街巡り ガラスのウマ工房 Lv.2(七話)
入り組んだ街が広がるスタックタウン。
底の見えない上層部、落ちたら一巻の終わりと思える渡り廊下で、一人の少女が泣きじゃくっていた。
「わあああ!」
憧れの人の様になりたいと髪を赤く染め、可愛くサイドテールにしている。
丈の長いスカートには、フリルと共に街の煤がこびりついていた。
彼女の名はガーネット、キャリーの親友である。
パメラの占い小屋から自身が持つ時計店に仲間と一緒に帰るところだった。しかし、街のどこかで爆発が起き、衝撃で頭上の鉄骨が外れてしまったのだ。
危うくガーネットに降りかかるところだった。しかし、素早く動けるキャリーによって難を逃れる。
ただ、安心するのも束の間、ガーネットは自身が今いる場所を忘れてしまっていたのだ。
左右には身を委ねられる柵はなく、落ちてしまえば、怪我では済まない。
それなのに彼女は倒れそうになってしまった。
落ちかけたガーネットを助けたのは他でもないキャリーだったのだ。
キャリーはガーネットに変わり街の下層へと落ちていってしまう。
「ふざけないでよ! なんで、私なんかを庇ったの」
大粒の涙を流しながらガーネットは底の見えない渡り廊下の下を覗く。
「バカ、バカ、バカ!」
不運な事故で命を落とすなんてあり得ない。
あっちゃいけないと彼女は顔を埋めた。
涙を流すガーネットに側にいたオリパスが声をかける。
「おい、忘れたのか?」
乱暴な言い方にガーネットはカッと頭に血が上る。
言い方というものがあるはずだ。
顔を上げて睨みつけた。
視線の先にはセンター分けされた前髪の間から目つきの悪い男が彼女を見つめる。
その瞳はどこか揺らいでいる様に見えた。
「あいつには祝福の力がある。そう簡単には死なない」
「でも! でも、この高さから落ちたら……」
生きていたとしても動けない程の怪我をしている。
そうに違いない。
言葉に仕掛けたが恐ろしく口をつぐんだ。
不安がるガーネットにオリパスは言う。
「俺が助けに行く」
抑揚のない言葉で話す。
「下に行けばあいつがまだいるはずだ。俺が必ず連れて帰る」
オリパスは言い終わるとガーネットの横を通り抜けていった。
「生きてるって……言ってくれないの?」
うな垂れるガーネットの言葉にオリパスは足を止めて答えた。
「当たり前だ……」
大事な人を切り捨てて、戦争で終わらせた男の言葉は違う。
ガーネットは思い知らされた。だが、それは彼女の思い過ごしに過ぎない。
「当たり前のことを、約束する必要なんてないだろ」
最後の言葉には強い思いを感じた。
ガーネットが振り返るとオリパスは力強く拳を握りしめている。
彼は耐えきれず走り出した。
すぐさま、下へと続くパイプに飛び移り、降りていった。
オリパスは垂直に滑り落ちていく。
途中にある、足場に着地した。
下層はまだ先である。
微かだが、雑音の中に大きく擦れる音が響く。
この音は、ずっと聞こえ何か魔物がいるのではないかと錯覚を覚えるほどだ。
「何かあったの?」
次に降りていく場所を探っていたオリパスの前に、スッと静かで冷たい声が聞こえる。
顔を上げるとトレンチコートを羽織った女性が立っていた。
あやしいものじゃないよ、あやかしだよ。
どうも、あやかしの濫です。
自分のせいで友人が危険な目になるなんて、気が気じゃない状況ですね。
でも、安心してください。バリバリ元気です。祝福の力って便利!
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