Lastly key you Lv.5(二話)
目を覚ますと、空は青く鳩が気持ち良さそうに飛んでいた。
キャリーはチクチクする干し草のベッドから起き上がり、辺りを見渡す。
広い草原と来た道がどこまでも続いていた。
自分が配達の途中だと思い出しながら、髪に着いた干し草を払い落す。
「おじさん! バシレイアまであと、どれぐらい?」
前で馬車馬を操る麦わら帽子のおじさんに聞く。
「もうそろそろだ、お嬢ちゃん。丘を降りたら……ほら、あそこだ。見えて来ただろう」
言いながら麦わら帽子のおじさんは指差す。
キャリーは馬車の後ろから顔を覗かせて見た。
丘の下には大きな城跡が並んでおり、街の奥には、山の様に大きな塔が天に光を放って立っているのが見えた。
あそこが神の国、バシレイア。
ようやく見えて来た国にキャリーは心を躍らせた。
国の門まで行き、そこで麦わら帽子のおじさんとは別れる。
キャリーは、重苦しい石レンガのトンネルを抜けると、出迎えてくれる様に眩い光と華やかな街並みが広がっていった。
大通りから広場にかけて、ずらりと出店が並んでいる。
あいだには大道芸を披露する人もいた。
この祭りは、バシレイアと独立したスタックタウンの終戦の祭りで、キャリーは嬉しくて、誇らしい気持ちに、顔が緩んで笑顔が出てきてしまう。
二年前、ファイアナド騎士団と共に活動した事を思い出す。
この戦争の途中、やむを得ず、彼女は戦線を離脱させられたが、気持ちはずっとメアリーたちと共に平和のために戦っていた。
思い出に浸っていると頭上に黒い影が写る。
見上げると真っ赤な風船だった。
「わたしのふうせん!」
女の子が寂しそうに手を伸ばす。
キャリーはピリッと雷をまとう。次の瞬間、彼女は建物よりも高い場所に飛んでいた。
見上げていた少女には自由な鳥のように見えていただろう。
あっという間にキャリーは風船を掴み取り、地面に着地した。
「はい、どうぞ」
風船を手渡すと女の子はとても、嬉しそうにお礼を言う。
女の子の両親を深々と頭を下げて、楽しい祝祭へと戻っていった。
楽しそうな親子を見ていると、香ばしい匂いが鼻に入ってくる。
匂いのする方を見ると燃え盛る炎の中、肉汁を滴らしジュージューと音を立てている串焼の出店があった。
バンダナを巻いているが汗は滝のように流れて何度も額を拭う店主。
彼は机の隣に置いていた、ツボの中から光沢のある黒いタレの付いたハケを取り出す。
たっぷりついたタレを串焼に塗りたくった。瞬間、先ほどよりもさらに香ばしくて甘い香りが湯気と共に辺りに漂う。
ひと嗅ぎすると、口の中いっぱいに唾液が広がっていく。
気づけば、彼女は串焼に釘付けになる。
「お嬢ちゃん、さっきはすごかったな。あれは祝福の力か?」
店主は額を拭きながら訪ねる。
キャリーは明るく答えた。
「そうだよ!」
「やっぱ、持っている人はすごいな。飛んで行った風船だってすぐに取れるんだぜ」
店主は羨ましそうに言う。実際、羨ましい事だ。
「ここ、神の国バシレイアでも、祝福の力を持っているのは珍しい。着地が安全にできる変チクリなものから、炎を自在に操れる奴まで。いやー羨ましい!」
祝福の力は後天的、先天的に発現する一種の才能の様なものだ。
計算が得意、足が早いなどの才能と大差ない扱いを受けている。
「お嬢ちゃん、買ってくかい?」
例え無くても、めげずに商売だってできるのだ。
キャリーは頷き、口に手を当てながら、どうしようか、串焼を眺める。
「真ん中の肉は出来立てで美味しそうだし、右の肉は野菜もセットで甘くて美味しそう…いや待てよ、左端にいるそこの串焼きにはものすごくタレがついている気がする……」
そんな風に悩んでいるキャリーを見ながら店主が聞いてきた。
「お嬢ちゃん、どっから来たんだ? もしかして、スタックタウンかい?」
彼女は前を向き頷く。
「はい! ここには配達に……」
途中まで言いかけて、自分が何しにこの国に訪れたのかを思い出す。
キャリーは急いで人混みをかき分けながら、走り出した。
「ごめんなさい! あたし、この国には配達に来たの! 仕事が終わったら必ずまた来ます!」
それだけ言い残してあっという間に消えてしまった。
お届け先の家までは、出店がある通りから広場を通って、左に曲がり、その先にある。
ここの道は先ほどの大通りと大差無いほど華やかに飾られているのだが、人気は少なかった。
みんな、通りでお祭りを楽しんでいるのだ。
キャリーは道の角で立ち止まり鞄からお届け先の書かれた紙切れを取り出す。
「えっと、確か……あ! あった、あった! ここだ」
お届け先の住所が書かれた紙切れを見てから、屋根を含める。
三階建ての立派な建物だった。
キャリーは鞄から小包を取り出して、装飾が着いた扉の輪っかに手を引っ掛けてノックする。
待っていると「はい」と短い男の声が聞こえた。
スーツを着込んでいる立派な髭のついた小太りの男が顔を覗かせる。
男の前には、綺麗な金髪に黄色く輝く瞳をした少女が立っていた。
「どちら様でしょうか?」
言い終わる前にキャリーは待っていましたと、言わんばかりに微笑みながら答える。
姿勢を正して、胸を張り、右手を心臓に添えて自己紹介を始めた。
「ランサン郵便協会のキャリー・ピジュンです。お待たせしました、お届け物です!」
挨拶を終えると鞄から配達証明書の紙と万年筆を取り出して、サインを求めようとした。しかし、男は無視して小包を奪い取ったのだ。
「おお! ついに届いたのか! スタックタウンの懐中時計!」
彼は小包を高々と掲げながら饒舌で語り始める。
「人の街、別名、技術の街と呼ばれるスタックタウン、その中でも知る人ぞ知る、隠れた名店。そこの店主が一つ一つ丁寧に作り上げた最高級品の懐中時計! 注文してから、まだか、まだかと待ち侘びていたのだ!」
男の目は、今日の天気よりも晴れやかだった。
介して、キャリーは雨の中、泥に塗れた様な気分で、万年筆を拾い上げる。
彼を睨みつけた。
気づいた男は、高々と上げていた小包を脇に挟んで、申し訳なさそうに咳払いをする。
「すまない、少し興奮しすぎた。昔から精密機械には目がなくてね。」
彼は顔を真っ赤にしながら謝った。
キャリーは苦笑いを浮かべることしかできない。
「今日は楽しい祭りだ。ゆっくり滞在してってくれ」
言いながらサインを終えて、書き終わった配達証明書と万年筆を返してくれた。
キャリーはそれを受け取り、目の輝きを取り戻しながら返す。
「はい、そうさせて頂きます!」
男は頷き扉を閉める。
扉が閉まる瞬間、男が小包に向けてニヤニヤと笑みを向けるのが見えた。
キャリーは気にせず、「よし!」と掛け声と共に肩の力を抜く。
「これで配達もおしまい! さっきの出店で串焼きを買ってこよう」
彼女は回れ右をして、鼻歌を歌いながら歩き始める。
「あっでも、その前に配達証明書を持って報酬を貰わないと」
手に持っていた配達証明書を睨んだ。
「大体なんで、いつもこっちを書いてもらってからお金をもらうんだろう? 依頼人から直接払えば早いのに」
そんな風に愚痴をこぼしながら大通りに続く暗い脇道に入って行く。
途中、剥がれかけのポスターに目が止まる。
近づいて見ると広告用の新聞で、ノルマの為に路地に貼ったものだと気づく。
貼り直して内容に目を通す。
「……!」
ポスターの内容を見た瞬間、自分の目を疑った。
紅蓮の竜巻と恐れられた、悪名高きファイアナド騎士団、団長メアリー・ホルス。
祝祭の夕暮れにて、終止符を打たれる。
セットで縦線が均一に引かれた背景を背に、暗い顔を正面にしたメアリーの写真が一枚飾られてあった。
キャリーはポスターを引きちぎり走り出す。
怪しいものじゃないよ、あやかしだよ。
どうも、あやかしの濫です。
僕は、物語を書くのは、好きなんですけど、
いかんせん、仕事が遅くて、毎日投稿とか、苦手だなぁ、
と思いましたので、できた作品をちまちま切って投稿しています。
正直、変なやり方だなと感じています。
もっと、良いやり方が知りたい!
「キャリー・ピジュンの冒険」を面白い、興味を持ったという方は、
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