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三人の逃亡者 Lv.4(三話)

 建物からもくもくと煙が上がるのを見ながら、ディフィレアは冷たく言う。


「これであいつもくたばったでしょ」


「サイの親友を殺すのはよくなかったんじゃないか?」


 少し離れた場所から見物していた男が近づいてくる。

 長い白髪に枯れ木の様な手足をした男、カニンチェン・ノイマン。


 二人はオットーと共にオリパス暗殺の為に動いていた。


 本当はジモラが外出してから動くはずだったのだが、ディフィレアが待ちきれずにロケットランチャーを撃ってしまったのだ。


 彼女は空の銃を放り投げて言う。


「問題ないわ。サイには私がついているから。さぁ、帰りましょ」


 長い髪を払いながら言う。

 立ち去ろうとする彼女をカニンチェンは止めた。


「本当にいいのかい?」


「どう言う事?」


 ディフィレアは睨みを聞かせて振り返る。

 カニンチェンは肩をすくめながら答えた。


「ジモラは祝福の力を待っている。授けられた者は丈夫で簡単には死なないだろ?」


 数十人でなぶり殺しにしようものなら、相当時間がかかった経験から話す。

 彼の話は一理あると思ったディフィレアは、こくりと頷いた。


「そうね、あなたの言う通りだわ」


 彼女たちは屋上から飛び降り、真っ直ぐに破壊した建物に進んでいく。

 



 黒煙が建物から上がるのが見える。

 背中はヒリヒリと痛み、動かしたくない。

 ジモラは目を見開きながら、笑みを絶やさなかった。


「おい、これはどう言うことだ?」


 空を見ていたジモラの前に醜く焼けたオリパスの顔が映る。


 瞼と歯は隠す皮がなくなり、浮き出ていていた。焦げ臭い臭いを漂わせている。


 生肉を無理やり焦がして、火が全然入っていない見た目だ。


 腕も折れて垂れている。


 この時点で普通は気を失うか、死んでいるはずだ。

 不思議に思っていると、オリパスの付けた腕時計が割れる。


 ジモラは一部始終も見逃さなかった。


 割れた時計は時を戻す様に逆行して回る。すると、身につけていたオリパスの腕はみるみるうちに元に戻り始めて行った。


 折れた骨はつなぎ合わされ、焼けた肌は何もなかった様に浮かび上がる。

 これには彼自身も驚いた。


「どうなっているんだ……」


 驚く彼からはパリパリの食感にヒリヒリする様な辛さが僅かに感じ取れる。

 なかなかない食感にジモラから笑いが込み上げてきた。


「ムフハハハ、おそらく、ガーネットの技術だろうな。さっき時計が砕けてからお前が元に戻ったからな、そう言う事だろう」


 節々が痛む体を動かしながら言う。


「それよりもそこをどいてくれないか? これじゃあ、息苦しくて話ができない」


 オリパスは仕方なく、彼の上から退いた。

 そこに少女の叫び声が響く。


「オリパーース!」


 上を見るとキャリーが破壊された建物から見下ろしていた。

 彼女はすぐに駆け寄り、二人が無事なのを確かめる。


「良かった。無事だったんだ」


 ホッと胸を撫で下ろす彼女にジモラは首を振った。


「いやいやいや、無事なものか。見ろ! 俺のお気に入りのコートが所々焦げちまってる。あぁ、ディフィレアめ、俺ごと巻き込むなんてなんて女だ!」


 悪態をつくジモラだが、首を曲げた先にオリパスがおり、思わず笑ってしまう。


「ブッ! ムフフ、ッチャ、だが、まさか、お前に助けてもらうとはな。俺は猛烈に感動しているよ。どうして、俺を助けたんだ?」


 不思議がる彼にオリパスは冷め切った味で答える。


「体が勝手に動いただけだ」


「そうか」


 彼の答えで満足したのか、ジモラは肩をすくめて、それ以上聞かなかった。



 

 話が止まった。ちょうど、その時、キャリーの後を追って来ていたルークと別の通路からガーネットが飛んでくる。


 さらに彼女の後ろからパトロとベリルまでやって来た。


「おい! 無事か」


 ルークの問いかけに今来たガーネットが答える。


「無事なものですか! オリパス、あなた一回死んだのよ! なんで、こんな短時間で死ぬのよ!」


「死ん……だ?」


 突然の事に困惑を隠せないオリパスに、パトロがボソリと呟く。


「オリパスさん、腕時計がなくても幽霊になったとして動き続けそうですね」


 彼はここにくる途中で聞いた話を元に順を追って話した。


「あなたが付けていた腕時計は、ガーネットが作った身代わりなんです。死ぬほどのダメージを受けた時、一回だけ、体を元どおりにできる技術だそうです」


 その説明にジモラがあーっと納得して、壊れた時計を拾い上げる。

 そこでオリパスも合点がいった。

 ガーネットは勢いそのまま、ジモラにこの状況はどう言う事だとまくしたてた。


「あんたね。くだらない事をやると思ってたわよ! いつもいつも、私にもちょっかいを出して。でも、今回のはなんなの? 二人を危険に晒して。本当に何がしたいの。答え様によっては生きたまま、時計の部品にしてやるわ!」


 ジモラは一歩、二歩と下がりながら返す。


「ムフフ、落ち着け。ッチャ、落ち着けないか。危険に晒したのは事実だし……だが、オリパスだけだ」


「どっちも変わらないわよ!」


「そうだな、一つか、二つの問題だしな」


「説明して、どうして彼が死ぬ様な目にあったのか」


「おい、俺はまだ生きて……」


「うっさい、黙って!」


 口を挟もうとするオリパスに対し、ガーネットはキツく睨みを効かせた。

 狼狽えてしまうオリパスからは塩気の効いた味が出る。


 ジモラはこの状況を堪能しながら、正直に答えた。

 どうせ、嘘をついたところで自分にいいことがないからだ。


「まぁ、まずは謝らせておくれ。オリパス……ッチャ、俺はお前を暗殺する計画をあいつらに教えた」


 そう言いながら後ろを指差す。

 さした方はオットーたちがいた方向だ。


「だが、暗殺の流れはこうだ。俺が呼んで、お前を一人にさせる。そうしたら、ズドン! ムフフ、聞いて呆れるほど中身がないだろ? だが、そうはならなかった」


 ジモラは不服そうに眉を顰める。


「奴ら……いや、あの女は俺がいながら撃ちやがったんだ」


 全く、困ったもんだな、と悩みを共有するが、誰も彼の悩みを同意できない。

 ジモラはねっとりとした声色でオリパスに語りかける。


「だが、俺は本気でお前を殺す気はなかった。そうしたら、アイツらが順調になっちまう。それに、ファイアナド騎士団副団長のお前ならタダでは死なないはずだろ」


「あぁ、お前の頭に弾を全て撃ち込んだだろうな」


 オリパスの返しにジモラは苦笑いを浮かべる。口笛を吹きながら離れた。


「兎も角だ。俺は見捨てられた。まぁ、睨みを効かせるあんたらの言いたいことは分かる」


 ジモラはポンと手を叩いて、今の状況を話し出す。

 それは苦し紛れの言い訳に過ぎないのだが、変えられない事実でもあった。


「だが、今はそんな風に歪みあっている暇わないぞ」


 ジモラの言葉にオリパスだけが視線を背ける。


「ど、どう言うことだい?」


 この中で一番臆病なパトロがどもりながら素早く聞いた。


「今、ディフィレアやオットーが俺の死体を見に向かっているはずだ。ほら、耳をすませてごらん。野獣魔の様に技術者が騒ぎ立てているだろ?」


 彼が耳を澄ます動きを取り、その場にいた全員が同じ様に聞き耳を立てる。


「オットーの姐御! どこへ行くんで? せっかくなら、ウチの武器使っていきやせんか!」


「お? なんだなんだ、ここでドンパチするんなら爆弾がいるだろ?」


「キャハハ、アタイらにあった武器を貸してくれる人いる?」


 建物の向こう側から波の様に街の人々の声が聞こえてくる。


「ほらな、あいつらはメアリーの様な残酷で強い武器を作る事に固執している。そして、あの女の強い信者は復讐の為に邪魔者を消そうとしてるんだ」


「あたしたちを消したら、オットーたちはどうするの?」


 ずっと黙っていたキャリーは口を挟む。

 ジモラはどんな味にもなれていないキャリーの心情を堪能しながら答えた。


「戦争を起こすんだ。ボン! ククク、神の国バシレイアともう一度、今度は永遠に終わらない戦いが始まる」


 彼の言葉に誰も何も言えなくなる。


 否定しても、状況は変わらないし、認めたくもない。


 静まり返る場にジモラはキャリーに視線を向けていた。


 今、彼女の中で何かになろうとする葛藤に気づいたのだ。

 キャリーはオットーと再開した時のことを思い出す。


 生きていてくれて嬉しかった。でも、もう、遠い存在に思えたのだ。

 彼女はメアリーの為に敵を撃とうとキャリーを誘ってくれた。しかし、その言葉は果たしてメアリーの為に言っていたのだろうか?


 メアリーは戦争を止める為に自らの首を差し出した。

 戦争を止めたいと思っていたのに、敵を討つために、もう一度起こすのはいいことなのか?


 違うと思う。


 これだけがはっきりと頭に浮かんだ。


(戦争を起こしたら、メア姉が死んだ意味ってなんなの?)


 理想の為に武器を作り続ける技術者。

 復讐の為に再び戦争を起こそうとする者たち。


 彼らを見ているとメアリーの死んだ意味が消えていく。


 大切な人がそんな風になるなんて嫌だ。

 みんな、おんなじ気持ちなはずなのに、止まらない彼らはあまりにも、


「バカバカしい……」


 微かな声でキャリーは呟いた。

 冷たく、今ある全てがどうでもいいと投げ捨てる様な言葉だ。


 いつも、明るくハキハキとした彼女から背筋を凍らせる様な一言に、オリパスたちは目を見開いた。

 驚く彼らに気づいたキャリーも、自身の発した言葉に驚く。


「先生みたいなことを言うんだね……」


 青白い肌をしたルミナが呟く。

 隣にいたパトロも頷いた。


「先生って誰だ?」


 ルークは首を傾げて尋ねる。


「バードスクール、僕たちや神の国バシレイアにいるミラやシルフィードの先生で、キャリーの母親です」


 軽く話す横でキャリーはゾッと肩を震わせた。

 彼女は激しく首を振り拒絶する。


「ヤダヤダヤダ! お母様だけはやだ! あたしはリードを真似ただけ」


 全力の拒否にルークは唖然とする。


(あの背の小さな盗人か……)


 キャリーの反応で、重い空気が妙な形で抜けていく。

 そんな様子を眺めていたマットボーイ、ジモラは前へでる。キャリーの元へ歩み寄った。

 そのチャンスを逃さないために。


「そうだ、その通りだ! キャリー・ピジュン」


 嬉しそうにキャリーの肩を揺らした彼は、彼女の横を通り過ぎ、日が差し込む場所に陣取った。


「キャリーの言う通り、バカバカしい! そうさ! 所詮この世界にはバカしかいない。バカみたいに武器を作りたがる奴ら。バカみたいに頭でっかちな奴ら、バカ正直に頑張る奴ら、バカのふりをしてバカになっちまった哀れなバカ。そう、バカバッカだ! HA、HA」


 虚しい高笑いは響き、ここにいる全員の視線を惹きつける。


「バカしかいない世界で、成し遂げたいことがあるなら、どうしたら良いと思う?」


 戦争を起こそうとするバカを相手に、何ができるか?


 行手を阻むものがいる時、どうしたらいいか?


 ジモラは両手を広げて言う。


「そいつら以上に大馬鹿野郎になるしかないんだよ!」


 キャリーの出した冷たい感情は、ジモラが今、最も欲しがった感情だ。

 食べたいものが食べられた時、浮き立つ思いは人を掻き立たせる。

 絶好調な今、ジモラは、この状況で最良な作戦を話し出す。

あやしいものじゃないよ、あやかしだよ。

どうも、あやかしの濫です。

スーパースペックのガーネットはついに命を巻き戻す技術を手に入れた。

でも、もらってすぐに壊されてしまった。制作コスト高いんですよ。

被害者なのに雑に扱われるオリパスには同情してしまう。

じだんだを踏むほど一緒にされると嫌なんだ。

キャリーとお母様の関係はなかなか深そうですね。

「キャリー・ピジュンの冒険」を面白い、興味を持ったという方は、

是非、ブックマーク、高評価をよろしくお願いします。


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