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燃える絆 Lv4(八話)

この入り組んだ街に逃げ場はあるのだろうか?


ある訳がない


オリパスは狭い路地の隙間に身を潜めながら自分で浮かんだ疑問を簡単に切り捨てた。

 決着がつき、倒れ込むオットーを前に、オリパスはゆっくりと手を差し伸べる。

 彼の手は血が滲み、ガサガサでボロボロだった。


 足はガクガクで立っているのが、おかしいレベルだ。そして、彼の顔はお世辞にもいいと思えない。

 目をギュッと瞑り、頑張って開こうと瞬かせる。


 コテンパンにやられて惨めな自分以上に情けない相手に、オットーはやる気をなくしてしまう。

 これ以上続けても勝てる気もしなかった。


「あたしの負けだな……」


 オットーは負けを認める。


「なぁ……」


 彼女は俯きながら抱えていた考えの答えを確かめる事にした。


「あたしは間違えちまったのか?」


 ファイアナド騎士団が解散された時に、潔く受け入れていたら、良かったのかもしれない。


 メアリーの思いに応えることが、出来なかった。

 オットーは自分が惨めに思ってしまう。


「裏切り者はお前だと思っていたけど……本当はあたしらが裏切り者だったんだな」


 苦笑を発しながら彼女は悔しがる。

 じんわりと目が熱くなっていく。

 体を少しずつ丸めていくオットーを見ていたオリパスは首を振る。


「間違えたのは、俺たちの方だ」


 はっきりと言い切った。

 彼は俯きながら、自分の過ちを数え始める。


「俺はお前みたいに強くない。戦える様になったのはガーネットが銃を作ってくれたからだ。だが、そんな物、意味はなかった」


 埋まらない程、彼と仲間たちとの実力差はあったのだ。


「副団長として責務を全う出来なかった。限られた選択肢の中で正しい物を選べなかった。常に最善の選択肢しか選ばなかった。その先に何があるか、深く考えもせずに」


 彼の並べる罪にオットーは抗議したくなる。

 弱い事は事実だ。しかし、副団長、人を引っ張っていく事を誰よりも頑張っていたのは嘘じゃない。


 この目で見ていた。


 少なくとも自分が同じ立場だとすれば、戦争で死んでいただろう。

 それなのに彼はまだ、足りないのだと言う。

 並べていく罪を睨む様に、オリパスは最も重い罪を口にした。


「こんな事になったのは……俺が……俺に勇気がなかったからだ」


 歯を食いしばりながら言う。


 オットーは知る余地もないが、スタックタウンを離れる事を決めたきっかけは、二人の少女が人質にされていたせいである。


 決断しきれずにいた。

 そして、メアリーの選択に従ったのだ。


 例え、リスクがあったとしても、誰かに相談すれば未来は変わったのかもしれない。

 結局は大切な人を見捨て、仲間を手にかけてしまった。


「メアリーは街と仲間たちを導いてくれ、と俺に頼んだ……」


 オリパスは寂しそうに語る。

 彼の話をオットーは黙って耳を傾ける事にした。


「だが、俺はあいつの思いを無駄にしようとしたんだ。メアリーが死んだ夜。俺も後を追おうとした。全部、どうにでもなって仕舞えばいいって思えたんだ」


 そうすれば、全部楽になると思えた。

 実際、楽だったのかもしれない。


 オリパスは呆れた様に笑い、天を仰ぐ。


「だが、それも出来なかった……」


 彼の脳裏に一人の少女がちらつく。

 綺麗な金髪に黄色い瞳の少女の姿。


 メアリーに引っ付き、彼女と対等に接することができたたった一人の友人だ。


「ここで戦争が始まれば、あいつが死んだ意味はなんだ? 苦しい思いを背負わせて、殺しといてどうなんだ?」


 オリパスの思いが炎の様に燃えているのが、オットーでも分かる。

 あれもこれも燃やす様に彼は、自分自身への怒りを常に抱えていた。


「あいつの死を無駄にしない。メアリーの選んだ道が間違ってたなんて、誰一人、言わせない」


 オリパスは真っ直ぐと睨む様にオットーを見下す。

 彼は淡々と警告した。


「正しい選択にする為に、俺は何度でもお前たちの邪魔をし続ける。あいつの犠牲を無駄にはさせない」


 締めくくる彼の言葉にオットーは何も答えなかった。

 復讐心が消えたわけでも、彼よりも劣っていると思った訳でもない。


 今もオリパスのことが憎いし、自分を頼ってもらえなかった悔しさもある。

 見下ろす彼を反射的に睨み返した。毛を逆立たせて、怒りを露わにする。だが、あまり長続きはしなかった。


 オットーの耳がヘニャリと垂れてしまう。

 あの人ならああするのでは、と思う様になった。


 誰よりも強く、誰よりも優しい人だ。

 ぶつかれば、自分が勝つと分かっている。


 街の人間がそれだけで納得すると思わないだろう。


 オットーですら、螺旋の様に続く出来事が想像できる。

 だからこそ、突然、姿を消した事に納得が出来なかった。


 自分が信頼されていなかったのだ、と思えてしまう。実際、そうなってしまった。


 首を振るなんて出来ない。


 オットーは再び、オリパスの方を見た。

 彼はまだ、手を差し伸べている。


 オットーは彼の手を取る事にした。だが、次の瞬間、頭に強い衝撃が走り、床に倒れてしまう。



 

 爆ける音と共にオットーは床に倒れてしまった。

 オリパスは突然の事に理解が間に合わない。


「オットー!」


 慌てて彼女を抱き抱える。


(良かった……息がある)


 驚異的な耐久力にオリパスは安堵の息を吐く。しかし、間髪入れずに撃ってきた敵の方を睨んだ。


「憎んだ相手の手を取るなんて、君はどうかしてるんじゃないか?」


 薄ら笑いを浮かべるのは、長い白髪を風に揺らす男。

 まるで、枯れ木の様に細長い手足の彼の足元には、狙いを定めて銃を向ける者が数人いた。

 今いる場所では、彼らの斜線を避けることができない。


「初めまして、僕の名前はカニンチェン・ノイマン」


 カニンチェンと名乗った男は冷ややかな目でオットーを見つめる。


「心が揺らいだ奴は裏切るって言っただろ? 見張っといて正解だったね」


 彼は続けてオリパスにこう宣言した。


「君の行動は意味がない。死んだ奴に意味を与えるなんて、冒涜に過ぎないだろ?戦争は辞められないし、止めさせない。これから神の国バシレイアを滅ぼす。もう誰にも止められない」


 彼の言葉と共に街は揺れ、再びあのレーザーが噴き出る用意がした。

 戦いに疲弊したオリパスには何もできない。

 ましてや、無数の銃口を向けられた彼にできる事はなかった。


(せめて、銃があれば……)


 だが、リボルバーは、オットーとの戦いで使い切ってしまっている。

 撃つ手のない彼はもはやここまでか、そう諦めかけた時、カニンチェンの背後から飛び立つ何かを目撃する。


「!」


 追い込まれたオリパスの元に、舞い降りる希望があった。

あやしいものじゃないよ、あやかしだよ。

どうも、あやかしの濫です。

ここであいつの乱入です! 絶体絶命の状況に駆け付けたのは!

次回「舞い降りる希望」 首を長くして待っていただけると幸いです。

少々、制作に苦戦しておりまして……

「燃える絆 Lv.4」を最後まで読んで下さりありがとうございました。

「キャリー・ピジュンの冒険」を面白い、興味を持ったという方は、

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