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街巡り ガラスのウマ工房 Lv.2(九話)

 ガラスのウマ工房に戻ったキャリー。

 店内は顔のない男たちのせいで割れたガラスが床一面に散らばっていた。

 ただ一人、縮毛にツンとたった鼻の少年リベルが、破片を一つ一つ丁寧に集めている。


 彼の様子を部屋の端でカニンチェンはジッと見ていた。

 細い手足に長い白髪は枯れ木を思わせる。


 キャリーはジッと目を細めカニンチェンに尋ねた。


「手伝わないの?」


「いいや、今やろうとしていた」


 彼女の言葉にカニンチェンはようやく動き出す。

 キャリーもリベルの手伝いをした。

 本当はオリパスやレサトと合流できて、上に行く必要がないと話さなくてはいけなかったが、話せる気がしない。

 リベルの作り出した品が壊されてしまったのだから。


「……」


「そんなに落ち込まないで」


 俯くキャリーにリベルはクスッと笑って肩をすくめた。


「二人のおかげで鬱陶しい奴らを追い払えたんだ。ありがとう」


 ガラスを高く持ち上げ、光に照らしながら、彼は得意げに話す。


「それにガラスは割れてもまた直せる。なんなら、砕く手間も省けたしね」


 頼もしい姿にキャリーも自然と笑みが溢れた。

 片付けをしているとカニンチェンがなにかを拾い上げる。


 それは透明で今にでも走り出しそうなガラスのウマだった。

 傷もひびもなく、無事に残っている。


 彼は掃除することすら忘れ、マジマジとウマを見つめていた。


「良かったら、貰っていきませんか?」


 リベルの提案にカニンチェンは思わず目を合わせる。

 彼の反応に少し驚きながらリベルは話した。


「あなたには店を守ってもらったから、これだけじゃ物足りないかもだけど、他に渡せるものもありませんし」


 申し訳なさそうに彼は髪をかく。

 ただ、感謝の気持ちを伝えたかったのだ。


 リベルの提案にカニンチェンはもう一度ガラスのウマを見つめる。そして、顔を上げてキャリーの方へ目線を向けた。


「……」


 獣が遠くの物を見つめる様に、もしくは、何かを訴えかける様な視線だった。しかし、キャリーにはそれが何なのか分からない。


 彼の意思を汲み取れなかったキャリーは答える事ができなかった。

 やがてカニンチェンは静かに瞳を閉じる。


「いいや、いただけない」


 彼はリベルの提案を断った。


「この店で唯一残った品だ。ここまで精巧に作られているのなら宣伝のために置いておくべきさ。それに」


 カニンチェンは少し寂しそうに言う。


「僕にはこれをおくための場所がないんだ」


 彼の言葉にリベルは残念そうに俯く。しかし、彼はめげずに顔を上げた。


「なら、今度はもう少し、小さいのを作りますね。そうしたら、持ち運びがしやすいはずだから!」


 リベルの提案にカニンチェンは何も答えなかった。

 ただ、口元にうっすらと微笑みを浮かべているだけだ。

あやしいものじゃないよ、あやかしだよ。

どうも、あやかしの濫です。

言われて動くカニンチェンが精神的未熟さを感じますね。

彼と戦っていた顔のない男ですが、カニンチェンに負けた後、入り口前に不法投棄されました。

「兄さん……うごけない」(か細い声)

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