱れていなかった。


「おぉ、どうだった!」


「みんなバラバラのことを言ってたよ」


 メモを渡しながらキャリーは言う。

 どう言うことだと首を傾げる。ルークは書いてもらったメモを読んでみた。

 一つ目の事件は村の商人の証言だった。


 彼はいつものように仕事の手紙を見ているとイタズラだと思える手紙が混じっていることに気づく。そこには倉庫の食料を全て盗むと書いてあった。


 商人は何の備えもせずにいたが、夜中、大きな音が倉庫の方から聞こえてきた。

 見に行ってみると熊のように大きな人影が、小麦の入った袋を抱えて持ち出していたのだった。

 商人は驚いてその場に倒れてしまいった。気づいた時には、食料は全て盗まれていたのだ。


 二つ目に北の村近くに住む貴族のもとに手紙が届く。今度は金庫のお宝を頂くと同様の名前で書いてあった。


 一つ目の商人のことを知っていた貴族はもちろん対策をとった。しかし、誰一人盗みに入られたことに気づくことはなかった。


 最後に立ち去る瞬間、小さな少年が宝を盗んだと騒ぎを聞きつけた時に、初めて盗まれたことに気がついたのだった。


 アンリードと名乗った泥棒の正体を調べると正反対の人物像が浮かび上がる。


 メモを見て低い声でルークは唸る。


「確かに証言がバラバラだ……」


 ルークは今一度キャリーがもらってきたメモを読み直す。

 考え込むルークをじっと見て眺めていたキャリーだが、ふと、ダインはどこに行ったのか、気になり辺りを見渡す。


「あっ、ダインなら上で服を着せてもらってるぞ」


 キャリーがキョロキョロと辺りを見渡すのに気づき、ルークは教える。


「昨日からずっと上だけ服がなかったからな、ちょうどいいのがあるかもって、探してくれてる。昔、父さんといった旅行先の服なら合うかもって」


 話していると二階から階段を降りる音が聞こえてきた。


「おお、帰ってきていたのですね」


 現れたのはダインだった。

 筋骨隆々の大きな体に、色は赤、スーツのベストの様な民族衣装を羽織っていた。

 キャリーは目を輝かせて叫ぶ。


「おお! 服着てる!」


「はい、ハイディさんに服を譲ってもらったのです。この服、肩がなくて腕に圧迫感を感じないので、多少力んでも破れそうないのですよ」


 力んだだけで破ける筋肉をしている方が、おかしいだろとルークはため息が溢れる。


「いいな! いいな! とっても似合ってるぞ。なんだか、別人みたいだな」


 目を輝かせながらキャリーは、ダインの新しい服を眺める。


「別人……」


 ふと、ルークは彼女の発言に引っ掛かる。

 別にダインの新しい上着を褒めているだけで、おかしい事はなかった。

 それとは別の大切なことで、頭の中でピッタリと収まる気がした。


「……!」


 頭の中で一本の筋が引かれる様に、硬い肉がすんなりと飲み込めたように、腑に落ちるのを感じる。

 彼は言葉をこぼす。


「分かった……」


 アンリードの正体と目的がルークの目には見えたのだ。

あやしいものじゃないよ、あやかしだよ。

どうも、あやかしの濫です。

現場にすぐに駆け付けられるなんて、とてもいいですね。

早い特急や新幹線に乗るには乗車券が必要だし、車なら免許だし、みんなが使うから込むしで、

なかなか、移動が大変な現実と違ってキャリーはひとっ走りですよ。さすがです。

この物語で最も心残りなのはビーフシチューを美味しそうに書けなかったことです。

とても悔しいので、次回は美味しそうなシーンを書きます!

そのためにはうまいもん食わなくてはですね!

「キャリー・ピジュンの冒険」に興味を持ってくださったら、

ブックマーク、評価を付けてくださると嬉しいです。

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