射影機とドラゴンと雨宿り Lv.3(九話)
雨が止んだと、ロキは立ち上がり歩き始めた。
キャリーは鞄を持って後を着いていく。洞窟は意外と長く奥の方で雨宿りをしていたぽい。そのため、暗い洞窟をしばらく歩いて、ようやく外に出られた。
外に出るとジメジメとした空気に暖かくて白い光が雲を通って世界を照らしていた。
キャリーは当たりを見渡しながら出てきた洞窟を見る。
ここは森の端っこで洞窟を出た先は草原が広がっていた。近くには背の高い木々が距離を置いて生えていて、後ろの洞窟は大きな穴で上の方がギリ見えなかった。
「晴れてたんだね。全然気づかなかったよ」
「……」
キャリーはそう笑って言った。それに対してロキは答えず黙っていた。
「ロキ?」
振り返ってみるとロキは野原を眺め、拳を強く握り震えていた。
キャリーはそんなに深刻そうにして、どうしたのと聞く前にロキは震える声で話し始めた。
「さっき、君に君は何も恐れていない、怖がっていない、て言ったじゃないか……」
ロキは洞窟の中で発狂していた時に手を握って彼が言ってくれた言葉について何か言いたげだった。
キャリーはあの言葉のおかげで、どうしてか、今はすごく落ち着いており、感謝している。
「あれは……いや……この事を伝える前に、先に言っとく、辛くて、怖くて死にたいて、思う時はこれから沢山来ると思う。僕にもあった。恥ずかしくて死にたくなる時やどうしようもなく死にたいって思う時。この世界には死ぬ為の理由が沢山ある……でも! それと同じぐらい生きる為の理由は見つかるんだ! まだ、できていない事がある。最近出来たレストランに行きたい。そんな小さい理由でもいい。見つけて探して前を向いてくれ! 生きてくれ!」
彼は振り返り松の葉の様な深い緑色の瞳でキャリーを見つめた。
なぜ彼が突然、その様な事を言っているのかキャリーには、分からなかった。でも、これはきっとあたしを挙げます為に送っているのだと分かる。
キャリーは瞳を閉じて、ロキに言われた通り、今、自分の生きる理由を考えた。
どんな小さな理由でもいい、何かあるはずだ。必死に考えた。そして、鞄のベルトを握りしめる。
思い出した、生きる理由を思い出したキャリーはそっと目を開く。
「うん、大事な手紙を届ける事。それがあたしの、今生きる理由」
「うん、じゃあいくよ…嘘を元に戻す……”君は何も恐れていない、怖がっていない”と言ったね。”あれは嘘なんだ”」
その言葉を聞いて、キャリーは首を傾げる。が次の瞬間、背筋が凍る冷たい風が彼女に吹いた。
体を震わせるキャリーの頭の中にさっきまで気にもしていなかった、あの恐怖が蘇ってくる。
キャリーは苦しみながら震える体を押さえた。
「キャリー大丈夫?」
ロキは自分のした事を後悔していた。ロキの力は出鱈目な力で、嘘を真実に、真実を嘘に出来る力だ。しかし、嘘はいつか暴かれる。そうなれば、キャリーは恐れていた事を思い出してしまう。
キャリーが自分の知らない所で真実を思い出して苦しんで欲しくない。だけど、このまま、嘘をつき続ける訳にはいかなかった。
ロキは震えるキャリーが苦しまない様にまた、嘘で誤魔化そうと思い、口を開きかけた。その時、
「はあははは!」
キャリーはお腹を抑えながら笑いだした。
「ロキ、そんなの知ってたよ。嘘でもあたしを落ち着かせてくれたのは事実でしょ。ありがとう。大丈夫、あたしは平気、思い出したの、多分、メア姉はあたしを嫌ってなんかいないって」
キャリーはあの日の恐怖と一緒に忘れてた物を思い出した。
あの日、処刑場でメア姉が最後に見せてくれたのはあんな怖い顔じゃなかった。もっと優しくて申し訳なさそうな顔だった。
キャリーはにっこりと笑顔をロキに見せた。まるでこのジメジメとした野原に降り注ぐ太陽の様に眩しかった。
「そっか……そっか、そっか」
ロキは力無く呟いた。が彼の顔は影に隠れてしまった。
「ロキ、後ろ……」
キャリーは目を見開いて、震える手でロキの背後を指差す。
「え?」
キャリーの指差す自分の背後をロキは恐る恐る振り返る。
そこには白くて大きい体をした、首の長いドラゴンがいた。
鱗は本に書いてある通り、その姿は神秘的で美しい透明で今は光を浴びて虹色に輝くオパールの様だった。
ドラゴンは、背伸びをする様に羽を広げ、今にも飛び立ちそうだった。
念願のドラゴンに会えたロキは漠然と見入っていたがハッとなり、目的の写真を撮ろうと思った。しかし、射影機は洞窟の中に置きっぱにしていたのを思い出す。
「しまった、射影機が!」
「あたし取ってくる!」
キャリーは洞窟へ走り出す。しかし、ドラゴンはそんな事気にも止めず、羽をバッサバッサと羽ばたかせる。
「あっお願い! 気をつけて! 洞窟、滑るから!」
ロキは洞窟へ駆け込むキャリーを見送り、振り返る。
さて、逃げないでくれよ……ロキは心からそう願った。
洞窟に駆け込んだキャリーは、滑る様に岩肌を降り、先ほど、いた場所まで戻ってくる。
焚き火の炎はまだ、消えておらずすぐに射影機を見つける事ができた。
射影機を取ろうと手を伸ばした。その時、置きっぱなしの本に目が止まる。
本は一人でにページを巡り、よく開かれたページを開いた。
そこには北の最果てと書かれており、日の出の写真と聖堂を後ろにロキともう一人が写真に写っていた。
二人は仲良く射影機に向けてピースサインをしてた。
キャリーは写真を見て、そっと元の居場所に戻して本を閉じた。そして、射影機を手に立ち上がる。
急いで戻る為に祝福の力を使った。
暗い洞窟の中、たちまち光り輝く雷を纏って、キャリーは勢いよく洞窟を飛び出す。
まだいるか、キャリーが見る飛び立つドラゴンが目の前にいた。
間一髪、咄嗟にかわし、キャリーはドラゴンの角を掴んでしまった。
彼女はそのまま、ドラゴンに連れられて、天高く飛ばされてしまった。
キャリーは振り落とされない様に必死に角にしがみつく。
暴風で視界も耳も聞こえない。そう思っているといつの間にか辺りはシーンと静かになっていた。
キャリーはそっと目を開けるとそこにはどこまでも続く青空が広がっていた。
息を飲み、目を見開いてしまった。
下を見れば、草木が青く、羊の群れが点々の様に小さく動いてるのが見えた。
振り返れば、バシレイアの神の塔から出る光がしっかりと見える。
絶景に目を奪われていたキャリーだが、そうだと思い出し、下を見てロキを探した。彼は一体、どうしたのだろうか? そう思いながら探してみると、ロキはがっしりとドラゴンの足にしがみついていた。
「ロキ!」
「た、助けてーーー!」
ロキは涙目でキャリーに助けを求める。
キャリーは手を伸ばして、ロキを掴みドラゴンの背中に乗せた。
彼はぜーはーと肩で息をして青ざめた顔の汗を拭いた。
「死ぬかと思った……」
ドラゴンの背中にいる彼らは不思議と息苦しく感じない。景色を楽しめる余裕があった。
「すごいね! あたし、初めてだよ! こんなに遠くまで世界が見えるのは!」
「僕は雲の上からの景色は何度も見た事があるけど、こっちの方が断然いいね」
ロキはそう言いながら一人頷いた。
「そうだ、射影機はある? 落としても文句は言うからね」
「大丈夫、ほら、ちゃんとここに」
と言いながら手に握りしめていた射影機をロキに渡した。
彼は射影機を受け取り、壊れてないか、軽く見る。
「大丈夫そうだ」
そう言いながら試しに一枚、キャリーを取った。
そして、次にあたりの景色を手当たり次第にパシャリ、パシャリと彼は撮り始める。本命のドラゴンがここにいると言うのに目も擦れず、景色を楽しんでいた。
「撮らないの?」
キャリーは首を傾げて聞く。
「うん、今は撮らない。できれば、全体像を写したいんだ」
キャリーはふーんと言いながら、空を見上げる。
空は青く快晴だった。風はスーっとキャリーを吹き抜けて、彼女の冒険心を掻き立てた。それと同時にできると確信する何かを感じた。
キャリーはドラゴンの背中の上で立ち上がり、ロキに別れを告げた。
「ロキ、助けてくれてありがとう! あたしは手紙を届けなきゃだから、先に降りるね」
それを聞いたロキは驚き目を丸くする。
「降りる……? バカ、正気か! 途中下車は無理だ! 大人しくコイツが降りるのを待とう!」
「平気! 見てて〜!」
キャリーは笑いながらロキの説得を無視して、真っ逆さまに飛び降りた。
ドラゴンから離れたキャリーは強い強風で後ろに飛ばされる。もしくは、ドラゴンが物凄い速さで先に行ってしまったのかもしれない。
真っ逆さまに落ちるキャリーをドラゴンの背中から眺めるロキの顔が見えた。
彼の顔はものすごく青ざめており、今にも失神しそうだった。
キャリーはへへと笑いながらピースサインを見せる。そして、身を翻し、手足をそろえて雲を突き抜け地面へ、加速する。
キャリーは物凄い勢いで地面に向かって落ちていく。
地上の景色がよく見えてきた時、彼女は身を縮めぐるぐると回転する。
すると、キャリーの体は光、ビリビリと電気が溢れ出す。そして、地面につく瞬間、バッ! と手を広げ、蓄えた電気を一気に放出して、衝撃を中和した。
地面につく一瞬、キャリーは止まり無事に片膝をついて着地する事ができた。
彼女はそのまま止まらず、前を向き全速力で雷を纏って駆け出した。
一連の様子を見ていたロキは唖然とする。もう、彼女の破天荒振りに頭を抱えて、笑うしかなかった。 彼は前を向き、どこまでも続く空の上でこのドラゴンがどこまで飛んで行くのかを考える事にした。
あやしいものじゃないよ、あやかしだよ。
どうも、あやかしの濫です。
よく、教室や友達との会話で、推しがなんとかだから死にたいだの、仕事が上手くいかないから死にたいとか、理由は様々ですけど、そう言う事、聞きますよね。
それは、そうだす。僕もくだらなすぎる理由で何度も何度も死にたいと思いましたね。
でも、逆に生きたい、て理由はあまり、聞きませんよね。
人間は、ふとした事で死にたいとか、死ねとか使う生き物で、死ぬ理由や言い訳は、めちゃくちゃありますよね。
僕は、常日頃からこう思っています。死にたい理由と同じように生きたい理由も簡単に作れるんだって。アホくさくて素敵でしょ?
上手く作中でかけてたら良いなと思ってます。
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