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三人の逃亡者 Lv.4(二話)

 これはマズイとキャリーはオリパスを連れて帰る。


 ジモラは周りから疎まれ、嫌われている存在だが、何かをする時は必ず何かが起こる時だ。

 それに戦争を起こす為に動く、オットーたちを止められるのならば、止めたい。

 ガーネットの時計店に戻るとジモラはオリパスがいる事に大いに満足し、笑みを浮かべた。


「やぁ、会いたかった、友よ。どうした、眉間に皺を寄せて、ッチャッチャ」


 こめかみをトントンと突きながら、キャリーの背後に立つ男に聞く。

 センター分けの前髪から覗くおでこには確かに皺が寄っていた。

 オリパスは荒い息を整えながら尋ねる。


「それで一体どう言う事だ?」


 手元を回しながらジモラはすぐに話し出す。


「まずは落ち着いてから話そうぜ。でないと、何にも頭に入らないだろ? ッチャと言っても、お前たちが思っている程、もう時間がないだろうが」


「何?」


「今、この国に神の国バシレイア最強の老兵シルバー・ヴォルフが向かっているそうじゃないか」


 その名前にキャリーはどきりと心臓が跳ねる。

 メアリー・ホルスを殺した一人だ。


 大切な人を殺されたのはオットーやスタックタウンの者たちだけではない。

 キャリーの中でも黒い感情が浮かんできてしまった。


「こっちはッチャ……サソリの外骨格マト・ドールが仲間を引き連れて、向かっている」


「止めに行かなくちゃ!」


 マトのことはキャリーも知っている。

 大柄な体格に赤髭を生やした豪快な男だ。


 彼もキャリーやジモラと同じ様な祝福の力を持っていることも知っていた。しかし、それでもシルバーには勝てない。

 なぜなら、シルバーはメアリー・ホルスと渡り合えるほどの実力者だからだ。


 キャリーは急いで扉から出て行こうとした。しかし、動くよりも先にオリパスに掴まれる。


「待て!」


「なんで!」


 掴む腕を引き剥がそうとしながら、聞き返す。

 オリパスは爪を立てるキャリーに目を合わせて言った。


「今行ったところで、どうなるんだ!」


「あたしなら追いつける!」


「違う、追いついてどうするか聞いている」


 彼の問いかけにキャリーは答えられない。


 考えてなかった。


 実際にあってなんと言えば、マトたちは聞いてくれるのか想像がつかない。

 口ごもるキャリーにオリパスは諭す。


「お前がどれだけ早くても届かない。マトさんたちの意思は変えられない」


「そうだぜ、ガーネットがお前を心配して、べそっかきになっちまう。まぁ、俺は腹が満たされるから構わないがな」


 ジモラはヘラヘラと笑いながら言う。


「誰がべそっかきよ!」


 バンっと足を踏み鳴らしながらガーネットが現れた。

 ジモラは含み笑いを浮かべながら、距離を取る。

 彼女はいまだに銃を握っているのだ。


「それに今は重要じゃない」


「重要じゃない?」


 キャリーの問いかけにジモラは肩をすくめる。


「簡単な話さ……奴らが独断で動いた。ムフフ、ッチャ、この国には関係がないと。割り切ればいい。それよりももっと大事な話がある」


 ジモラはゆっくりと歩き出し、窓枠を超えて、通路へと出ていった。


「来いよ、こっちの方が、取り返しが付かなくなる」


 彼は振り返ることもなく歩き出した。

 二人がついてくることを分かっているかのように。

 オリパス達はすぐに後を追おうとする。しかし、ガーネットは慌てて二人を呼び止めた。


「二人とも待って。特にオリパス!」


 窓枠を乗り越えるキャリーを横目にオリパスは振り返る。

 ガーネットは慌てて作業台から一つの時計を持ち出す。


「これをしっかりと付けていて」


 彼女は素早く腕時計をオリパスの腕に巻き付けた。

 ブラウンの皮ベルト、銀色の円盤の中で宝石があしらわれた針が時間を刻んでいる。


「いい? 絶ッ対に外しちゃダメよ」


 ガーネットは念を押す様にオリパスの腕をしっかりと包み込む。

 続けてキャリーには斜めがけの鞄を差し出す。

 かぶせの横にはなんの模様もない、ただの鞄だ。


 これは以前までキャリーが使っていた物である。


「何もないよりはマシよ」


 サイズを合わせながら中身を伝えた。


「元々入ってた物と身を隠せるものが入っているわ。危険になったら逃げてよね」


 心配するガーネットにキャリーはこくりと頷く。

 贈り物を受け取った二人は先を行くジモラを追いかけた。

 ガーネットは砂煙の様にざわつく心をそっと押さえ込む。 



 

 ジモラはガーネットの時計店から少し離れた空き家へと訪れる。

 彼は建物内の狭い階段を振り返りながら言った。


「ここを上がれば見えるはずだ」


 期待に胸を膨らませる様に口角を上げる。

 オリパスもその後について行くが、ふと、キャリーを見下ろした。


「キャリー、ルークさんを呼んできてくれ」


 オリパスの代わりにバシレイアへの手紙を書いていた兜を被った男。

 作業中のオリパスを連れて来て、ルークだけ置き去りにしていた。


「なんで、あたしもついて行く」


 オリパスの言葉にキャリーは噛みつく。

 自分を邪魔者の様に扱っている気がしたのだ。

 睨みを効かせて尋ねる。


 彼はジッと鋭い視線で睨み返してから、言葉を付け足す。


「何かあった時に対処できる人が多い方がいい。今、呼びに行けるのはお前だけなんだ」


 キャリーは言い返したい気持ちを抑えて返事をする。

 走り去ったのを見送ると向きを戻し階段を登っていった。


「ムフフ、クク、甘い甘い、お前たちは本当に甘いな」


 ジモラが気味の悪い笑い声をあげて言う。

 オリパスの言葉は嘘偽りのない言葉だが、心意にはキャリーの安全を狙っていた。


 何かあった時にキャリーを守ってくれる。

 ルークと言う男はキャリーが自分の旅で出会った味方なのだ。

 ならば、彼の側にキャリーを置いた方がいい。


「メアリーも誰かを守る為に自分の命を放り投げていた。これは近くにいると移る病気なのか?」


「そうかもな」


 オリパスは適当に答える。

 ジモラは階段を登り切るとすぐ側の扉を開く。


 正面がガラス張りの事務室の様な場所だ。

 スタックタウンのバラバラな建物や大きな歯車が見えた。


「アレが見えるか?」


 ジモラは一番奥に聳え立つ、一番大きな煙突を指差す。

 あの煙突は船の様に大きなスタックタウンを動かすための動力がある場所だ。

 今も大量の煙を上げて、この街を危険な荒野から守る様に動いている。


「実は少しばかり、手を加えられてな。アレから、でっかいビームが出る様にした」


「ビーム?」


「ほら、魔法使いどもがドンパチする時に出すアレだよ」


 窓辺に立ち、横にいるオリパスを見ながら、ジモラは頭の横を指で回す。

 魔法使いが戦闘において出す攻撃魔法だと、オリパスも理解した。


 ジモラは続けて話す。


「想像してみろよ。あのデカい筒からバカでかいビームが出るなんて、嫌なことも全部、無くなりそうじゃないか」


 出鱈目を話す様にジモラは言う。

 オリパスは静かに考え込んだ。


 ジモラの言う事が正しいのか、分からないからだった。

 数年前まであの煙突は確かに街全体を動かす動力にすぎない。

 だが、この街の技術力とそれを生み出す技術者の精神は異常だと言うことも知っている。


「どのくらいの威力があるか分かるか?」


「ッチャさぁな、サイが熱く語ってたぐらい使えるもの。としか知らないね」


 見た事がない。

 ならば、本当にあの煙突からビームが出るのか疑わしかった。

 ただ、オリパスの横で景色を眺める男が言うのならば、無視はできない。


 本当なのならば、取り返しがつかなくなるかもしれないのだ。


(行って、調査してみないと分からないな)


 オリパスは大きなため息を吐く。


「ムフフ、約束を守ろうとするのは辛いだろ」


 ジモラが慰める様に言った。


「いっその事、破ってしまえたらいいのにって思うはずだ? ッチャッチャ、だが、あの熱々のコクのある味を知ってしまったら出来ないんだろうね」


 彼は口 珍しく不敵な笑みを止める。だが、すぐにいつもの調子を取り戻した。


「俺は少し、飲み物を取ってこよう。あいつらの分も用意するさ。作戦会議は息が詰まりそうになるからな。口直しは必要だ……」


 窓を見ていたジモラは、含み笑いを浮かべていた。

 突然、不敵な笑みが嘘の様に消え去る。


 窓の外を見ながら彼は目を見開いた。

 常に余裕を見せるジモラの顔から次第に色が抜けていく。


「あー話が違うぜ。これじゃあ……俺まで消し炭だろ?」


 ジモラの言葉に、オリパスは急いで彼の視線の先へ目をやった。

 大きな煙突よりもずっと近く。

 ちょうど、今いる建物と同じぐらいの高さまで積み上げられた建物。その上に数人の人影が見えた。


 そのうちの一人は見覚えがある。


 虎の様な模様の髪、黒茶けたつむじと黄色い髪の移り変わりの辺りに猫耳が生えている。

 黒い皮のジャケットに、ショートパンツからは縞々の尻尾が垂れていた。


「オットー⁉︎」


 サソリの右腕オットー、かつて、オリパスと同じくメアリー・ホルスに着き、共に戦った仲間だ。

 今は復讐のために戦争を企てる一角である。


 彼女の横には長い白髪の男と黒髪の少女が立っていた。

 黒髪の女は筒状の武器を担ぎ上げる。


 スカートをたなびかせながら迷いなく引き金を引いた。

 真っ白な煙と共に黒い塊が飛んでくる。


 次の瞬間、二人が潜伏していた建物は大きな音と共に破壊されてしまった。


 ルークを連れて来ていたキャリーは目撃する。

 彼女は連れて来た男を置き去りにして走り出してしまった。


「オリパーース!」

あやしいものじゃないよ、あやかしだよ。

どうも、あやかしの濫です。

何故お前は扉を使わない!

ジモラの祝福の力……使いようによってはベリルさんみたいに……

ポテンシャルがやばいですね。

「キャリー・ピジュンの冒険」を面白い、興味を持ったという方は、

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