アイオライト防衛線 Lv.3(六話)
例え、心が折れてしまっても再び立ち上がらなくてはならない。なぜなら、大切な人たちを守るために。
時間はキャリーがさらわれた後、目を覚ます前。
アンリードの情報を得るためにバーに寄っていたルークが地下から石段を登って来たところ。
突然、角から筋骨隆々、半裸の男が彼の前に現れる。
「大変です! ルークさん、キャリーさんがどこにも見当たらないのです」
現れたのはダインだった。
ルークは一瞬身構えたが、すぐに構えを解き聞き返す。
「見当たらない? どういう事だ?」
「だから、あなたと別れた後、ずっとキャリーさんを探していたのですが、見当たらないのです」
困った顔を浮かべて頭を掻く彼は、迷子になった子供みたいに焦ってる様に見えた。
「落ち着け、あいつは別行動しているだけだろ? それより、仕事だ手伝え」
肩を軽く叩いて落ち着かせ、ルークは話す。
「情報屋によるとこの近くの宿屋にアンリードがいるらしい。行くぞ」
ルークはまだ納得しきれていないダインの横を通って行く。
歩き出した彼を見て、心配で悩んでいたダインだが、考えていても埒があかず、ついて行くことにした。
二人がやって来た場所は、大通りの三階建ての家々が並ぶエリアだった。その中の一番年季の入った古い宿屋に入って行く。
中は蝋燭やライトの光がなく。日の光だけで照らされた薄暗い場所だった。
長年の年季と埃をかぶって鼠色のように変わった木材で、できた部屋の奥に受付がある。
受付にはお婆ちゃん が編み物をしていた。
ルークは近づき声をかける。
「ここにアンリードがいると聞いたが何階のどこの部屋にいる?」
前置きなしに単刀直入に言うのでダインは横で驚いた。
お婆ちゃんは編み物の手を一旦、止めてゆっくりと顔を上げる。
突然、細い目を見開いた。
彼女の目は少し変わっていて、深海のように深い青色をしていた。
お婆さんは目をパチパチとさせてから、睨むように見つめる。と思ったら叫び出した。
「あなたたち、そんなヘニョヘニョで、どうしたのよ。男ならもっとシャキッとしなさい!」
いきなり、叫ばれて二人は驚き、顔を見合わせる。しかし、お互いヘニョヘニョには見えなかった。
片方は、鎧を着て武器を持っている。もう片方は半裸だがガリガリの細い人には見えない。
「マダム、私たちがそんなに弱そうに見えますか?」
不思議に思ったダインは尋ねる。
「いいえ! でも、そんなんだと、確かに弱いかもしれないわね!」
そう言われてダインは何の事かさっぱりで考え込んでしまった。
ルークはお婆さんの言う事に興味を持たず、自分の職務を全うするためにもう一度質問した。
「お婆さん、ここにアンリードという人物がいると思うんですけど、どこにいますか?」
二度目の質問にお婆さんは少し考えてから、うなずいた。
「アンちゃんならここに泊まってるわよ? どうしたの? あの子に何かあったの?」
「ええ、まあ」ルークは曖昧に濁して頷く。「私はバシレイア兵士のルークと言います。彼が重要参考人でして、調査のために協力いただけないでしょうか?」
鎧の兵士を見つめていたお婆さんは、不安な表情をしながら立ち上がる。
「三階の部屋に泊まってるわ……でも、今は留守かもしれないの」
「案内してください」
二人は案内のもと、アンリードが泊まっていると思われる部屋にやってきた。
「ここに奴が……?」
「何かあった時は、頼んだぞ」
扉が開くのを待っていたルークはダインを頼る。
格闘戦は出来なくはないが、体格が大きく強そうな彼に任せるつもりだった。
お婆さんがガチャリと鍵を回してから扉を開く。
ギィーと開く扉、暖かい風が吹き込んできた。
部屋は両脇にベッド が一つずつ置かれて、真ん中の奥、窓に向かって机が二つ並べられていた。
二人はゆっくりと中に入る。
片方のベッドは、未使用で綺麗にそのままだ。反対にもう片方はシーツにシワがよって、布団はひっくり返っていた。
「まだ、少し暖かいな……」
ルークは使われたベッドを触ってみる。
先ほどまで気持ちよく寝ていたのだろう。
「うむ、ベッドの下を覗いたが特に何もないですね」
ダインは床に這いつくばり、ベッドの下を覗いたが埃しか見当たらない。
辺りを見ながらルークは考え込む。
(先ほどまで寝ていたとして、俺たちが来ることがなぜ分かったんだ?
旅をしている盗人なのだから荷物の一つや二つあってもおかしくないだろうに……)
思考を巡らしていたルーク。しかし、情報があまりにも少なくぐるぐると同じ事ばかり考えるようになり始めたので、一度やめて、もう一度部屋を調べることにした。
「何か、お探しかい?」
「あぁ、奴の手掛かりを見つけるために……待て、今誰が?」
顔を上げて辺りを見渡す。
窓に座って部屋を覗く者がいた。
黒いローブに身を包み真っ白なお面をつけた奴はへへへと笑う。
「誰だ、貴様!」
ルークとダインは身構える。
「誰だと言われたら、お前らがお探しのアンリード様だよ」
ローブを纏っていても分かる背丈が高く、少年のような声で奴はアンリードだと名乗る。
「危なかったぜ、危うく寝込みを襲われるところだった。と言ってもお前らには証拠がないから捕まっても問題はないのだが……今日は違う。今夜、バシレイア国立博物館のアイオライトコンパスを盗まなくちゃいけないからな」
「そんなこと、させると思うのか?」
ギロリとルークは睨みを効かせる。
鷹の目の様に睨む彼を小馬鹿にする。
笑いながらアンリードは指をさした。
「おー怖い怖い。だがよ、させてくれなくても構わないぜ。俺は盗むからからな」
言い終わると彼はスッと立ちあがろうとした。
瞬間、相手が逃げるのだと思った二人は急いで窓へと走り出す。
ここで逃してはならない、そう思ったのだ。
狭い室内、数歩で届く距離、若干ダインの方が早かった。
彼は走り出した勢いのままアンリードめがけて飛び込む。
ガシャンとガラスが割れる。
「なにィィィ?」
頭のあたりをつかもうとしたが、空っぽの紙袋のようにクシャリと潰れて腕に巻き付く。
これはダミーの人形だった。
ダインは一人、真っ逆さまに落ちる。
幸運な事にダインが落ちた先には木箱が積まれており彼はそこに落っこちた。
落ちていったダインが無事なことを窓から確かめる。
無事でルークは胸を撫で下ろす。
「無茶しやがる……」
自分も同じことをしようとしていたが、棚に上げて彼は文句を言った。
現在、日はちょうどこの建物の反対側に出ていてダインのいる木箱は影に隠れていた。
ふと、この建物の影に奇妙な出っ張りがあることに気づく。
それは小さな子供が覗き込んでいるようだった。
急いで振り返り上を見上げる。しかし、誰もいなかった。
どうにか登れないか、あたりを見渡すが特にそれらしきものはない。
「お婆さん、屋根に出る方法は?」
ルークは体勢を戻しながら聞く。
「えっと、廊下の所にあります」
聞くや否や、ルークは廊下に出た。
目を凝らしてみれば、上にあがるための蓋があった。
本来なら梯子が必要だったが、ルークは壁を蹴って飛び込むように蓋を開けて登る。
バッと開いた蓋から飛び出す。
あたりを見渡すが人影の正体は、どこにも見当たらなかった。
「……」
まだ、近くにいるかもしれないと思い、警戒しながらゆっくりと辺りを探し始める。
広い屋根の上、彼は剣を抜いて身構える。
「そんな物騒なもの見せつけられたら、たまったもんじゃないぜ」
どこからか、アンリードの声が聞こえる。
「どこだ! 出てこい!」
声を張り上げたが、返事はなかった。
「一つ、いいことを教えてやるよ」
「なに?」
「お前らの仲間にガキが一人いたろ? 今、そいつは捕まっている」
「なんだと?」
「助けたければ、情報屋を頼るんだな」
その声と同時に屋根の蓋が閉まる音が、背後から聞こえた。
どこかで隠れていたアンリードはネズミのようにして降りていった。
ルークは急いで後を追おうとしたが三階に戻るための蓋がどうしても開かなかった。
「お婆さん! 開けてくれ!」
ルークは声を大にして叫んだ。しかし、突然、屋根から見知らぬ者が入り込んだのに、驚いたお婆さんは腰を抜かして動けなかった。
結局、アンリードは逃し、戻ってきたダインに開けてもらった。
「すまない、落ちたところで気を失っていた……」
面目ないと俯く。
「気にするな、俺も逃してしまったからな……まさか、屋上にいてすれ違いで逃すとはな、いったいどこに隠れていたんだ?」
(降りてきたところを眺めながら首を傾げる。奴は逃げる際にキャリーのことを言っていたがなぜなのだろう?
何か関係……ありそうだな、あの子が見当たらないのとあいつが言うのなら偶然とは考えられない。
しかし、いつ俺たちが来るのに気づいたんだ?)
「……」
まだ、検討もつかないことをいつまでも考えてもしょうがない。
ルークは首を振って、気にするのをやめた。
「そういえば、ダイン。お前がつかんだあれはなんだったんだ?」
アンリードだと思った黒いローブ姿のあれはなんだったのか、聞いてみた。
「あぁ、あれは物干し竿とこの家のローブだっだそうです。先ほど疲れたご婦人が座りながら教えてくれました」
なるほど……と呟いてそれ以上は特に聞かなかった。
今から闇雲に追ってもどこにいるか分からない。
アンリードの調査は今は、打つ手がない。
ルークはため息をついて、あいつの言っていたことを思い出した。
「仕方ない、キャリーを探そう」
「どこにいるのか分かったのですか?」
ルークは首を振る。
「いや、分からん。ただ、アンリードが情報屋を頼れと言っていた……何かあるかも知れない」
彼はゆっくりと階段を降りて行く。
「奴を信じるのですか?」
ダインが聞くとルークは首を振った。
「いいや、あいつも情報屋も信じてない。ただ、情報だけは嘘じゃないと思っただけだ。匂うんだよ、あのバーから……言われて違和感が不信感に変わっただけだ」
ダインは彼の様子が普段よりイラだっている様に見えた。
博物館から思っていた事だが、ルークは心ここに在らずの様に、少しぼんやりしてるように見えた。今は彼の中に熱い何かを感じたような気がする。
そう思ったらダインは急いでルークの後を追った。
「荒事になったら任してください」と力瘤を見せつける。
「そのために雇ったのだから当然だ」
ルークは首を傾げながら言う。
あやしいものじゃないよ、あやかしだよ。
どうも、あやかしの濫です。
アンリードがいた宿屋、ここの店主のお婆さんは祝福の力を持っています。
能力は心の様子を見ることができるというもので、明るい色はよい状態で、
冷たい色だと精神的に悪い状態です。
あと、波長的な物も見えて人の愛称とかもわかるそうです。
なぜ、こっちに書いてるかというと本編に関係ないからです。
悲しいな……
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