表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
166/177

街巡り ガラスのウマ工房 Lv.2(十話)

 工房の片付けを終えたキャリーは結局、上まで案内してもらった。

 頂上まで上がってくると強い突風に飛ばされそうになる。


 大きな煙突を背に夕陽が街を照らしていた。


 真っ赤な夕暮れはこの街をオレンジ色に染め上げて、目が眩みそうだ。

 リベルは少し歩いていき、ある場所まで案内する。

 小さな屋根に、少しだけ盛り上がった床、左右に伸びた二本の鉄骨はどこまでも続いていた。


「ここは、最近作られた列車って言う乗り物が来るところで、駅って言うんだ」


 彼は大きな煙突とは反対を指差しながら言う。


「端の方まで続いてるから、帰り道が向こうならここを使うといいよ」


 線路の先に目をやるとゴトゴトと音を立てながら丸みを帯びた列車が灯をつけながらやってくる。


「ちょうど来たみたいだね」


 リベルとキャリーは列車がやってくるのをじっと見ていた。

 対してカニンチェンは辺りを見渡す。

 ふと、空に一羽の鳥が飛んでいる事に気づく。

 夕焼けに黒く染まった鳥には見覚えがあった。


 彼は迎えが来たのだと悟る。

 甲高い音を立てながらゆっくりとスピードを落として止まる列車。

 ちょうど停止した時にカニンチェンは口を開いた。


「僕はここで別れよう」


 キャリーたちは彼の言葉に振り返る。

 どうして、と尋ねる様な視線を向けた。


「何だいその目は? 仲間を見つけたんだ」


 肩をすくめるカニンチェンに、キャリーは少なからず、寂しさを覚える。


「また、会えるといいね」


 風に吹かれながら彼女は言った。しかし、カニンチェンは首を振って否定する。


「違う。もう会いたくないはずだ」


 長い白髪をなびかせる彼の言葉に、キャリーはこくりと頷いてしまう。

 彼のそう言う態度が嫌いだからだ。

 誰かの言葉を違うと否定する、話し方が嫌いだった。


 それでも一緒に街を巡ったのは面白かったのも事実だ。

 お礼を言おうとしたが、カニンチェンはすでに駅を後にしていた。


 いないとなれば、言う必要もない。

 キャリーは心の中で一人納得する。


(確かにあいつとは会わないほうがいい。嫌な思いもたくさんしたんだし)


 そんな風に一人頷いていると駅に二人の男女がやってくる。

 オリパスとレサトだ。

 彼らは何気ない顔で姿見せる。


「あいつは……」


 夕焼けに目を細めるオリパスは静かにカニンチェンがいった方を見つめていた。

 何か、引っ掛かるものがあったのだろう。

 だが、キャリーには変わらない事だ。

 キャリーはリベルの方を見て、別れを告げた。


「上まで案内してくれてありがとう! また、会いに行くね」


「うん、その時までには沢山の売り物を用意しているよ。買いにおいで」


 縮毛ととんがった鼻の少年は胸を張って答える。

 キャリーは大きく頷いて返事をした。


「うん、買いに行くよ! またね」


 列車に飛び乗り、手を振る。

 オリパスとレサトも何気ない顔で乗り込んだ。

 店の物がほとんど壊されてしまったリベルにとって、今日は災難な日だったのかもしれない。


 それでも、キャリーとカニンチェンに出会ったのは、彼にとっても不思議な体験になった。

 帰ったら、ゆっくり休もうと駅を後にしようとする。

 シューっと蒸気を漏らし、列車もちょうど走り出そうとした。その時、少年は名前を呼ばれた。


「リベル!」


 振り返ると、夕暮れに照らされて黄金に輝く綺麗な金髪に、まっすぐな黄色い瞳の少女が列車の窓を上げて、大きく手を振っていた。


 キャリーの姿にリベルは思わず笑みが溢れる。

 彼もまた精一杯の思いで、手を振りかえした。



 

 走り出した列車の中はしんっとして、ゴトゴトと揺れる音が聞こえる。

 キャリーは横並びの椅子の真ん中に腰掛けた。


 天井には輪っかを巻きつけたベルトがいくつもぶら下がっている。

 車内にはキャリーの他にオリパスとレサトだけだった。

 二人は入り口のところで何か話していたがキャリーには聞こえない。


 夕焼け空は熱が冷め、青紫色の夜空に変わっていく。

 色の変わり目が暖かく、どこか寂しい様な気がしてキャリーは目が離せずにいた。しかし、心地よく揺れる列車と長い一日の疲れからか彼女はだんだんと眠気に誘われていく。


 気づけば、キャリーはスースーと寝息をたてて、深い眠りに入ってしまった。

 それに気づいたオリパスとレサトは静かに彼女を見守る。


 キャリーは夢を見ていた。


 晴れ渡る青空にガラスの様に透明で、ひんやりと氷の様に冷たい美しい花が咲き誇る草原が広がっている。


 彼女はコトコトと揺れるガラスのウマに乗りながら、草原を駆け回っていた。

 どこを見ても眩しい世界にキャリーは自然と笑みが溢れる。


 ふと、遠くの方に誰かが立っているのが見えた。

 キャリーはウマに頼み込み近づいていく。


 真っ白な布を纏った女性は透明な花を積み上げて眺めていた。

 髪は紅く見覚えがある。


 キャリーは大きく手を振って彼女の名を叫んだ。


「⬛︎⬛︎⬛︎!」


 しかし、キャリーは自分の声が聞こえずにいた。

 変だな、と思いながらもう一度叫ぼうとする。すると、別の声に名前を呼ばれた。


「キャリー、キャリー、着いたわよ」


 静かで温かみのある声だ。


 優しく体を譲られた彼女はゆっくりと瞼を開く。

 ぼんやりと照らされた灯りにシーンとした空間。


 レサトが優しい笑みを浮かべてこちらを見ていた。

 ここが列車の中だと思い出す。

 キャリーはあくびをしながら答えた。


「レサ姉、もう着いたの?」


「えぇ、そうよ。歩ける?」


 彼女の問いかけにキャリーはこくりと答える。

 外に出るとひんやりと冷たく、思わず肩を窄めてしまう。


 遠くの建物は黒く何も見えない。だけど、空は星が散らばり、どこまでも輝いていた。

 この景色を見たキャリーは素晴らしい一日を過ごせた気する。


 胸の中が暖かく感じる。


 キャリーはオリパスとレサトと共に、みんなが待つ時計店へと帰って行くのだった。

あやしいものじゃないよ、あやかしだよ。

どうも、あやかしの濫です。

夢の中では名前を呼んだはずなのに自分ですら分からない時がありますよね。

ですが、キャリー・ピジュンの冒険を呼んできた皆様ならきっと、

キャリーが名前を呼んだのが誰か分かると思います。

次回、キャリー・ピジュンの冒険「街巡り ガラスのウマ工房 Lv.2」最終話

ぜひ、よみにきてください。

「キャリー・ピジュンの冒険」を面白い、興味を持ったという方は、

是非、ブックマーク、高評価をよろしくお願いします。


よろしければ、X(Twitter)のフォローもお願いします。

https://x.com/28ghost_ran?s=11&t=0zYVJ9IP2x3p0qzo4fVtcQ

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ