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舞い降りる希望 Lv.5(三話)

 ランサン郵便協会のパトロは、アンティークバレットの老人たちに協力を求める。


 幸いなことに日頃のたむろできる場所と仕事仲間と言うこともあり、最も危険なレベル五の依頼を引き受けてもらった。

 だが、あまりにもトントン拍子に進んでパトロは不安を覚える。


 命を懸けた戦いにあまりにも安請け合いする彼らはまともなのか心配になった。


(そもそも、まともな人がこの街にいるのだろうか? きっと、僕だけがまともなんだ!)


 今は受付嬢ルミナが足跡? で、書き上げた資料を見てもらっている。


「字が小さくて読めんな……」


「そくせき……なのか?」


 老人たちはびっしりと文字と数字が敷き詰められた三枚束の紙を睨みながら言う。

 書類をルミナに頼んだのは間違えだった。

 パトロは眉間に指を置く。

 目をこらしながら資料の中身を簡潔に説明を始める。


(ルミナに頼んだ時点で、薄々想像できてたけどさ……なんなの! この文字量は? 相手に読ませる気ある? ないでしょ!)


 何か物言いたげな彼は息を殺して、内心で愚痴をこぼす。


(これじゃあ、不当契約の内容をこっそり書き込んで、都合よく結べる詐欺だと思われるんですけど! うちはそういうのじゃないでしょうが)


「まぁ、ルミナに限ってないだろうし、書いてないからいいけど……」


「何か言った?」


 無意識に思っている事が出てしまう彼の背後からルミナが尋ねてきた。

 うっすらとそばにいたルミナに聞かれてしまう。

 パトロは体を捩り距離をとりながら全力で首を振る。


「なんでもないです! なんでも」


 いつもの様子にルミナはなんとなく、疑われていたのだと、気づくが気にしてもしかない。

 彼女はうっすらと優しい笑みを浮かべるだけだった。


(めんどくさいな〜)


「なに? 怖い!」


 なかなか見ない顔にパトロは内心思った事がバレているのではと、不安と恐怖に駆られてしまう。

 正直に伝えるべきなのか、それともお互い黙って流すか、悩み出した頃、アンティークバレットの一人が眉を顰めて手を上げる。


「おい、この資料には大事な事が抜けているぞ」


「「ウソ!」」


 想像もしてなかった出来事にランサン郵便の二人は目を丸くする。

 髭を三つ編みにした老人も頷く。


「あぁ、確かに、大事な所が抜けているな」


 パトロは慌てて資料を端から端まで読み直す。

 彼の横でまんまるほっぺたを押し付けながらルミナも自分の作成した資料を覗き込んだ。


 書くべき事や必要な物は全て書き込んでいる。だから、資料一枚の予定が三枚になっているのだ。

 それでも足りない物はなんなのか、全く想像がつかない。


 契約内容に穴があったとしたら大変である。

 今にでも泡を吹いて倒れそうな彼にある老人は呟いた。


「この資料に足りない物は、それは……」


 ごくりと唾を飲み込む音が嫌に大きい。

 冷や汗が全身から溢れ出る。


「誰がボスかだ」


「……はい?」


 老害の言葉にパトロは耳を疑ってしまう。


「その通り!」


「よく言った!」


 老人たちは次々に手を叩き、頷いた。

 パトロは理解できず首を傾げる。


「それってそんなに重要ですか?」


 聞くのはヤボな気がしたが、分からずに進めるわけにもいかない。

 恐る恐る尋ねてみた。すると、アンティークバレットの彼らはギロリと目の色を変えて頷く。


「いかにも、少数なら自然とリーダーを決める事ができる。しかし、ワシらアンティークバレット全員ともなると統率がとりづらいのじゃ」


「おぅ、俺の場合は全く聞こえなかったりするな」


 自信満々にハゲ頭で眼帯のお爺さんは腕を組む。すかさず、周囲の者たちにやかましい、と光り輝く頭を叩かれる。


「えーっと、フィーリングでなんとかなりませんか?」


 これでも、刻一刻と時間がないのだ。

 悠長に決められない。

 パトロは苦笑いを浮かべて、相談してみる。しかし、彼らはキッパリと断ってきた。


「ダメだね」


「ダメじゃ」


「デキぬ」


 パトロは思わず、目眩を起こし、今にも倒れてしまいそうになる。

 よろめく、彼をルミナは受け止める気はなく、距離を置いた。


「しかたない。ここはワシが指揮を取らせてもらおう」


 ざわざわとボスを決める老人たちの中、一人、ハゲ頭に眼帯をつけたお爺さんが手を上げる。


「こう言う経験を、ワシは何度も乗り越えてきた」


 ニヤリと不揃いの歯を見せて笑う。しかし、ブーイングとゴミが一斉に投げつけられる。


「ふざけるな!」


「くたばれ、クソジジイ!」


「寝言は寝て言え!」


「おい、誰だ。クソジジイって言ったのは、お前もだろ!」


 ハゲ頭にゴミを投げつけられたお爺さんはカンカンに怒りながら振り返った。

 髭を三つ編みにした老人が呆れて呟く。


「お前さんのせいで何度死んだ妻を思い出したか……」


「思い出せたならいいだろ?」


 お爺さんには髪どころか感性も抜けているのかもしれない。

 投げつけられるゴミに当たりながらパトロは魂が抜けかけていた。


「オメェには向いてねーつっていんの! 俺がボスをしてやる」


「はぁ? 短気なあんたにゃ無理だよ」


 ボスをやるのはワシだと次々と名乗り出る者はいるが、すぐ後に納得がいかないと声を荒げる者たちが出る。

 他人に指揮権を握らせたくない彼らは、今にも殴り合いが起きそうな程、罵り合いながら口喧嘩を始めてしまう。


「ちょっと? ちょっとちょっと、なんで、こうなるの? ねぇ、パトロなんとかしなさい。男でしょ」


 収まらない状況にルミナはパトロを揺らす。魂が抜けて解放されていた彼は直ちに、面倒ごとに向き合わされる。


「うっ……男だからって、問題事を毎回、押し付けるのをやめてもらえないかな? 僕だって無理な時はあるんだ。あぁ、止めなきゃだよね。でも、矛先がこっちに向くのはちょっと……そもそも、誰がなったところでおんなじでしょ?」


 ゴニョゴニョと呟きながら彼は爪を噛み始める。

 本当にやりたくないのだ。

 そもそも、自分には荷が重すぎる。


 相手との取引も、協会の支部長も、そもそも、生きることすら。

 投げ出したい気持ちがあったが、心配性のパトロには常に未来が想像できていた。


「はーーーー」


 彼はやがて、長い長いため息をこぼす。

 ただでさえ厄介事が多いのに、とぼやく。


 言い争いはそう簡単に終わらない。


 今は一刻の猶予もないのだ。

 悠長にリーダーを決めるなど、くだらない事に時間を使いたくなかった。


 パトロは緩える足でゆっくりとアンティークバレットの元に近づく。


 不安で猫背になる背中を頑張って戻しながら、気休め程度に青白い顔でニヒルな笑みでも貼り付けた。


「霧の国で狩人をしていたアンティークバレットの皆さん、ちょっといいかな?」



 霧の国、狩人と口にした次の瞬間、一瞬で老人たちは口を閉じる。

 彼らにとって霧の国は変えることのできない故郷であり、狩人とは最も誇りを持つべき役割だと思っている。


 静まり返ったのを見たパトロはイライラと棘のある口調で話し出した。


「依頼人をそっちのけでリーダーを決めようとしているけど、おかしと思いませんか?」


 いい加減、動き出さないと取り返しのつかない事になる。


「依頼を出しているのは僕、僕、僕、僕です! 何かを決めるには一度、こちらを通してください。資料にもそう書いてあったでしょ」


 手に持っていた書類を彼らに見せる。最もどこの行に書かれているかなど老人たちには見えている訳もなく。


「今は本当に時間がないんです。こんな事に時間を使ってあなた方の寿命も浪費したくないでしょ」


「だが、それでは統率が……」


 ある老人が恐る恐る答えた。その時、パトロの中で何かがちぎれる。

 バンッと破裂する様に叫びだす。


 これ以上、待っていられないのだ。


 何か起きては手遅れになってしまう。


 遅れればその対処で、アレやコレやと動かなければならないのだ。


 そんな重圧に耐えられる程、自分のハートは強くない。だから、とっとと決めるべきなのだ。


「あーうるさいうるさい! 俺が決める。今から誰が指揮をとるか俺が決める。いいか、俺がボスだ!」


 パトロの言葉にその場にいた全員が息を飲む。

 誰よりも驚いたのは付き合いの長いルミナだった。


 パトロは臆病な性格のため、リーダーなど絶対にしない。自分よりも上に指名されない限り。

 そんな彼が自ら進んでボスを名乗り出たのだ。


「パトロ〜成長したね~」


 友の成長に思わず涙があふれ出る。


「え?」


 だが、パトロの頭にはハテナマークを浮かべていた。

 自分が前に立つ気など始めからなかった様に。しかし、彼の思惑とは裏腹に話はスムーズに進んでいく。


「「「どうぞ、どうぞ」」」


 老人たちは一斉に道を譲るかの様に手を低くパトロに向けた。


「え? ちが……」


「いや〜お前さんがリーダーなら誰も文句を言わんさ」


「そうとも、他の老ぼれなんぞよりも、百倍マシよ」


 ハゲ頭の眼帯のお爺さんが腕を組みながら言う。


「全員、構わないだろ?」


 チラリとお爺さんが振り返り老人たちに尋ねた。

 彼らは意を唱える者はおらず、うんうんと頷く。


「と言う事で、よろしくな、ボス」


 長い髭を三つ編みにした老人が挨拶代わりにパトロの肩を組む。


「ちが……」


 ふと、聞き漏らすほど小さな言葉が漏れ出す。

 見るとパトロが目を回しながら何やらブツブツと呟いていた。


「ち、ちがう……僕はボスだけど、ボスは他にする為にボスになったんだ。第一僕なんて人を指揮するなんて向いてないんだ。あぁ、なんで、なんで、こうなるんだよ。誰か変わって……でも、変わるとなるとアレが……」


 壊れてしまい首がカクカクと揺れる。

 言葉にできない思いが巡り、口からはアレやコレやと伝わりづらいものに変わっていた。

 老人たちは小さな嘆きなど、聞こえてはいない。


 髭を三つ編みにした老人もルミナも気にせず、次の話に進んだ。


「ボスが決まったが、ワシら程度でどれ程の戦力になる?」


 しわの多い老人が尋ねる。


「ワシらよりも何倍も動ける若い連中ばかりじゃ。狩人として最善を尽くすが……」


 どんな強者でも老化には敵わない。

 ランサン郵便協会はその事も織り込んでいた。


「そこはご安心ください」


 受付嬢ルミナはクスリと笑って、パトロに話を進める様に促す。

 先ほどよりもぐったりと疲れた様子でパトロは話し始めた。


「えぇ、アンティークバレットの皆さんにはこちらで支給させていただく武器で戦ってもらいます」


「武器程度でなんとかなるものなのか?」


「あ、えぇ、まぁ」


 曖昧に答えた。返事をするだけの気力がもうなかった。


「えっと、その武器というのが」


 武器について説明しようとした。その時、彼の背後から小鳥の様に高く、元気すぎる声が響く。


「ランサン郵便協会からのお届けです!」


「ギイヤァァアァァア!」


 突然の事にパトロは床に倒れてしまう。

 敵がこちらの動きに気づいたのかと思ったのだ。

 振り返るとそこには、一人の少女が立っている。


 綺麗な金髪に黄色い瞳の少女。


「キャリーお嬢様⁉︎」


 キャリーが突然、現れて驚いてしまう。だが、キャリーはパトロの驚きにはもう慣れてしまっていた。

 訳を話す前に渡すものを渡そうとする。


 彼女はアンティークバレットに今、最も必要としているものを魔法の鞄から取り出すのだった。

あやしいものじゃないよ、あやかしだよ。

どうも、あやかしの濫です。

古典的なギャグが出てきましたね。

パトロとしては権限を一度手にしてから誰かを指名して

指揮を譲る気だったのですがうまくいきませんでしたね。

ルミナが内心辛辣なのは付き合いが長くもう慣れたからで、

友人や仲間として別に嫌い側に置いてないんです。だから、安心してパトロ!

ただ、ミラさんからは序列を付けたら、もしかすると……

「キャリー・ピジュンの冒険」を面白い、興味を持ったという方は、

是非、ブックマーク、高評価をよろしくお願いします。


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