三人の逃亡者 Lv.4(八話)
鼻歌を歌いながら軽やかに階段を降りていく男。
崩れた建物の隙間から光が差し込み、彼のいる廊下を薄暗くしていく。
スタックタウンの階層はオイル臭くてたまらない。彼は木の根のように張り巡らされたパイプを見ていた。
足から垂れる血の跡が男の歩いてきた道を記録していく。
「この街の事を頼む……」
あの言葉と共に流れ込んできた思いは、どれほど美味しかったのだろう。
先程、お腹を満たした思いと比べようとしたが難しかった。
走り疲れていた彼はぼんやりと歩き続けていた。
突然、鋭い痛みが肩を刺す。
朧げだった意識を現実に引き戻されたのだ。
ジモラは足を絡め壁にもたれかかる。
顔を上げると顔を真っ赤にした親友サイがジモラをこれでもかと睨んでいた。
「ッチャよぉ、遅かったじゃないか」
彼はさりげなく挨拶をするが、癇に障ったようだ。
サイは容赦なく手にしていたボウガンでジモラの脇腹を撃ち抜いた。
深く突き刺さり後ろの管にまで突き刺さる。
再度装填をしながらツカツカと歩み寄り、ジモラに突きつけた。
「君は……君はなんな事をしたんだ! ジモラ!」
震える声でサイは叫ぶ。
彼の背後には瓦礫の上で眠るディフィレアの姿があった。
頬には涙の跡があり、喉元にはジモラのナイフが刺さっている。
彼が殺したのは明白だ。
「なんでだ? どうして、こんなことを」
「あーその事なんだが」
訳を話そうとしたジモラの言葉をサイは遮る。言い訳も聞きたくないのだ。
「ジモラ、どうしていつも場をかき乱す、どうしてディフィを殺した!」
荒々しい声にキーキー耳鳴りが起こる。
熱いだけで雑な感情に退屈してしまう。
「お前は怪物だ……」
親友はジモラに冷たく言い放つ。
「こんな最悪なことできるのはこの世でお前だけだ……」
真っ黒な瞳で語る彼にジモラは思わず吹いてしまう。
最悪を撒き散らすのが、この世に一人とはおかしな話だ。
「HAHAHA、俺が最低ならこの世はもっと平和だろうさ。サイ、俺は怪物なんかじゃない。分かるだろ?」
「そうやって、騙して僕まで殺すんだろ?」
軽蔑する視線にジモラは呆れてしまう。
それは自分にとって無意味なのだ。
「俺がお前を殺す? HAHA、あり得ない。だって、俺はお前を殺したくない。殺したら……ッチャ、それで終わりだ」
ニヤリと不気味に笑う。
サイは躊躇なく彼の顔を蹴飛ばした。
「ふざけるなよ……これが人間のすることか? あぁ?」
怒りが頂点に達していたサイは地下に響く声で叫んだ。
熱く煮えたぎるスープに焼けた石を投げ入れる様にジモラは答える。
「人間だからこうなったんだ!」
苦しむ様に顔を歪ませる親友を見ていると腹が満ちていく。
ジモラおかしくて笑いが出てしまう。
高らかに、そして、低く悍ましく。
泣いている様にも、笑っている様にも聞こえる。
笑いを押さえ、ジモラは自身の祝福の力について語る。
祝福とは、呪いだった。
「ッチャッチャ、昔は大変だったよな。食うものに困って、毎日パンを分け合う事すら心苦しかっただろ? だが、俺に祝福の力が宿った後はその必要はなくなった。何せ、勝手に腹が膨れるからな」
ギロリとサイの方を見上げる。
彼は親友の最後の戯言を聞いてくれていた。もしかすると、何も耳に入っていないのかもしれない。
「腹が膨れても、また、空腹になるんだ」
虚しく呟く。
ジモラは矢が刺さったお腹に触れる。
赤く暖かな液体が垂れていた。
「なぁ、サイ……」
自分がぼんやりとしていることに気づく。
騒ぎすぎたのだ。
「お前は……何のために頑張っているんだ? 街の事もあの女のことも、本当はどうでもいいんじゃないのか?」
ぴくりと眉を動かして尋ねる。
彼の言葉にずっと顔を強張らせていたサイがようやく笑みを見せた。苦情ではあったが。
「確かに、復讐が僕の全てなのかもしれない。だが、何かに囚われているのは君もそうだ。ジモラ……君は飢えに囚われている」
だから、もう解放してあげると下ろしかけていたボウガンをジモラに向けるなのだった。
あやしいものじゃないよ、あやかしだよ。
どうも、あやかしの濫です。
「八重する企みと囚人たち」のアシュメもそうでしたが、英語で笑う人たちがいますね。
あれは漫画にした時、あっちの方が狂ってそうと言う理由で使っています。
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