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北からやって来た、筋肉モリモリマッチョマン Lv.1(五話)

 キャリーたちが依頼を受けに行った後も控えていた客の対応 に追われていた。

 しばらくして、突然、扉が強く開かれる。


「おい! この依頼の場所、間違ってんぞ! どこへ行けばいいんだよ!」


「え?」


 ムグレカは、そんなはずは、と耳を疑った。

 文句を言いに来た冒険者は、ズカズカと足音を鳴らして受付所の机に依頼書を叩きつける。

 恐る恐る覗き込むと、


 Lv.2 配達依頼 中身、衣服 配達先 南大通り九番目の鍛冶屋と書いてあった。


「そこまで届けに行ったら、こんな物届く覚えがねえって言われたんだよ! おかげで無駄骨じゃねえか!」


「すみません、すぐに確認します」


 頭を下げる。急いで依頼のメモの方を確認した。

 そこには、Lv.2 配達依頼 中身、衣服 配達先 “北外 霧の丘近くの村 草の生えた家まで”と書いてあった。ページの隣の依頼と混同してしまったのだ。


 これは明らかにこちら側のミスだと気づく。

 まさか、そんなと自分のミスを認め切れなかった。


(ありえない、今までこんなミスなかったのに、そんな……まさか……ハッ!)


 今までこんなミスはしてないと思ったムグレカだが、この様な記入ミスは、時々起こしていた事を重み出す。


 その時は、ミラがいち早く気づき指摘してくれていたのだ。だから、今までこんなミスした事ないと思いこんでいた。


 頭の中が真っ白になる。


 自分はそんなミスを犯さないと心の中で思っていたのかもしれない。

 あり得るなんて、想像もしてなかったのだ。

 頭の中は言い訳の嵐でいっぱいだった。


「おい! 何ぼさっとしてるんだ?」


冒険者が再度、机を叩きムグレカは現実に引き戻される。


「これはお前のミスだろ? じゃー報酬を二倍にしろ! 詫び金だ。詫び金 往復に時間かかったんだ」


「えっと、その様なシステムは……」


「払えねのか? ふざけるな! おい」


 怒鳴り散らす冒険者にどう接すればいいのか分からずにいた。

 自分のミスで、こんな事にと責任感がムグレカの思考を重くする。


(どうしよう、どうしよう、こう言う時は……ええっと……)


 シルフィードを頼ろうと見る。しかし、彼は気持ちよく寝息を立てていた。


(なんで、この人は毎回眠っているんだ! こんな時にミラさんがいたら……)


 しかし、いない事は、彼自身が今日一日でとことん分からされていた。

 ふと、雇われて間もない頃、分厚いマニュアル 本を渡された事を思い出す。


 正直なところ、ムグレカはあまりの本の分厚さに一ページも開かず、ミラに教わっていた。もしかしたら、あの本に何か対応策が書いてあるかもしれない。


 睨みつける冒険者を前に待ってもらうように頼んだ。


「こういう時、マニュアル 本になんて書いてあるのか、見たいので少々お待ちください」


 丁寧な口調で言ったつもりだが、冒険者は、顔を真っ赤にさせて叫び出す。


「待つだ? 十ゼロでそっちが悪いんだろうが! 金よこせ! 金を! そっちのミスだろ? 何を調べるって言うんだよ!」


「お金を倍で払っていいのか、わたくしの判断ではどうにも出来ないので、少し待って欲しいんです」


「待たせるなよ! いいからこれの報酬を払え! そうすれば、話は終わりなんだよ」


「ですから、それが出来ないんで、待って欲しいんです!」


 いつの間にかこっちも強い口調に変わっていた。

 これじゃあ、らちが開かないと困り果てていると、間に割って入ってくれる者がいた。


「はい、は〜い、二人とも落ち着いて」ポンと軽く手を叩いたのは、上司のシルフィードだった。


「まずは、すみません、うちの者が迷惑をかけました」


 ゆったりとした口調で、丁寧に冒険者に謝罪をする。普段の彼からは想像もつかない姿にムグレカは驚いた。


 こんな風に話せたんだ。

 謝罪するシルフィードを前に冒険者の怒りはおさまらず。


「あぁ、そうだ。全くだ! おかげで無駄骨を折らさせられた! まさか、お前まで報酬をケチるつもりか?」


「いえいえ、とんでもない! ちゃんと報酬はお支払いします」


「そんなんじゃ、足りん! 倍支払え!」


 このままじゃ、また、話がループすると思った。しかし、シルフィードには、何か秘策があるらしくニヤリと微笑みを一瞬見せる。


 彼は、短い杖を取り出す。


 目の前の冒険者は、まさか、その棒切れで勘弁しろとは、言わないよな? と首を傾げた。

 シルフィードは、杖を軽く振る。すると、彼の手元に一本のボトルが煙を巻いて現れたのだ。


「報酬は、一点五倍で支払います。それと」手にしたボトルを男に差し出した。「こちらのお酒で勘弁して頂けないでしょうか?」


 男は差し出されたボトルを睨む。一瞬、受け取るのを躊躇ってから手に取ってまじまじとボトルを眺めた。


「なかなか、良い酒じゃないか、これ?」


 冒険者が言うと、シルフィードは目の色を変えて、楽しそうに話す。


「お目が高い! そうなんですよ。実は先日、洗濯屋での事故の際、率先して救助に当たったら、バシレイア一の英雄……シルバー様からお礼にと、貰ったんですよ! まだ、栓 は開けてないのでお詫びとして受け取ってください」


 ボトルをしばらく眺めていた冒険者は鼻を鳴らして、まあ良いだろう、と納得してくれた。

 シルフィードは、すかさずムグレカに報酬を渡してと合図を送る。


 ムグレカは慌てて用意した。

 元の一点五倍の報酬をきっちり渡す。


「今回はこれで許してやるが、次はないからな!」


 吐き捨て冒険者は去っていった。


「……」


「……すみません」


 立ち去った後、しばらくの間が生まれて気まずくなる。

 耐え切れなくなったムグレカは頭を下げた。


「次、起きなければ大丈夫。あと、こう言う時は相手に角が立たないように元の報酬より高く払ってくれても構わないよ」


 シルフィードはそう言いながら階段に腰を落とした。

 ムグレカは、俯きながら再度、謝た。

あやしいものじゃないよ、あやかしだよ。

どうも、あやかしの濫です。

笑ったり飲んだり、何なら寝たり好き放題に生きてる飲んだくれのシルフィード。でも、何かあった時は何とかしてくれる頼れる人間。信用はないでしょうけども……

ここまでひどくはないけど、こういう人って意外と現実にもいる気がします。

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