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アイオライト防衛線 Lv.3(五話)

例え、心が折れてしまっても再び立ち上がらなくてはならない。なぜなら、大切な人たちを守るために。

 目を覚ますと埃がつもった豪華風なソファーに寝込んでいた。

 体を起こして、まだ重い瞼を擦る。


「よう、起きたか?」


 暗いバーの一室、中央の円卓の向こうに、身を屈めて座る男がいた。

 男は顔に傷があり、真っ黒のクマが目を覆っていた。


「……」


 黙り込むキャリーに語りかける様に男は話す。


「突然、連れ去ってすまなかったなぁ。お前にどうしても聞きたい事があって連れて来させたんだ」


 男は横を見た。つられて見ると路地裏であった男たちがじっとこちらを見つめていた。

 これから何が行われるのか、キャリーはごくりと唾を飲み込む。その時、男の背後から女の声が聞こえた。


「ちょっと! こんな小さな子を襲うなんて聞いてないわよ!」


 見るとダインにも負けず劣らずの筋骨隆々、丸太の様に太い手足をした女が立っていた。ふんわりとした薄い金髪の彼女は手を胸に当てて、眉をひそめている。


「まぁまぁ、そう言うなって、ここからは野蛮なことはしないさ」


 男は優雅に両手を上げながら言う。


「キャリー・ピジュン、俺はお前に聞きたい事がある」姿勢を前のめりにして、キャリーの顔色を伺う。「紅蓮の竜巻、メアリー・ホルスの頭はどこだ?」


 その名を聞いてキャリーはゾッと眠たい目を見開いた。


 今すぐに逃げよう。


 瞬時に走り出して、男の後ろ、女と反対側にあるバーの扉めがけて走り出した。

 誰もが反応できない速度で辿り着いたキャリー、急いで扉を開けようとする。しかし、ドアノブは半分も回らずガチャガチャと音を立てるだけだった。


「悪いが元の席に座ってくれないか? お前に手枷をつける事だってできるが、俺たちも手荒な真似はしたくない」


 真ん中に座る傷の男は、座りながら言った。

 どこかに逃げ場はないかと辺りを見渡すが真っ暗な部屋に逃げ場はなかった。


「おい」


 突然、腕を掴まれる。ドキッと心臓が揺れるのを感じた。

 キャリーは掴まれた腕の方を見る。


 そこには黄ばんだ瞳をした男が不機嫌な顔をしてこっちを睨んでいた。

 逃げ場がないと諭される。これから何をされるのか分からないキャリーは不安と恐怖をひしひしと感じ始める。


 怖くて震えが止まらなかった。

 大人しくしたほうがいいと思い、自分から元の席に座ることにした。


「そうだ、それでいい」


 傷の男は不気味に微笑んだ。


「 さっきも言ったが俺たちは手荒な真似はしたくない。なーに、俺はお前に聞きたいことがある。お前は俺たちに聞きたい事がある。お互い腹を割って教え合おうじゃぁないか」


「あたしは……あんたらに聞きたいことなんて、何もない……」


 震える声であった。

 傷の男は手を振って否定する。


「いや、あるね。さっき、ルークがここに来たが、アンリードの情報を知りたがってるようだった。お前はあいつの仲間だろ? 聞かなくていいのか?」


「ルークに話してないのか?」


「話したさ、一割程度をな、奴が今どこをアジトにしているかってな」


 傷の男はニヤリと黄ばみと黒い歯を見せる。


「 だが、キャリーお前には残りの九割全部の情報を話してやる。その代わり、お前も俺に話せ」


 最後、彼はドスをきかせて声を出す。

 キャリーはじっと黙りこんでいた。

 ふと、傷の男の後ろで聞いていた女の人が口を開く。


「ちょっと待って、勝手に話したの?」


 男は振り返ることはせず、手をあげて答えた。


「ああ、話したさ。大丈夫だろ? あのドブネズミなら……それにあいつの情報以上の価値をこの娘は持っている」


 視線はキャリーに向けられている。冷たい汗が頬を伝うのを感じる。

 鉛のような重い唾を飲み込む。


「知ってるか? すげー祝福を持った人間は死後も体に祝福が残るって事を。紅蓮の竜巻もそうだ。奴は捕まる時、片腕を切り落とされた。不思議なことに切られた腕は決して腐らずにいたらしい。調べてみると強力な力が宿っていたんだと、そのことを知ったありとあらゆるトップの人間が欲しがった。何せ、奴は最強の女だからな、死んだ後、バシレイアは死体を欲しがる奴らに売ることを決めた。血、肉、内臓、骨とただ、一つだけ、処刑が行われたあの日、盗まれたんだよ」


 話し込んで段々と視線が落ちていた男は顔を上げる。


「頭が盗まれたんだ! めでたい処刑の後、流石に騒がなかったが、お偉いさんたちはどこだどこだと大騒ぎ。表立って捜索ができない奴らに変わって、多額のミンツ(お金)と引き換えに俺たちが探すことになった」


 メアリーは数日前、この国で処刑された。その瞬間をキャリーは見ている。


 ショックだった。

 悲しかった。


 大好きだった人が目の前で殺されるなんて……ああ、思い出したくもない喝采の音が聞こえてくる。

 キャリーは奥歯を噛み締めて身を縮めこむ。


 メアリーの頭を盗んだのはキャリーだ。あの日、いても立ってもいられず、盗み出した。

 頭は城壁の外、丘の上の木の下に布に包んで埋めてある。


「……ない」


 キャリーは小さくこぼす。

 男は首を傾げて、耳を澄ました。

 しばらく黙っていたが突然、ガッと顔を上げて甲高い声で叫んだ。


「教えない! 例え知っていても教えない!」


 その顔には涙が滲み出ていた。精一杯、怖さや、悲しさが溢れそうになる中で、キャリーは言ってやった。

 傷の男はぐぬぬぬぬと眉間に皺を寄せる。今にでも怒って胸ぐらを掴みかかろうとしていた。

 だが、出来なかった。


 キャリーの横に一人の女が立っていたのだ。


 筋骨隆々でマルタのように太い手足、ふんわりとした薄い金髪の女が傷の男を睨みつけていた。

 なぜ味方同士で睨み合っているのかキャリーにはまるで理解できなかった。

 やがて、男はため息をついてから懐に手を突っ込む。


「あらごとはしない……だったな、ゲームをしよう。キャリー・ピジュンお前が勝ったらアンリードの情報を教えて逃してやる。ただし、負ければ、嫌でも頭のありかを吐いてもらうからな」


 こんなことに付き合ってられるかと言って投げ出したいが、そうも行かない。

 逃げ場はないし、近くには強そうな女の人がいる。

 じっと目線を外さぬようにキャリーは男を見つめた。


「安心しろ、ただのプレーカードだ」


 懐からは赤いケースが出てくる。男はケースを開けて中からカードの束を取り出した。


「今からやるのはポーカーだ。ルールは分かるか?」


 キャリーは首を横に振る。

 ニヤリと男は笑った。


「じゃあ、簡単にルールを教えてやる」


 そう言いながらカードを広げた。

 プレーカードには赤と黒の二色で四つの記号と三種類の人の絵が描かれているのが分かる。


「まず、ここのカードを全てまとめてシャッフルする」


 慣れた手つきで広げたカードを集めてトントントンと音を立てながら混ぜ始めた。

 男が混ぜ終えた時、女の人が口を開く。


「あなたが対戦相手なのよね?」


「そうだ」


 女は笑みを浮かべて、こう言った。


「なら、私が配るわ。そのほうがフェアでしょ?」


 傷の男はどこか不満げな表情を浮かべるが、やがて、手にしていたカードの束を手渡した。その後、キャリーにルールの続きを話す。


「お互い、カードを五枚ずつもらう。俺たちは配られたカードの数字があっているか見て、より多く同じのを揃え、数字が大きいのを用意できるか勝負するんだ。おい! チップを用意しろ!」


 ずっと見ていた奴らに声をかける。

 女間を埋めるように説明を続けた。


「カードは配られた後に一度だけ交換ができるの。その時に揃えられる様に頑張って」


 不思議と彼女はキャリーを心配している様子だった。

 先程からずっとそうだ。彼女は傷の男がキャリーに襲いかかりそうになった時、そばにいて止めてくれた。


 こんな状況じゃなかったら真っ先にお礼を言っていたかもしれない。

 テーブルの上にミンツとは違う色のついたコインが広げられた。

 男は色ごとの束を二個ずつ作って半分をキャリーの方に渡した。


「ポーカーの代替のルールはこんなもんだ。そんで、ここでは、先にこのチップがなくなった方の負けとする」


 キャリーに渡す山のコインを指で弾いて言った。

 これがチップというやつなのだなとキャリーはぼんやりと理解する。

 散らばったチップを見つめてから彼女は、男の方に目線を戻す。


「で、負けた方は」


「勝った方に情報を教える……」


「そうだ! 理解してもらえて嬉しいよ。じゃあ、始めようか」


 男は愉快げに笑いながら両手を広げる。そして、目線で女にカードを配れと合図を出した。

 彼女はため息をついて、散らばったチップをキャリーの方に並べてからカードを配り始めた。

 配られたカードをゆっくりと手に取って覗き込む。


(……)


 キャリーは睨む様に手札を見つめる。


(ぜんぜん分かんない……?)


 先ほどのルール説明で完全に理解できなかったキャリーは、この手札をどうすればいいか全く分からなかったのだ。

あやしいものじゃないよ、あやかしだよ。

どうも、あやかしの濫です。

誘拐されてしまったキャリー、閉じ込められてしまうと何もできませんね。

やばいです。

話は大きく変わりますがポーカーってロマンありますよね。

いろんな作品に出てますし、ジョジョとか、攻殻機動隊とか、かっこいいイメージがあります。

老人に限らず、何かの説明をするとき、興味のない人の七割は、理解してくれない気がします。

気のせいでしょうか?

「キャリー・ピジュンの冒険」に興味を持ってくださったら、

ブックマーク、評価を付けてくださると嬉しいです。

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