街巡り ガラスのウマ工房 Lv.2(六話)
今にも、走り出してしまいそうなガラスのウマを見つめるカニンチェン。
キャリーとここの工房を持つ少年リベルは静かに彼を見ていた。
突然、荒々しい声と共にドアが殴りつけられる。
「おいゴラ! 集金だ。とっとと開けやがれ!」
物騒な物言いにキャリーは睨む。
隣に立っていたリベルの口から驚きの言葉が漏れ出した。
「嘘だろ……もうあいつらが……え、でも」
動揺する彼にキャリーは尋ねる。
「あいつらって?」
リベルはキャリーを一瞬、見つめるがすぐに彼女は知らないのだと思い出す。
叩かれ続ける扉を前に、リベルは訳を話す事を諦めた。
扉を開けに行く。
「はい!」
「こんにちは〜集金に来ました」
扉を開けると目の前には顔のない男たちがリベルを見下ろす。
本来、目や口、鼻などの顔のパーツがある部分がそれぞれ一箇所を残し黒く塗りつぶされていて、見えないのだ。
顔のない男たちはそれぞれ、口、片目、そして、何もないの三人組で立っている。
洒落たシャツを羽織りながら彼らのリーダー格である口だけの男が再び要件を話す。
「はい、集金に来ました」
リベルは不愉快そうに睨みつけ尋ねる。
「集金なら今朝、払いましたよね」
「お金が足りなくなって、取りに来たんだよ」
片目の男が目をにんまりとさせて言う。
「……」
顔のない男は何も言わなかった。
リベルは腕を組み、毅然とした態度で話す。
「集金は七日に一度、各家五ミンツもらうって言うのが、あんたらが決めたルールだろ!」
「えぇ、その通り。代わりにお前たち技術者の安全を確保するのが俺たちの役割だ」
口だけの男がニヤリと薄ら笑いを浮かべる。
「だが、俺たちにだって生活があるんだ。この辺一帯を占めてもせいぜい、五百かそこらしか貯まらない」
「十分だろ?」
リベルは手を払う。そんな彼に理不尽が突きつけられた。
「うるせぇ、金は使っちまってねぇんだよ」
片目の男がリベルの胸ぐらを掴んだ。
「払えないなら」
拳を高く振り上げる。
リベルに殴りかかろうとした。その時、握り拳を途中で止める者がいた。
綺麗な金髪に黄色い瞳の少女、キャリー・ピジュンである。
ピリピリと空気をひりつかせ燃え上がりそうな瞳でカッと男たちを睨みつけていた。
「誰だ、お前?」
「て言うか、いつからそこにいんだよ」
声を荒げる男たち。
キャリーは黙って彼らを睨みつけていた。
背後から大きな手が迫ってくることにも気づかない。
突然、キャリーの体が宙に浮く。
思わず驚いてしまう。
顔のない男が持ち上げたのだ
「離せ、ねぇ、離してよ!」
手足をばたつかせるキャリーに男は言われた通り離してやった。
「わっ!」
キャリーは投げ出され中央の机を崩しながら倒れる。
ガシャッンとガラスが割れていく音が室内に響き渡った。
「オラ!」
口だけの男もリベルを殴り飛ばす。
「何見てんだ」
片目だけの男が側にあったガラスの皿をフリスビーの容量でカニンチェンに投げつける。が、彼には当たることはなかった。
代わりにカウンターの透明な動物たちが散っていく。
その光景をカニンチェンは静かに眺めていた。
片目だけの男は舌打ちをするが、相手は無害だと気づき、無視をする。
男たちはガラス片を踏み潰しながら、中へと入って来た。
手には剣に回転する薔薇の様な鋭い鎖を巻きつけた武器、チェーンソーを握りしめていた。
ヴーン、ヴーンと獣の様に唸り声をあげている
「大人しく金を出せば軽く撫でるだけにしてやるよ」
「金なんてあるもんか!」
リベルは床に散らばる破片を投げ付ける。
クズに渡す金などないのだ。
ここには自身が生きていくための金しかない。
投げた破片は男たちの服に当たるが傷つけることはなく。
虚しく床に落ちていき、再び砕かれる。
「じょあ、死んでもらおうかな!」
口だけの男は、唸り続けるチェーンソーを振り上げる。
リベルが腕で自身を庇おうとした。その時、キャリーが助けに入る。
ピチッと音を立てて、彼を安全な場所に抱え上げたのだ。
リベルが目を開けた時、口だけの男が床にチェーンソーを擦り付けているを目にする。
「危なかった……」
キャリーは冷や汗をかきながら言う。
引っ張った時、足元のガラス片が彼に刺さらないから不安だったのだ。
うまく交わした二人だが、状況は変わらなかった。
片目だけの男もチェーンソーを取り出し、殺しにかかる。
カニンチェンは未だ、傍観者のままだった。
あの様子では動いてくれない。
キャリーはそうそうに諦めてしまう。
ここは自分がなんとかしなくてはいけないのだ。
辺りを見渡し、逃げ道を探す。その時、目の前まで来ていた。
「よそ見すんじゃねぇ!」
逃げようと足を踏ん張るキャリー。しかし、リベルを掴む手が滑ってしまう。
「しまった!」
これでは彼を抱えて逃げることが出来ない。
今度こそ、終わりだと思ったリベルは思わず目を瞑ってしまう。
死にたくないと全身が叫ぶ。
恐怖にこわばる体はうまく動けず、微かな声で呟くしかない。
「助けて……」
少年の小さな言葉に、機械音で何も聞こえないはずの声に、あの男は答えた。
手にしていた布に包まれた短層槍を振るい、迫る男たちのガラ空きの胴体を穿つ。
「「グハッ!」」
口だけの男と片目だけの男たちは見事に弾かれ、窓際に飛ばされてしまう。
「……」
彼らを突き飛ばしたのは、他でもないキャリーたちと共に、ここでガラス細工を見ていた。
白く長い髪に枯れ木の様に細い手足、静かに佇んでいた男は、一瞬の動きに体の内で爆発が起きた様に、白い息を吐きながら短層槍を突き立てる。
二人を助けたのは、カニンチェン・ノイマンだった。
「カニンチェン……!」
彼が自分達を庇ってくれたことにキャリーは目を見開く。
決して動こうとする人間ではないと思っていたからだ。
「あんた、動けたんだな」
顔のない男がボソリと呟く。
「いいや、違うね」
カニンチェンはいつもの様に否定する。
「君たちがそう思い込んでいただけさ」
不敵に笑う彼の瞳は、怪しく光を帯びていた。
その視線をキャリーたちの方に向ける。
「ほら、とっとと逃げたら」
彼の言い方に言いたい事もあった。しかし、今はリベルを庇うのが先だと思う。
キャリーは頷き、リベルを連れて裏口から出ていった。
「お前も、死なない様にな!」
「いいや……あぁ、死なないさ」
カニンチェンはキャリーに呟き、前を向く。
ちょうど、吹き飛ばした男たちが立ち上がる。
彼らは本気で戦うつもりだった。しかし、顔のない男が静かに言う。
「兄貴たちは、あのガキらを追ってくれ」
「いいのか?」
口だけの男に顔のない男は無言で頷く。
彼らは顔のない男を残して表の入り口から出ていき、キャリーたちを追いかけていく。
「……」
「……」
二人は向き合っていたが、先に動いたのはカニンチェンだった。
彼は武器を下ろしたまま、まだ、生き残っている机をずらし始める。
顔のない男は、そんなカニンチェンの様子を見ていたがやがて、手伝う事にした。
こうしないといつまで経っても仲間を追えないからだ。
ずらし終えた彼らは再び向き合った。
ふと、カニンチェンは顔のない男に話しかける。
「話せるんだね。君」
気の抜けた質問に顔のない男は呆れてため息を吐く。
脱力した肩を振るい落とした。すると、腕に仕込んでいた武器を拳に纏わせる。
「今、その話をする必要ないだろ?」
蒸気を上げながら熱くなる拳を握り、顔のない男は構えた。
カニンチェンはクスリと笑って首を振る。
「いいや、いるね……」
カニンチェンの言葉が終わるより先に二人は動き出す。
決着は一瞬でついた。
真っ直ぐカニンチェンの顔を狙った顔のない男の拳は空を突き。
カニンチェンは間を縫って間合を攻めた。
短層槍に巻かれていた布は解け、槍の姿があらわになる。
短層槍はカニンチェンの体をなぞりながら一線を引く。
弧を描くように顔のない男の肩を切りつけた。
「だって」
カニンチェンは愉快気に笑いながら倒れゆく顔のない男を見下ろしていた。
「気を失った君と、話せないんだからさ」
あやしいものじゃないよ、あやかしだよ。
どうも、あやかしの濫です。
ヤクザみたいなごろつきが出てきましたね。
彼らは呪いで顔が黒く隠れています。仮面をつけてるみたいな感じです。
この話で彼らの名前を出すことがなかったのでここで書かせていただきます。
・口だけの男→オース・片目だけの男→オクルス・顔のない男→アウリス
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