舞い降りる希望 Lv.5(二話)
僅かな隙間にコレでもかと建てられた建物に張り巡らされた通路。
迷宮と例えるのに相応しいこの街は、技術の街スタックタウン。
太陽の光は後から建てられた工房や部品のせいで木々の隙間から差し込む溢れ日の様になっている。
最もこれ程、ロマンチックな表現は似合わない。
スタックタウンではテリトリーが曖昧で歩く人が道と言えば、他人の寝室ですら通り道になる。
広場と思えば、例え、狭くても広場とすることができるのだ。
「へっへっへ、どうした? 出せよ」
勝ち誇った様に不揃いの歯で笑う老人に対し、目の前のお爺さんは頭を抱える。
お爺さんの手にはカードが握られているが、彼の頭と同じ様にテーブルに出せるカードは髪の毛一本もなかった。
先が得ないお爺さんは古傷をかいて誤魔化す様に眼帯に指をかける。
「待った……」
「待っただぁ? 待ったとろで何が変わるんだよ。チェスじゃあるまいし、ヒッヒッヒ」
「そうだぞ、諦めてこちらに番を回せ!」
髭が長い老人が痺れを切らせて、叫んだ。
「そう、怒るな。コイツだって手はあるはずさ。そうだろ?」
髭が長い老人の前に座るメガネをかけた老人は言う。しかし、その目には何か特別な出来事に期待する訳でもなく、分かりきった事を裏付けようとしていた。
「ぐぬぬぬ……」
お爺さんは息を止め、大粒の汗をかきながら、どうにもできない状況に唸り声を上げる。
カッカッカッカッ
上か下か、慌ただしく走る足音がした。
通路を走り抜けているのか、階段を駆け降りているのか、判断がしづらい。
その音は次第に近づき、ついには目の前のこちらに上がってくる階段までやってきた。
「あぁ、やっぱりいた! 予想外の事をしていたらどうしようかと思った」
安堵した、よりも、呆れてしまうと言いたげなため息を溢す男。
げんなりとした様子で、青白い肌に目にはクマが出来ている。
猫背の彼は手すりに全身を預けてカードゲーム中の老人たちを見ていた。
「おぉ! パトロ。パトロじゃないか」
追い詰められていたお爺さんは、カードを手放し、逃げる様にパトロと呼んだ男の元へ行く。
「あぁ、やっぱり」
「こんな手札で時間を使いやがって」
「頑固者が……」
後ろでは彼が持っていた手札を見て、待たされた者たちは各々文句を垂れる。
とやかく言われているお爺さんは気に止めず、生き生きとパトロに話しかけてきた。
「依頼か、依頼じゃな! ちょうどよかった」
「え、何事? そっちのトラブルはそっちでお願いしますよ」
「気にするな、どうせ明日には忘れる」
お爺さんはヘラヘラと笑う。
「昨日のつけもか?」
「あぁ」
様子を見ていたまた別の老人が尋ねるとお爺さんは悪気のない返事をした。
周囲が一瞬で呆れ返る。
よくある光景だが、心配性のパトロにとっては気になる事だった。
「どうしよう……大変な時なのに、この人たちに頼むと面倒が……」
あれやこれや後始末の不安が込み上げる。しかし、今はそれどころではない。
国の命運がかかっているのだ。
パトロは頭を激しくかきながら言う。
「ランサン郵便協会、スタックタウン支部、支部長パトロとして、皆さん、アンティークバレットに依頼を受けてもらいたいです」
いつも、ビクビク周囲を気にして、背中を丸くする男が今日は改まって、背中を伸ばす。
突然の事に驚く老人たち。
彼らは互いに見合い何らかの状況だと察する。やがて、パトロに近いハゲて眼帯をつけたお爺さんが答えた。
「話を聞かせてくれ」
霧の国では人に化ける魔物が多く、人々を守る為、奴らと戦う専門家が存在する。
向こうでは狩人と呼んでいた。
アンティークバレットは、元狩人の集団であったが、技術者と共に国を出た者たちである。
技術の街スタックタウンでは傭兵として日々の遊ぶ金を稼ぐ老人会だ。
彼ら全員がかなりの老体ではあるが、ランサン郵便協会の依頼を引き受けられるほどの実力を持っている。
スタックタウン支部の稼ぎは彼らが賄っていると言っていいほどだ。
(大丈夫かな、厄介ごと過ぎてこの人たちぽっくりいったりしないよね……)
ざっくりと依頼内容を話し終えたパトロは、不安で片腕を掴みながら、お爺さん方の様子を伺う。
何せ、他国と街の命運を賭けた争いだ。
(キャリーお嬢様やガーネットさん、オリパスくんは戦争を止めたがっている。でも、実際はもう始まっているんだ)
重い唾を飲み込みながらあらゆる事態を想像した。
(今は次の段階、過激派の目的である神の国バシレイアを滅ぼすか、止めるかの戦争になる……もし、過激派の思惑が進めば、多くの国が危険を避けるか立ち向かうかの選択を取るはずだ。あぁ、今度は一体、どれだけ続くのかな?)
途方もない。
「戦争は長引くものだ……」
どちらの意見を通すか、それが戦争なら話は常に平行線である。
ただ、痛みと物が減るだけの時間が過ぎていくのだ。
こんな事なら巻き込まれる前に夜逃げを計画しておくべきだったとパトロはぼんやりと思う。
話を聞き終えたアンティークバレットは難しい顔を浮かべていた。
一人はしわくちゃな顔をなで、一人は体の古傷をかく。
そして、ハゲたお爺さんは何もない頭を撫でながら深く頷いた。
「なるほど……つまり、派手に暴れようとしているガキどものおもりをすればいいんだな」
「あぁ、神の国を滅ぼすなんざ、威勢はいいが許される事じゃ」
「全員を止めるには人が足りない。だから、ワシらを頼りに来たのだね。パトロくん」
各々、自分なりに状況を飲み込めたようだ。
彼らは確認のため、パトロの方を見る。
理解してもらえて安心するパトロ。だが、一斉に集まる視線に心臓が震え始めた。
捕食者に狙われた気分だ。
青ざめながら彼は頷く。
「そ、そうです。もち、もちろん、それ相応の報酬として依頼はレベル五、約二十万ミンツのお支払いを前金として、報酬に合わせて追加で払わせていただきます」
金が一気に飛ぶのは嫌だが、しのごの言っていられない。
金なら回せばいくらでも稼げる。
友人や先生の意見を言い訳に自分を落ち着かせた。
(果たして、これで引き受けてくれるだろうか?)
命を賭けるには少々少ない金額な気がする。
自分ならこの額など、話にならないと思った。
(そもそもやりたくないし!)
だが、自分の意見だけでは物事を決めるべきではない。
実際に提示してみないと相手の様子など分からないのだ。
次の提示額をどれだけ引き上げられるか、心配するパトロ。だが、彼の予想と反してアンティークバレットの老人たちは笑みを浮かべる。
「十分」
「むしろ、高い方だな。老い先短いワシらにとって大金はちと置き場に困る」
「ぎゃははは、そうだな。この街じゃ尚更! 気づいたら家がないなんてザラだ」
軽く聞き流しそうだが、他の国ではまずない話だ。
老人たちの反方を見て、パトロは迷ってしまう。
期待感と思わせへの恐怖で視界が狭まる。
「えっと、つまり……」
「おう、その依頼、受けさせてもらう」
あっさりと答える、ハゲ頭のお爺さん。
パトロは喜びよりも先に不安になってしまう。
「え、都合良すぎでは? 命をなんだと思ってるのこの人たち……」
失礼な発言だが、大きな依頼に胸を高まらせる老人たちには聞こえることはなかった。
ただ、同僚にははっきりと聞かれてしまう。
「相変わらず、ひどい事言うよね。パトロ」
「!」
背後から語りかけてきたのは、丸メガネに少しふくよかな体型の受付嬢。
ルミナ・ベーカリーだ。
いつの間に、と尋ねる言葉も恐怖で失ってしまう。
パトロは床に転げてしまうのだった。
あやしいものじゃないよ、あやかしだよ。
どうも、あやかしの濫です。
パトロが助けを求めたアンティークバレット、彼らは霧の国で元狩人をしていた人たちです。
今は現役を引退してのんびり老後を過ごしていますね。
なので、お金についてはあまりがめつくはないですね。貸した時は別ですが……
他人の家に通り道として勝手に入る人も多いので、持っていても仕方ないのかもしれません。
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