射影機とドラゴンと雨宿り Lv.3(八話)
ブドウジュースを啜りながらロキはふと先程からずっと気になっていた事を聞いてみた。
「そういえば、せっかく落ち着いたのに聞いちゃ悪いかもなんだけど……なんで、森の中で泣き喚いてたんだ? 何か辛い事でもあったのか?」
キャリーはパンを飲み込んでから膝を抱えて丸くなる。また、丸くなったキャリーを見て心配に近づこうとするロキに、彼女は笑って見せた。
「大丈夫」
彼女はそう言いながら、焚き火の方を見た。
「実は……大切な人が殺されて……」
その言葉を聞いた瞬間、ロキは聞いてはいけない話をさせてしまったんだと。後悔して、口からこぼれる様に誤ってしまった。
「うんん、平気、今はロキのおかげで、すごく落ち着いてるの。それに……正直、今どうしたらいいのか分からない……」
キャリーは顔を埋める。暗くなった視界には、あの日の夕暮れと処刑場が目に浮かぶ。そして、処刑代の上から赤い満月の様に残酷に鋭い刃の様な視線で見下ろすメアリーの姿が浮かぶ。
「手を伸ばせば助けられたはずなのに、それを拒絶された瞬間、あたしはどうしてなのか分からなかった。それとショックだった。あたしに手助けてもらうのが嫌だったのかもしれない。そう思うととっても…とっても……」
キャリーには、それ以上言えず、言葉に詰まった。彼女はまだ、残ってるブドウジュースを口に流し込んだ。
「あれからずっと、どうしたらいいのか分からなくて、考えるのすら怖かったの。裏切り者と殺した国の奴らを恨んで復讐したら気が晴れるのかな? 暴力に怯えて何もせず、ただ、黙って過ごせばいいのかな? それとも、あの人の後を追って死ねばよかったのかな? そうすれば、楽になれたのに……そんな事ばかりが頭の中で雨の音の様に騒つっけてるの……」
話を聞いていたロキはどう声を掛けたらいいか分からず、黙っていた。
静かになった洞窟の中は、焚き火の音がぱちぱちと聞こえるのと、遠くの方でポツポツ水滴が落ちる音が聞こえる。
「ねぇねぇ、さっき、ドラゴンの写真を撮るとか、言ってたけど……」
静かになるのが耐えられなかった、キャリーはロキに話を振った。じゃないとまた、考えすぎて頭がおかしくなりそうだったから。
「あーうん、そう。最近、この近くにやってきたドラゴンを撮って持ってる図鑑に貼ろうと思って」
「へーすごいじゃん」
「でもさ」ロキは手を少し後ろについて寄りかかり上を向きながら言う。「そのドラゴン、目撃情報はあるのになかなか見つからないんだ」
「そりゃ、ドラゴンなんだし、そうそう見つからないよ」
「いやいや、他のドラゴンとは比べ物にならないんだぜ、あいつは姿が見えないんだ!」
「姿が見えない?」
「そう、奴の鱗の色はとても薄く、鏡の様に光を反射させるんだ。それと、ドラゴンが持つ魔力が混ざって辺りの景色に溶け込むんだ!」
ロキは自分の事の様に誇らしく、目を輝かせながら話す。
「ロキは見た事あるの!」
「いや、ない。図鑑に書いてあっただけだ。本来の姿は白くて大きなドラゴンなんだって」
彼はそう言いながらリュックの口を大きく広げて、射影機を取り出し、それを横に置いた。そして、リュックの底に置いてあった、分厚い本を取り出す。
ロキはキャリーに近づきながら本を広げて、慣れた様子で、見せたいページを開いた。
「ここに書いてあるドラゴン、コイツがこの辺りにきっといるはずだ!」
彼はそう言いながらドラゴンの絵を指差す。
ドラゴンの絵は全体を横から見た図で出来ており、四つ足に長い首、全身に細かく書かれた鱗、その一部は矢印が敷かれて先程、ロキが言っていた説明が書いてある。翼は大きく鳥の羽よりも蝙蝠の羽によく似てた。頭にはツノが生えており、ここにも矢印があって、魔力を操る機関と書かれている。
「この本には、この世界のすべてが書いてあるんだ! 例えば、こっちのページには北に生息する人狼の事や温泉地だったり、南の海の魚とか……なんなら、この辺の魔物の事も書いてあるんだよ。すごくない!」
ロキは本のページを巡くり、興奮しながら内容を話す。
確かに面白そうだ。とキャリーは思ったのだが、出鱈目な本なのではとも疑ってしまった。
「それ、全部本当にいるの?」
キャリーは首を傾げる。
「いるとも、その証拠に……」と言いながら彼はページを捲る。
「写真を撮ったんだぜ」と言いながらこの辺に生息する魔物のスライムの写真と北部のリスの写真を見せてくれた。他にも何枚か写真が図鑑に貼られている。
キャリーは驚き、言葉が見つからなかった。
「本当だ……すごいね。この本、どこで見つけたの?」
「北の聖堂の図書室に、あった……」
ロキは浮かない顔で答えた。あまり、良い思い出がないのかもしれない。そう思い、キャリーはそれ以上聞かないことにした。
「……」
「あっ! そうだ!」とロキが突然、叫び出す。
「ねえ、キャリー! この世界には死者と会える場所があるんだ。」
彼は顔を近づいて頷く。
ロキはキャリーと自分との間を開けて、そこに本を広げてキャリーに話し始めた。
「この本によれば、死者に合う方法は二つあって、一つは神の国 バシレイアの中央にある教会、そこから更に中心にある光の塔、その中で会えるかも知れないんだ。ただ、あそこは神聖な場所で偉い人以外、入れないんだ。例え、入る事が出来ても、望んだ人に会えるとは、限らないんだ」
「バシレイアの教会……」キャリーはそう呟いて考え込む「あたしも何度か教会に行ったけど、そんな場所見た事ない……」
ロキはもう一つの方法を話し始めた。
「それともう一つ、最果てを目指すんだ」
「最果て?」
「そう、この世界には果てがあるんだ。そこに行けば、死者に会うことができる、と言われてるって、書いてあるんだ」
ロキは本をパラパラとめくり、最果てに関するページを読み始めた。
「北に行けば、黒雲の中、降り荒れる吹雪を越え、氷山の頂上に果てがあり。
東に行けば、満開の桜が咲く、巨大樹の下、根の隙間に果てがあり。
西に行けば、灼熱の太陽を超えた先、王の眠る遺跡の中に果てがあり。でも、最後の王の眠る遺跡は砂に埋もれていまどこにあるのか分からないんだって……でも氷山と桜の巨大樹は本当にあって国のシンボルにされているらしい……」
ロキは補足をしながらキャリーの方を見る。キャリーは本をジッと見つめて考え込んでいた。
「最果て……」
キャリーは他の人よりも沢山の場所を訪れた事があると思っていたが世界の端には、まだ行った事がない。
「もし、君が最果てを目指すなら、そうとう準備をした方がいい。北は寒いし、東は魔物が強い、西
は……」
ロキはアドバイスをやめ、耳を澄ます。
キャリーはその様子を見て、首を傾げる。
「雨が止んだみたいだ」
あやしいものじゃいよ、あやかしだよ。
どうも、あやかしの濫です。
ドラゴンに最果てと、両方が書いてある本なんて、そうある物じゃないですよね。一体、北の聖堂は、どんな所なのでしょうかね?
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