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三人の逃亡者 Lv.4(七話)

 ジモラは街の隙間を通っていき狭い路地裏に出てきた。

 ここは建物と建物の間に蜘蛛の巣のようにパイプが交差する場所だ。


 ジモラは懐からガーネットの時計店から盗んだ爆弾を取り出す。

 ぐらつく、足場から落ちないようにパイプの橋を渡り、足物に爆弾を貼り付けた。


 そこにディフィレアも追いついてくる。


「あーあー、もう来ちゃったの? まだ、サプライズケーキを用意してないのに」


 ジモラは悲しそうに肩を落とす。


「えぇ、あなたをこれ以上野放しにしていたくないもの」


 ディフィレアはボウガンを構えて答えた。

 ゆっくりと近づき、レイピアでトドメを刺す気だ。しかし、橋を渡る寸前、彼女は仕掛けられた爆弾に気づく。


 焼き菓子のように誇らしく甘い感情をジモラはいただいた。


「もう気づいちゃった?」


 バレないとまでは思ってなかったが、すぐに気づかれるのはやはり残念に思う。


「当然よ。貴方みたいなバカと一緒にしないで」


 ディフィレアは目を凝らして言う。


 彼女はいつもそうだ、サイに対してはもっと柔らかい思いを寄せていると言うのに、自分には硬いパンのような感情ばかり向ける。


 最後ぐらい聞いてみるかと尋ねてみた。


「なぁ、前から思ってたんだが、ッチャどうして、いつもツンツンとしてるんだ? 可愛い顔に皺が寄ってしまうぞ」


 安い挑発には散々だと言わんばかりにディフィレアは鼻で笑う。

 もう、怒る事すら、なくなったのだとジモラは悟った。


 彼は肩を落としてため息を吐く。


「はぁ、君みたいな真面目な女は面白くないね。それだからサイの荷物なんだよ」


 ジモラの言葉にぴくりと眉が動く。


「いい加減気づいたらどうだ? あいつはお前を見ていない。紅蓮の竜巻を見てるんだ」


「黙りなさい……」


「強くて頼もしい奴、カニンチェンとかもあいつはお目にかけていたな? おや、おや? おかしいなぁ、ディフィちゃん。サイくんは君のことを見ていないね〜」


「黙れ! 黙れ! サイは私のことを気にしてくれている」


「HAHA、怒っちゃった怒っちゃたかーじゃ、図星だな」


 ディフィレアは躊躇なく爆弾を撃ち抜く。

 激しい爆発と共に白い煙が通路を包み込んだ。

 二箇所を伝うパイプはあちこちにぶつかりながら落ちていく。


 煙にむせてしまう。


「ゲボッ、ゲボッ」


 低く品のない咳払いが聞こえる。


 煙が流れた時、ディフィレアは目を見開いた。

 なんと、未だ建物の隙間を挟んで、ジモラが立っていたのだ。

 彼は咳払いをしながらコートに着いた埃を払う。


「なんで、生きてんのよ……だって」


 爆発したはずだ。


「その通り、だが、あれは空砲だ」


 ジモラは得意げに言う。


「なぁ、知ってるか?」


 彼は不敵な笑みを浮かべて呟く。


「技術を極めたこの国はご覧の通り、出鱈目に建物が建てられている。みんな作りたいように作っちゃう。そうすると……ほら、耳をすませてごらん」


 ヒョイっと耳に手を当てる。

 サイは武器を下ろさず耳をすませてみた。


 からから、からから、何かが響く音が聞こえる。


 ガラン、バゴンと外れる音がした。


 音の方向は、上からと思ったディフレアが見上げる。だが、振ってくるのは砂埃だけだ。

 次の瞬間、ディフィレアの足元が崩れ去った。


 足場が抜けた彼女は呆気に取られて落ちて行ってしまう。

 



(うっ……ここは?)


 気がつくと、ディフィレアはぼんやりと見上げて寝転んでいた。


(そうだ、私、あそこから落ちッ痛い)


 意識がはっきりすると忘れていた痛みが走る。


「おーこれまた随分深くに落ちたもんだな」


 わずかに差し込む光を遮るように上に残ったジモラが顔を覗かせた。


(あの、クソ野郎……)


 彼は井戸を除く子供のようにディフィレアを見下ろしていた。


「怒ってるかもだから、言っておくけど、君が招いた結果だ。スタックタウンは適当に作り続けられた街だ。立っているのが意味分かんないのもあるのに、爆弾なんて使うんだから。おまけにでっかいパイプ落としてあちこち叩いてちゃ、言わんこっちゃない」


 まるで君が悪い、と言いたげに彼はしたり顔で話す。


 好き勝手言わせるつもりはないとディフィレアは言い返そうとした。しかし、口が痺れて思うように話せない。


「?」


「さっきから黙りじゃないか?」


 体を動かそうとしても動けずにいた。


(ウソ……ウソウソ、ウソでしょ?)


 荒く乱れる心臓の音だけが聞こえる。


「おーい、もしかして、死んじゃった? ムフフ……」


 ディフィレアは生きている。しかし、先ほどの転落により不運にも首の骨を折って動けずにいた。


「んー確認が必要なようだ」


 ジモラは懐からナイフを取り出す。

 刃先が下を向くようにつまんで、ディフィレアのちょうど真上に持ってきた。


(ちょっと! 何をする気なの? ねぇ、やめてよ。お願い)


 額から汗が流れるのを感じる。

 全身は震えていた。


「三秒後にこのナイフを落とすぞ」


 それまでに避けてくれとジモラ呟き、ゆっくりと数え始めた。

 ジモラの顔は影に隠れて見えないた。

 だが、悍ましい顔をしているとディフィレアは確信できた。


(あのイカれ野郎ならやるに決まってる。ヤダ、私死にたくないの! 助けて……サイ……お願い、動いて!)


 体を動かしたいと願うが動かない。


「イーチ」


 その間ずっと、死へのカウントダウンが瓦礫の上で寝転がるディフィレアまで聞こえてくる。


「ニー」


(待って!)


 彼女は必死で叫んだ。しかし、聞こえることはなかった。声にすら出ていないのだから。


「サーン」


 どれだけの命乞いを重ねたとしても、聞いてもらえなければ意味がない。


「ポーン」


 ジモラは宣言通り、ナイフを手放した。

 スタックタウンの何層にも重なる建物を抜け、真っ直ぐとディフィレアの喉に突き刺さる。


(ゆる……)


 再び、ディフィレアの顔を覗き込んだ時には、彼女は泣いていた。

 ゴーゴーとどこかで何かが動く音が聞こえる。ジモラは静けさに浸る。


「ムフフ」


 新鮮な恐怖。


「ムッフフ……クックク」


 後味の良い塩の量。


「HAーHA、HAHA」


 ジモラのお腹をそれらが満たしてくれる。

 これだから人を揶揄うのはやめられない。


 笑い続けたジモラだが、笑う事すら飽きてしまった。

 彼は次に何をしようか考えながらさらに下へと降りていくのだった。

あやしいものじゃないよ、あやかしだよ。

どうも、あやかしの濫です。

ジモラのコートにはいろいろ入っていますが、やはり、愛用するのはナイフ見たいです。

他は使いどころに困っていたみたいです。でも、雑に使ってもいい感じにできる男。

追い込んだとしても、話を聞いちゃいけないタイプですね。

聞いてしまったら最後、ひどい目にあいます。

ディフィレアは最後に何を思ったのぜしょうね。

「キャリー・ピジュンの冒険」を面白い、興味を持ったという方は、

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