三人の逃亡者 Lv.4(十一話)
暗闇の中、自分が上を向いているのか、下を向いているのか分からずにいた。
オットーに閉じ込められたキャリーは、鉄の箱から出られずにいる。
ガンガンとあちこちを蹴飛ばしていると、ガラッと動いた。
「わーあ!」
向きがひっくり返り、僅かな隙間から光が差し込む。
一面に広がる荒れた大地以外、何も見えなかった。
「どうしよう、街から追い出されちゃった」
技術の街スタックタウンは移動を続けている。どこへ向かったのか分からない。
不安を感じる彼女だったがすぐに首を振る。
「うんん、今はどうにかしてここを出なくちゃ!」
だが、いくら蹴飛ばしても開く気配がない。
出られたとしても疲れて動けなければ危険だ。
ラットドックの餌になってしまう。
今もスタックタウンではオリパスやジモラが逃げている。
荒野のどこかでサソリの外骨格マトとシルバーが戦っているかもしれない。
どうにか、止めたいのにどうにもできずにいる。
気持ちが先走ってしまう。
「取り敢えず鞄の中に何かないか探してみよう」
キャリーは僅かな隙間から刺す光と手の感覚を頼りに僅かな希望を求めて鞄を漁る。
この鞄はキャリーがこれまで歩んで来た旅の相棒だ。
中は四次元空間でどんな物でも入れられた。
今までは……
残念なことに期待できるものがあるとは思えない。
不具合によりほとんどの荷物は取り出せずにいる。
それでも何か一つ道具でもなんでも使えるものがないかと漁っていると、ヒンヤリとした物に指先が触れた。
取り出してみると小さな容器が出てくる。
「?」
キャリーは思わず首を傾げた。
「何これ? 小さな水筒?」
黒く鉄でできた水筒は小さく水を入れてもすぐになくなりそうに見える。
丸く蓋のしまった物に目を凝らして見ていると口を大きく開いて叫んだ。
「あぁ、そうだ! テトにもらったんだ!」
瓦礫の町で商売をおこなっていた、キャリーよりも小さな老人のことを思い出した。
テトもまた、ファイアナド騎士団としてメアリーを支えた一人である。
今は途中までキャリーたちと行動を共にしていたが、争いを予感し姿をくらましてしまった。
「確か、テトはこの中に火薬が入っているって言ってたよね?」
蓋を開け、中身を手のひらに乗せる。
サーっと黒い砂粒が出てきた。
「もしかして! ここに火をつければ、扉を開けることができるかもしれない」
だが、どうやって火をつければいいのか?
キャリーは小さな頭で考え込む。
鞄を漁った感じ、これ以外は何もなかった。
「どうにか火をつけなきゃだけど……あたしは魔法が使えない。祝福の力なら……でも、早く走れた所で何になるのかな?」
真っ暗な箱の中、キャリーは自分がどれだけ小さな存在なのか気付かされる。
足が早くても、たどり着いた先で何もできなければ意味がないのだ。
自分に力があれば、賢ければ、この状況を打開できたと思った。
「メア姉みたいに壊すことができたら……」
火花を散らし、どんな鋼鉄も引き裂く力があれば、この狭い鉄の箱からも出られると言うのに。
「火花……」
技術の街スタックタウンではやはり、物作りが盛んで、メアリーと共に見学させてもらったことがある。
街では特に武器作りの光景をよく見せてもらった。
熱い炉から真っ白になった熱々の鉄を取り出し、素早く叩いて火花を散らす。
キャリーは特に思う事はなく見ていたが、メアリーは興味深そうに見入っていた。
彼女はふと、昔見た光景を思い重ねて呟く。
「まるで、雷が落ちるみたいだな」
「どうして?」
キャリーは見上げてなぜなのか聞いた。
メアリーは優しく昔の経験と共に話す。
「昔、大きな木に雷が落ちて、それがハンマーが振り下ろされる瞬間に似てる気がしてな」
どんな光景なのかピンとこず、キャリーはポカンと口を開けていた。
「ならば、これからはライトニングハンマーと名付けて鍛え続けるか!」
彼女のたわいない話を聞いていた親方は冗談めかしく笑いながら技名を叫んだのをよく覚えている。
(雷が降る時に火花が散っているのなら、もしかすると……)
「できるかもしれない」
不安だった思いは一本の可能性が真っ直ぐ伸びたことで消え去った。
キャリーは素早く火薬を入り口らしい小窓に撒き始める。
そして、手をかざした。
「出ろ! 出ろ! グッヌヌヌ……」
走る時に体の周りを漂う雷。それさえあれば、点火できるはずだ。
全身に力を込めて叫ぶ。しかし、念じた所で出ていれば苦労などない。
虚しく叫び声が荒野に響くだけだった。
歯痒い気持ちに目尻が熱くなる。
「くっ……出ろ、出ろ、出てよ! あたしは行かなきゃいけないんだ」
されど力の片鱗すら見えずにいた。
キャリーはどうしたものかと鉄格子にもたれかかる。
「どうしたらいいの……?」
困り果てた彼女は握りしめた鉄格子の感覚であの日を思い出してしまう。
この隙間から刺す光すらメアリーに当たる事はなかった。
鍵を取りに行かず、突き抜ける事ができたなら、邪魔もされず、間に合ったかもしれない。
そう、この檻から突き抜けたならば。
ふと、彼女のこころから焦りが消えていく。
キャリーは一歩、二歩と狭い鉄の箱の奥へと下がった。
わずかな空間の中、彼女は鉄格子に向かって走り出した。いや、その先の彼方、遥か遠くの大空に向かって走り出したのだ。
放たれた弓のように、真っ直ぐと動き出すキャリーに連動し、辺りがピリピリと光る。
僅かな電気は狭い箱の中を行き交った。
地面に散らばる火薬にピリッとそっと触れる。瞬間、荒野の真ん中で大きな爆発が起こった。
黒煙が上がり、空高くから鉄の扉が降ってきたのだ。
煙が風に流されていくと鉄の箱のそばから立ち上がる少女が見えた。
綺麗な金髪は少し焦げ、煤と僅かな火傷が顔の周りについている。
だが、彼女の黄色い瞳はどんな困難にも負けないほど宝石の様に輝き、星を宿していた。
間髪入れずにキャリー・ピジュンは走り出す。
どれだけ早くても、たどり着けぬのなら、それ以上に走ってやればいい。
怒りにも似た強い感情が彼女を前へと進めていくのだった。
あやしいものじゃないよ、あやかしだよ。
どうも、あやかしの濫です。
キャリーとメアリーの小さななんてことない記憶。
その出来事が彼女の可能性を増やしました。
キャリーはまだ、弱く、したたかとは言えません。ですが、分かっていても変えたい、守りたい物があります。できる事を出来るだけやろうとしています。
キャリー・ピジュンの冒険 「三人の逃亡者 Lv.4」を最後まで読んで下さり、ありがとうございます。
年内最後の投稿でしたが、いかがでしたでしょうか?
ジモラの大暴れに楽しんでもらえたら幸いです。
「キャリー・ピジュンの冒険」を面白い、興味を持ったという方は、
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