北からやって来た、筋肉モリモリマッチョマン Lv.1(一話)
朝霧に包まれた石レンガの道を歩くものがいた。彼は目的地に着くと顔をあげる。
ランサン郵便協会、看板にはそう書いてあった。
ランサン郵便協会、バシレイア西支部の朝は、パン屋程ではないのだが早い。
日が上り、辺りが照らされてきた頃、職員のムグレカは、ランサン郵便の扉を開ける。
「おはようございます」
いつもの癖で誰もいない室内に挨拶してしまった。
普段なら同僚で尊敬すべき先輩のミラがいるのだが、ある事情によって長期休暇を取っている。
今日はムグレカにとって、初めてのワンオペで少し緊張していた。
「……」
静かな受付スペースを前に、何故だが寂しさが込み上げそうになる。
二階に荷物を置いてから仕事を始めた。
まず初めに取り掛かったのは、今日、掲示板に貼り付ける為の依頼書の作成だ。
これは一枚、一枚手書きでノートから写さなくてはならない。
黙々と写していたムグレカだが、今日はいつまでも終わらない作業に小言を漏らしてしまった。
「くっそ、シルフィードさんみたいに魔法が使えたら、こんな依頼書の束、一瞬で終わるのに……あとは、祝福の力か……見た物を書き写せる能力とかあったらなぁ」
しかし、彼はなんの力も持たない一般人で、魔法も祝福の力も持っていない。
小言を漏らしながらも作業の手を休めることはなかった。
普段、依頼書の制作は、ほかの作業を終えたミラと手分けして行なっている。
余った時間はコーヒーを淹れて、九時を知らせる鐘が鳴るのを待つのが、いつもの事だ。しかし、今日は一向に終わらず、鐘が鳴ってしまった。
ゴーン、ゴーン
「え? もうそんな時間? あっやべぇ、店を開かないと!」
慌てて店を開いた。
店を開けてすぐは、そこまで人は来ないのだが、しばらく経てば、続々と冒険者や依頼人が押し寄せてくる。
ムグレカは、その際も今日中に出さなければいけない依頼書の制作を続けていた。
(今日中に終わるか? これ……)
開始数時間で、すでに目が回りそうになる。
あやしいものじゃないよ、あやかしだよ。
どうも、あやかしの濫です。
今回は受付嬢ミラさんがいなくなってからのランサン郵便でムグレカくんの話になります。
こういうのは番外編を作って出したり一つにまとめて出した方が良かった気もしますが、すみません、ここで出させてください。
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