三人の逃亡者 Lv.4(九話)
メアリー・ホルスを招いたのは、他でもない。
ジモラだった。
彼女の持つ祝福の力は計り知れず、恐ろしい。
取り込めば、さぞ面白いのだと思ったのだ。
それは全てうまく行った。
押されていた戦況はひっくり返り、自分たちの故郷からバシレイアの教団を放り出せたのだ。しかし、上手く行きすぎた。
ジモラにとって、それは退屈でしかない。
ポーカーで相手の手札が分かるのは強いだろう。だが、それだけの事だ。
分かってしまえば退屈でしかない。
(つまらない……退屈は食うこともできない)
満たされずにいた時、ジモラは霧の国からやってきた『邪悪な魔女』に出会う。
彼女の企みを知った彼は迷うことなく賛同した。
メアリー・ホルスを追い詰める為、ジモラはガーネットとキャリーの名前を上げてしまう。
その後、メアリーは姿を消し、街は混乱に包まれた。
ジモラの腹はこれ以上なく満たしてくれた。しかし、すぐに停滞する。
たった一つの思いである。
「復讐」で街は満たされてしまったのだ。
(再び訪れた退屈は一切、俺の腹を満たしてはくれなかった)
空腹感の中、空虚な街でジモラは生きる楽しみを忘れかけてしまう。
人生、生きてれば、時折、あの味が食べたいと思う時がある。
サイのお母さんと過ごした日々や街の技術者たちと手を組んで壮大な計画を立てていた時、そして、あの夜のことをジモラは思い出すのだ。
メアリーが姿を眩ました夜。
ジモラは彼女にあっていた。
オリパスと共に街を去ろうとする二人の思いを食べるつもりだったのだ。
「寂しいな。どこかに行っちまうのか?」
事情を知った上で装う彼の言葉に二人は気づかない。
メアリーは申し訳なさそうに肩をすくめた。
「あぁ、すまない。あたしらは行かなくちゃいけないんだ」
そうかと呟くジモラに対し、メアリーは初めて会った時の話をする。
「思えば、ジモラ、お前があたしたちを呼び止めたのが始まりだったな」
「ッチャ、あぁそうだったか?」
些細なことだったのでジモラは言われるまで忘れていた。
「もしかして、俺を恨んでいるのか? 戦争に招いた事を」
眉を上げて尋ねる。だが、彼女の心は穏やかで、さっぱりとしていた。
「いいや、楽しかったさ。誰もが自分の気持ちに正直で、理想を作り続けるこの街があたしは大好きだ」
彼女はそう言いながらゆっくりとジモラに近づく。
相手の意図を読もうとしたジモラは向き合うことにした。すると、そっとメアリーの拳が彼の胸に当たる。
「誰よりもこの街を想っているお前に頼みがある」
ジモラは耳を疑った。
自分以上にこの街を軽視している人間はいないのだ。
驚きと同時に呆れてしまった。だが、その後の彼女の言葉を聞いた瞬間、自分がそうなのかもしれないと思えた。
「この街のことを頼む……ここが国に変わってみんなが幸せに過ごす為に導いてほしい」
彼女の言葉はトンっとジモラの胸に埋まった様な気がする。
それはじんわりと暖かく満たしてくれた。
これが期待なのだと気づいたのはずっと、ずっと後のことだった。
あの味は煩わしくはあったが、それでも食うに値する思いだと色褪せた路地を見て、思い出してしまう。
朦朧とした意識の中、くぐもった声が聞こえる。
顔を上げるとサイがまだ、叫んでいるのに気づいた。
(あぁ、これで終わりか……)
そして、自身の命がここまでだと悟る。
あやしいものじゃないよ、あやかしだよ。
どうも、あやかしの濫です。
オリパスよりも裏切りをしまっくっていますね。
ただ、ジモラがもし何もしなくても未来はそう変わらなかったでしょう。
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