舞い降りる希望 Lv.5(九話)
キャリーを先へ行かせる為、ルークは入り組んだ通路の上でロボットを迎え撃つ。
「フッ!」
金属片が盛大に割れ、散らばる音が響く。
建物の隙間や足元からロボットは虫の様に這い上がって来た。
「セイッ!」
切っても、切っても、キリがない。
ここまで来るのにも、苦労したのだ。
ルークは自身の体力が限界をすでに超えていることに気づいている。
「おい、そんな物被っているから疲れるんだよ。兄ちゃん」
黒々とした男、ボブは呆れた顔で、自分の顔を指差しながら伝える。
ルークは未だに兜を外していない。
そのせいで、熱はこもり、呼吸がしづらかった。
スタックタウンの気候は乾燥して、じわじわと熱が伝わってくる。
ボブの言う通りにしたら、多少でもマシになるだろう。
「悪いな、仕事中は切り替えたくってね」
迫り来るロボットをまた、二体撃破して返事をする。
(外す、か……)
手を伸ばしかけたが、悪寒を感じてしまう。
やはり不安感をぬぐい切れない。
この兜を外したら自分がドロドロと溶けて消えてしまう様な気がした。
家族の前に立って居られるのだろうか?
再び戦うと決意できるのか?
想像がつかない。
想像する事すらできなかった。
(いつかは、向き合わなくちゃならないな)
休日が終わったら、仕事が来るのか、と残念になる様な沈んだ気分だ。
(だが、今はダメだ……)
向き合ったとして、動けなくなっては意味がない。
この有象無象のロボットとやらをキャリーの元へ行かせてはならない。
彼女に危険が及べば、
スタックタウンの攻撃を許せば、
全てを失ってしまう。ならば、今は目を背け、目の前の敵に全力を注ぐのが最善の選択である。
ルークは自身の足元に一線を引く。
つんざく音と火花が散っていく。
神の国で帰りを待ってくれている妻や生まれたばかりの子供の顔を思い浮かべる。
そっと顔を上げると無尽蔵に生きたロボットの群勢とそいつらを作り上げた技術者が目の前にいた。
(こいつらを行かせてはダメだ)
全身に鳥肌が駆け巡る。
ルークは剣を構え、迎え撃つ準備を整えた。
「ここから先は絶対に通さない!」
ギロリと兜の奥で瞳が赤く光る。
言葉が通じなかったロボットがルークの横をすり抜けようとした。
「行かせん!」
ロボットの背中を貫き、動きを止める。
まだまだ、向かってくる奴らを切り捨てていった。しかし、ルークはスタックタウンの技術をまだ知らない。
彼らが何に憧れ、どんな理想へと向かっていたのか、体感していなかったのだ。
バキーン!
震え砕ける音と共にルークの剣は真っ二つに折れてしまう。
デコボコの歯車がルークの剣を噛み砕く。
腕を強く引かれる感覚と同時に剣の腹から先端までが中を舞う。
「うわっ! 折れた⁉︎」
愛用していた剣が折れた事でルークは目を丸くする。
次の瞬間、ロボットの一撃に打ち飛ばされてしまった。
「ぐわあああ!」
谷の様に深い建物の隙間を飛び越え、薄い壁を破り、建物の中まで飛んでいく。
壁を貫いた先では、老婆が俯いて誰かを見ていた。
投げ飛ばされたルークの悲鳴に彼女はピクッと顔を上げて振り返る。
勢いが止まらずに飛んでくる彼に、老婆は迷いなく弾いた。
「ふっ」
「うお、ぐっ……」
打ち返されて背中が痛い。
「邪魔だよ。アンタ!」
突然、罵声を浴びせられるルークは、痛む背中を押さえながら言い返す。
「今はそれどころじゃないだろ!」
折れた剣を突き立てながら立ち上がる。
顔を上げてみると白髪の髪を後ろで束ね、しわくちゃな皺と険しい顔を浮かべていた。
ルークは彼女の顔を見た時、真っ先に目に注目してしまう。
彼女の目は義眼でコルクセン程の白い円柱が両目に取り付けられていた。
それで見えているのか不思議になる作りだ。しかし、彼女はしっかりと見えているらしく、ルークを見 下ろしながら罵声を浴びせてくる。
「そうだよ。それどころじゃないんだ。バカが一人、暑さで寝込んでいるとこだよ。アンタの喧嘩なんざ、どうでもいい。でもね。怪我をしようなんて思っていたらアタシャ黙ってらんないよ。なにせ、医者だからね」
ガミガミと叫ぶ彼女は医者と名乗りルークの頭を兜ごと殴りつける。
「イッタ!」
直接、頭に殴られた様な激痛が走る。
いきなり殴ってきた事に物言いたい気持ちもあったが、今はそれどころではない。
ロボットたちが次々とこちらへ向かってくるのが、管の隙間から見えていた。
怒りを堪えながらルークは危険が迫っていることを老婆に伝える。
「ッチ、悪いがここは危険なんだ。そこの男も抱えて逃げてくれないか?」
「ふっ、それが医者に物合う態度かい? あいつは今、下手に動かせないんだよ。アンタらが別の場所で戦いな」
アタシャ、重い物は持てないと貧乏ゆすりをしながら彼女は言う。
ふと、老婆は首を傾げてルークに尋ねてきた。
先程までの高圧的な態度とは一般、優しく親切な感じだ。
「ところで、随分、苦しそうだね。どこか痛めたのかい?」
「……」
アンタに殴られて痛いんだよ。
ルークは怒鳴り声をあげて突き飛ばしたい気持ちになる。しかし、ここでさらにトラブルを起こすわけには行かない。
言いたいことをグッと飲み込んだ。
ルークは老婆を突っぱねるとゆっくりと立ち上がる。
「わかったよ。アンタの邪魔にならない様にするよ」
彼はそう言いながら建物の外へ出ていく。
建物の壁に無理矢理取り付けた骨組みに、さまざまな素材の板を貼り付けた床。
ベランダにしてはお粗末な作りの通路に出てきた。
ルークは数回、足で安全か確認する。
「なんつう作りだ……」
グラグラと揺れる床に呆れてしまう。その時、背後の壁に息を潜めていたロボットが襲いかかる。
ルークは押し倒されてしまう。
倒れた衝撃で不安を煽る音が響き渡っていく。
バキ、ミシミシ。
いつ、壊れてもおかしくない足場に背筋が凍りそうになる。
「この、どきあがれ!」
組みついてくるロボットを蹴飛ばしたルークはすかさず、体制を整える。
騒ぎを聞きつけたのか、周囲のロボットがゾロゾロと集まってきた。
虫の様な奴らを捌ききれるか、ルークは一瞬、考えてしまう。
チラリと折れた剣を見た。
「クソ……このままじゃ、ジリ貧だ……」
ジワジワと迫り来るロボットたちにルークは追い詰められていく。
もはや、ここまでか、そう思い始めた。その時、荒野から"あの男"が駆けつけてくる。
「マッスル、マッスル! 私はマッスル! マッスル、マッスル! 私はマッスル!」
謎の掛け声が街中にこだましていく。
金網を力強く踏み鳴らし、こちらへ次第に近づいてきた。
「マッスル、マッスル! 私はマッスル! とう!」
ルークの頭上で何かの爆発が起きた。
建物が破壊されて、パイプなどが宙を舞う。
「なっ⁉︎」
散らばる部品の中、姿を見せたのは、筋骨隆々の肉体に金髪の男。
「ダイン!」
キャリーやルークと元に依頼をこなした戦友がやって来たのである。
ダインはルークの目の前に飛び降りて来た。そのまま、周囲のロボットを拳一つで粉砕していく。
「遅くなりました。ルークさん、私が来たからには百人、いえ、千人力です」
腰に手を当てて胸を張る彼はニヤリと笑みを見せ、歯を輝かせる。
突然の到来にルークは言葉を失う。
彼とは随分前、荒野に入る前に別れたのだ。
「お前、どうやってここまで来たんだ?」
腰を抜かしたルークは頭を抱えて尋ねた。
「当然」
襲いかかるロボットを倒しながらダインは答える。
「走ってです」
ダインの言葉にルークは耳を疑った。
彼がいたのは、ここからずいぶん離れた枯れ木の村である。
枯れ木の村からスタックタウンまで馬車を走らせても一日か、二日かかるのだ。
ここは水のない荒れた大地で、魔物も生息している危険な場所。
さらにスタックタウンは常に移動し続けている。
自力で登るには相当な実力が必要だ。
(前から、薄々思ってたが……)
ルークは唾を飲み込みながら気づいてしまう。
(コイツ、相当ヤベェは……)
思わぬ加勢に驚く彼だったが、危うい場面に駆けつけてくれたのは、本当に嬉しかった。
ルークは安堵の息をこぼしながら、ダインの方を叩く。
「来てくれてありがとな。本当に助かった」
ダインはチラリとこちらを見て、嬉しそうに笑みを浮かべる。
「おいおい、ふざけんなよ。コイツら一体一体特注のオリジナルなんだぜ」
ロボットたちの奥からダインと同等の体格をしたボブが姿を見せる。
自身の作品を最も容易く壊すダインに会いに来たのだ。
彼は肩をすぼませながら、じっと現れたダインの方を睨む。
「状況から察するに彼は、この人形たちの親玉ですね」
「あぁ、そんな所だ」
「彼の相手は私が引き受けましょう。人形たちも全部、壊してやります」
ダインがここまで進んで戦おうとするのに驚く。
強靭な肉体を持ち、簡単にロボットを倒すダインがいてくれれば、負ける気がしない。だが、彼に全部任せる気はない。
ルークは背後から来るロボットの心臓を正確に貫く。
「俺にも守らせてくれ」
背中合わせに彼らは今も無数にやってくるロボットたちを迎え撃つ構えをとった。
そして、ダインは目の前のボブと取り巻きのロボットを相手に、ルークはキャリーの元へ向かおうとする奴を倒しに動き出した。
あやしいものじゃないよ、あやかしだよ。
どうも、あやかしの濫です。
攻殻機動隊のバトウさんの義眼が好きで義眼の老婆を出してしまいました……
他にもやってみたいと思っていたことを詰め込みすぎてしまっていました。
ファドン刑務所で別れたダインがついに参戦!! キャリー程ではありませんが馬車並みに早く走ってきましたよ。超人ですね。
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