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舞い降りる希望 Lv.5(十二話)

 錆色の建物の屋上では銃声と鉄の塊が壊れる音が響き渡っていた。

 折り重なる建物と建物の隙間から未だに這い上がるロボットたち。

 それらはただ一人の標的に向かっていた。


「……」


 紅く鋭い瞳は分けられた前髪の奥から素早く周囲を一瞥する。

 人の敵とロボットがどこから攻めてくるのか、見るためだ。


 オリパスは低く唸る様なため息をつく。


 途方もない敵の数に少しへきえきしていたのだ。

 両手に握った長銃の先端には斧と槍の刃先が括り付けられている。


 オリパスは大きく振り回し、飛び掛かる敵を薙ぎ払い、叩き落としていく。

 どれほど押し寄せてきたのか、途方もない時間を過ごしたかもしれないし、まだ、それ程時間は過ぎていないかもしれない。


 結局は全て迎え撃てばいいのだ。


 オリパスはそう割り切っていた。しかし、多勢に無勢、たった一人の彼では押し寄せる集団を受け止めきれない。


 紅蓮の竜巻メアリー・ホルスの様にはいかないのだ。

 突然、ガクッと膝から崩れ落ちてしまう。


「!」


 寒くもないのに震える足にオリパスは拳を叩きつけた。


(まだ、俺は戦うんだ!)


 念を入れても足は動かす事ができない。それどころか、もう片方の足も跪く。

 オリパスは前回のオットーとの戦いで、すでに限界を超えていたのだ。


 肉体は意思に対して、これ以上は無理だと、体を動かす事をやめている。


 全身に感じる肉体の悲鳴。


 次に訪れたのは目の不調だった。


 周囲がゆっくりと見えていた瞳は、今は何もみたくないと重く閉じこもってしまう。

 一瞬で視界が暗闇に包まれてしまった。


 溢れる涙が目に染みて、余計に開ける事を拒む。

 ロボットが軋みを立てて、近づくのが聞こえる。


「この!」


 オリパスは慌てて、武器を振り回した。


 カンッと虚しい音が響き渡る。


 相手よりも早く、床を傷つけてしまったのだ。

 オリパスはなすすべなく倒されてしまう。はずだった。


 パン、パパン!


 一発の銃声に続き、連続した発砲音が響き渡る。

 いくつもの弾丸が羽虫の様に音を鳴らし、オリパスの周囲を駆け抜けていった。

 弾丸は弾ける音と共にロボットたちを撃ち抜いていく。


「!」


 目を開けられない彼は無理矢理にでも見ようとする。

 硬く閉ざされた瞼を指でこじ開けた。

 銃声のした方を見ると数人の集団が束になってこちらを見ている。


「ひゃっはー! こいつは気持ちいい。弓なんかよりよっぽど、魔物に効果的だな」


「だが、ちと音がな、大きすぎやしないか? これでは獲物に気づかれてしまう」


「一撃で仕留められない奴は狩人にもアンティークバレットにも必要ない。とっとと、ベッドで余生を過ごしな。オイボレ」


 銃を撃ちながら好き放題談笑する老人たち。

 彼らの様子を隣で眺めているのは、ランサン郵便協会スタックタウン支部長のパトロだった。

 今にでも死にそうな青白い肌に、ビクビクと震える体はギュッと縮こまっている。


 彼は震えながら叫ぶ。


「頼むからオリパスくんには当てないでくださいよ。仲間内でやられて恨まれても困りますから!」


「ははは、心配するな。ワシらは外さんよ」


 ハゲ頭の眼帯をつけたお爺さんが叫ぶ。


「まぁ、どれがそのオリパスなのかは分からんが問題なかろう。そもそも、見えとらんしな」


「はぁ?」


 笑えもしない発言にパトロは目を見開く。


「やはり年かの? 老眼で視界がぼやけておる。手の震えもあるんじゃ。まぁ、問題なかろう」


「大アリだよ!」


 パンパン、撃ち続ける銃を今すぐにでも、取り上げたいとパトロは手を伸ばしていた。

 だが、危険なので実際にはすることはない。


 思わぬ援軍にオリパスは呆然としていた。


 ロボットや戦争派の人たちの攻め込む勢いが減っていく。

 頃合いを測っていたパトロは老人たちに発砲を止めさせる。


 オリパスの元へ駆け寄ってきた。


 続く様に二名の老人と隠れていたランサン郵便協会の受付嬢ルミナも近づいてくる。


「オリパスくん大丈夫……なんて、声をかけるのも可笑しいわね」


 打撲や切り傷だらけの彼を見て、ルミナは言葉を手直した。


「取り敢えず、安全圏まで下がりましょう」


 動けなくなっているオリパスの肩に腕を回し、パトロとルミナは力を合わせて抱え上げる。


「頭から血が、目も充血している。切り傷も深い物もあるじゃないか! 早くしないと肉が腐って取り返しのつかない事に。骨は? 痛いところない?」


 震える声で早口に尋ね続けるパトロ。

 オリパスは若干のやかましさを覚える。

 静かに答えた。


「何も……」


「何も感じないわけないだろ!」


「分からない」


 被せてくる言葉を無視してオリパスは答え切る。


「あああ! た、た、た、大変だ。重症じゃないか!」


 パトロは口を大きく開いて、驚きの声を上げた。


(うるせぇ……)


(うるさいな)


 そばにいた二人は内心そう思う。

 安全圏まで運ばれたオリパスは堀の様な隙間に下ろされる。


「だだだ、大丈夫! 今、ルミナが救急箱を持ってくるから! じゃない、僕が持ってたんだ。いい、今、止血を!」


 慌てふためくパトロは失態を犯した子供が無かった事にしようとする様に、オリパスの傷を手早く治療していく。


 彼の処置が終わるまでオリパスは黙って座る事にした。


 周囲ではアンティークバレットの老人たちが銃や使い慣れた弓を引いて、ロボットや敵対する人たちと撃ち合っている。


 頭に包帯が巻かれた時、オリパスはスッと立ちあがろうとした。


「ちょちょ、何してるんですか⁉︎」


 パトロは目を見開きながら数歩下がる。

 無理矢理にも止めたい気持ちはあったが、パトロには傷を悪化させてでも止める勇気はない。

 止められず、ふらつくオリパスを代わりに静止したのはルミナだった。


「動かないで! あなたの傷は遊んでできた物じゃないの。このままじゃ死んでしまう」


 彼女の言葉にブンブンとパトロは首を縦に振る。

 オリパスはギロリと紅く輝く瞳で彼らを睨みつけた。

 睨まれた二人はゾッと首筋に刃物を突きつけられた感覚に陥る。


「まだ……まだ、やらなくちゃいけない事が残ってるんだ」


 彼はぐるりと向きを変えて、遠くを見つめた。

 高く大きく建てられた煙突。


 紅いチリと黒い煙をモクモクと上げている。

 技術の街スタックタウンで一番大きな煙突だ。


 あそこには国を滅ぼせる程、凶悪で悍ましい兵器が隠されている。

 いや、大きな煙突が兵器そのものかもしれない。


 あれを止めなければ、この街は再び戦火の中に身を投じる事になる。

 オリパスは託された思いを守る為にも、絶対に止めなければならないのだ。


 傷ついた肉体を無理矢理にでも動かし、向かおうとする。しかし、思う様に力が入らない。

 うまく立っていられず、再び膝をついてしまう。


「あれを……あれを破壊しなければ」


 掻き立てる激情にオリパスは体を震わせる。

 その様子を見ていたパトロは苦しそうにルミナを見た。

 自分から話しかけるのが恐ろしかったからだ。しかし、ルミナはしっかり自分で話して、と見つめ返す。


 パトロは苦い物を飲み込む様な顔を浮かべてからオリパスと視線を合わせた。


「オリパスくん、申し訳ないんだけど……」


 彼の言葉にオリパスの紅い瞳はジッと見つめ返す。


「……」


 見つめられたパトロは言葉に詰まる。


 その瞳は背筋が凍りそうな冷酷さに凶器を突きつけられているかの様な威圧感を覚えるのだ。

 紅い瞳の異質さにこの場の誰もが感じている。


 先ほど、アンティークバレットがオリパスを助ける際、一瞬、目が合った一人は今すぐにでも元凶を撃たなくてはと、思うほどだ。


 彼の持つ瞳はあの紅蓮の竜巻に似ている。

 そんな恐ろしい瞳に対し、パトロの内心はこうだった。


(めっちゃくちゃ、怖いんだけど⁉︎ オリパスくんすごく怒ってる? 怒ってるどころじゃないよね。僕何かしたかな? あぁ、やっぱり、遅れたの怒ってるんだ。うぅ……僕だけ避難すれば、いや、そうしたら指揮が下がってろくにこのジジイどもは動かない。あぁ、話しかけるのやめようかな。やめたい……で、でも、そしたら、もっと面倒に!)


 あらゆる問題に板挟みになる彼は内心葛藤に葛藤を重ねて静かに口を開く。


「これ以上は君に協力できない……」


 パトロの言葉にオリパスはキョトンと目を丸くした。しかし、彼は何事もなかったかの様に呟く。


「そうか……」


「え、そうか? そうかじゃないですよ!」


 平然とするオリパスにパトロは叫んだ。

 どれほど危険のか、自覚してないのだと思ったのだ。


「君は自分の状況をもっと見るべきだ。このままじゃ、死ぬんだよ。僕らが駆けつけなかったら何回死んでいたと思う?」


「二回?」


 首を傾げながら言い返す。


「もっとだよ! これ以上、君は戦えない」


 パトロは頭を抱えて叫んだ。

 あまりにも状況が分かってない相手に悲鳴をあげたい気分になる。


「助けてくれた事は、感謝している。ありがとう。だが、あれを止めないと……」


 オリパスは街の外を眺めた。

 果てしなく続く荒野の真ん中には計り知れない大穴が空いている。

 もはや、この街で知らない者はもういない。


 兵器の爪痕だ。


 パトロは歯を食いしばり、視線を背ける。


 ドサッ


 目を離した。その時、倒れる音が聞こえた。

 パトロはまさかと思い視線を戻す。


 目の前にはオリパスが何もないところで挫けて、気を失っていた。

 塞いだばかりの傷から血が溢れ出し、真っ白な包帯はすでに赤く染まっている。

 パトロは怒りで叫びそうになるが、必死に堪えてオリパスの元へ行く。


「だから、言ったじゃないか……もう、戦えないって」


 恐る恐る手首を持つとまだ、脈を打っていた。

 オリパスがまだ生きていることに安堵する。だが、まだ、何も終わっていない。


 パトロはジッと大きな煙突の方を向いた。


 ランサン郵便協会には依頼に応じて区分訳がされている。

 それぞれ、一から五までのレベルが分けられていた。


 これらは依頼の距離、危険性、重要度、荷物の大きさを合わせたものである。


 依頼は必ず、その中で区分分けされるのだ。しかし、例外、規格外はどの世界にも存在する。

 大きな煙突からは黒い煙と赤い塵が舞う。

 パトロは涙目を浮かべながら震える声で言った。


「あれはもう……」


 ランサン郵便協会では手に余る依頼、


 確実に被害をもたらす依頼、


 到底たどり着けない依頼、


 これらはレベル五に入らない。


「レベルXだ」

アンティークバレットとの援護で助かったオリパス。しかし、彼が手に入れた瞳は凶悪でまだまだ使いこなすには時間が掛かるかもしれませんね。

パトロが今回の事件をレベルXまで引き上げた訳をお話しさせてください。

彼がレベルXにしたのはやはり煙突が原因です。あれ程の威力の物を止められなかった時、責任がランサン郵便協会に向かせない為、一線を引こうとしました。心配性の彼らしい判断です。

なら、最初からそうすれば? と思う方もいると思いますが煙突の破壊力を知ったのがつい最近だったんです……

キャリー・ピジュンの冒険「舞い降りる希望 Lv.5」を最後まで読んで下さり、

ありがとうございます。楽しんでいただけたら幸いです。

心苦しいのですが来月は投稿をお休みさせていただきます。ので、ブックマークを付けて待っていただけると嬉しいです。


「キャリー・ピジュンの冒険」を面白い、興味を持ったという方は、

是非、ブックマーク、高評価をよろしくお願いします。


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