街巡り ガラスのウマ工房 Lv.2(三話)
技術の街スタックタウンの下層に迷い込んだキャリー。
彼女は綺麗な金髪を揺らしながら、ズンズンと進み、黄色い瞳は出口を求めていた。
今はパイプと鉄板に覆われた狭い通路を通っている。
パメラの占い小屋からの帰り、不運にも足を滑らせ、キャリーだけ落ちてしまった。
オリパスやガーネットと再開する為に、早く地上へと続く道を探している。
ただ、キャリーがこうも急ぐのはそれだけではなかった。
「脱獄者同士、こう言う時は会話でも交えて、仲を深める物じゃないか?」
背後から耳障りな低い声が響く。
後ろを振り向くと長い白髪と枯れ木のように長い手足をした男がキャリーの後をついて来ていた。
手には短層槍を布に巻かれた物を持っている。
ニヤリと頬を上げた彼は気味が悪い。
この男はカニンチェン・ノイマンと言い。
以前、キャリーが訪れたファドン刑務所の囚人である。
彼女が急ぐのはカニンチェンとずっといるのが耐えられないからだ。
キャリーはカッと睨みを聞かせて、彼と向き合う。
「あたしは別に囚人なんかじゃない!」
「いいや、囚人だろ? 看守長に手を出して牢屋に放り込まれたんだから」
カニンチェンは何を馬鹿な事を言っていると哀れむような視線で、キャリーの言葉を否定する。
「そんなつまらない論争よりも、もっと有意義な話をしてくれないか?」
彼にとっては囚人か、そうでないか、などはどうでもよく、別の話題を求めた。
お互い外に出られているのだからそれでいいのだ。
「話って……何を話せばいいの?」
話題に困るキャリーに対し、カニンチェンは首を傾げる。
「君が決めればいいじゃないか?」
適当な返しをされて、ムッと顔がこわばる。
キャリーは噛む力が強くなるのを感じながら、話題を決めて尋ねる事にした。
「どうしてここにいるの?」
「君はバカなのか?」
カニンチェンは呆れて彼女を見下ろす。
「その話題はすでに済ませただろ?」
二人がスタックタウンで出会った時に済ませているのだ。
キャリーは不運に落ちて来て、カニンチェンは道に迷ったと。
ただ、キャリーが聞きたかったのは違う。
何のためなに来たのか、そっちを聞きたかったのだ。
話の先をおられたキャリーの口から怒りが溢れそうになる。しかし、怒ったら負けな気がして、すぐさま話を変えてみた。
「じゃあ、好きな食べ物を話そ! お前は何が好きなんだ?」
まだ話をしていないし、有意義な話題だ。
これでまともに会話ができる。
キャリーはそう思った。しかし、カニンチェンは不服そうな顔をして口を開く。
「こう言うのは先に尋ねる方が答える物だ」
またしても、これである。
足元に小石があったらキャリーは迷いなく蹴っていただろう。
爆発しかける感情に振り回されながらも、カニンチェンの言う事にも一理あると思った。
キャリーは自分の好きな食べ物を答える。
好きな食べ物はいくつかあるが、特に好きなのは暖かい料理と甘いお菓子だ。
その中でパッと思いつくのをキャリーは答える。
「シチューとスコーンが好き。甘くて暖かくて美味しいもん」
「シチューは甘くはないだろ?」
「スコーンの話!」
「スコーンもあれ自体が甘くはない。ジャムとクリームが甘いんだ」
カニンチェンのちょくちょく挟む訂正にキャリーは我慢できずに叫び出した。
「あぁ! そんなの分かってるって!」
ビリビリと電気が溢れそうになる。
「さっきからなんだよ、否定ばっか! めんどくさい」
キーキーと叫んでしまう。
話せと言われて話したのにああでもないこうでもない。
頭に血が上ったキャリーの顔は赤くなり、黄色い瞳にうっすらと涙が浮かぶ。
キャリーの怒る姿に、流石にカニンチェンも悪いと気づき目を背ける。
「話し方が……いや、すまない。俺が悪かった」
全く反省している様に見えない。
謝り方が悪かった。
ドンドンと音を立てて、彼女は騒ぐ。
彼女が叫んだ事であるモノを招き寄せてしまう。
ゴゴゴゴと突然、辺りが揺れ始める。
「なに?」
怒りに飲まれかけていたキャリーだが急な事に辺りを見渡す。
破裂する様な大きな音と共に、狭い通路に大きな杭が打ち込まれる。
それは黒々とした爪だった。
二人に当たることはなかったが、襲って来たモノを目撃するには十分な風穴を開けていた。
全身を黒く染めた外骨格で重く鋭い二つの爪を持つ。
体にめり込んだ顔からは赤く相手を震えさせる様な四つの瞳がこちらを睨んでいた。
頭の上ではカラカラと音を立て金色の液体を垂らす尻尾が動く。
全体はまるでサソリの様な姿で、キャリーとカニンチェンを合わせても、それ以上の大きさがあった。
「あれは……ファメス、いや⁉︎」
現れた怪物にカニンチェンは目を見開く。
彼はあれをファメスと呼んだ。
ファメスは二人を見つけ、大きなハサミで捕らえようとする。
キャリーは一瞬、カニンチェンの方を見る。
助けを求める為ではない。
キャリー一人でも逃げることができた。しかし、彼を見捨てて離れることができないのだ。
例え嫌いな男だとしても。
彼女はすかさず彼を引き寄せる。
カニンチェンが立っていた場所にファメスの爪が食い込んだ。
「逃げるよ!」
キャリーはそう言いながら、鉄屑置き場の見える通路へ走っていった。
見晴らしのいい場所だ。
背後のハシゴを登り始める。
カニンチェンも続いた。
ハシゴを登る二人を怪物ファメスは、よしとしなかった。
金色の液体を垂らす怪物は先頭を行くキャリーに尻尾の鋭い先端を突き立てる。
キャリーの頬を掠める手前、弾く音が響く。
振り返るとカニンチェンが布に包んでいた短層槍を取り出しキャリーを庇う。
彼はそのまま器用に回し、固く黒い鎧の隙間を切り裂いた。
見入ってしまいそうな斬撃は見事に、怪物ファメスの尻尾を切り落とす。
「すごい……」
鮮やかな槍捌きに感心するキャリーにカニンチェンは否定する。
「今は感情に浸るには早いよ」
彼の言葉にハッとしたキャリーは上へと登っていく。
どれだけ上ったか、気づくと二人は先ほどよりもさらに狭く暗い通路に辿り着いた。
「ここは……下水道の様な場所か」
「あっちから騒がしい音がする」
キャリーは微かに聞こえる音を頼りに歩き出す。
少しして小さな光が天井から差しているのを発見した。
なんらかの出入り口だと気づく。
二人は急いで駆け寄り、蓋を押し上げる。すると、圧巻の光景が待っていた。
どこまでも積み上げられた様に高なる建物。
人々は自身の探究だけを求め、物作りを続ける。
そんな技術の街スタックタウンの名に相応しい場所が広がっていたのだ。
通りを挟んで食器や絨毯、絵画や焼き壺など、ありとあらゆる物が作られている。
二人がたどり着いたのはスタックタウンにいくつも存在する市場だった。
好きな食べ物のくだりがありましたね。キャリーは暖かい料理と甘いお菓子でしたね。これは幼い頃に環境のギャップで好きになりました。ちなみにカニンチェンの好きな食べ物はスコーンだそうです。
話かたさえ気を付ければ、もしかしたら、好きな食べ物で話が盛り上がったかもしれませんね。
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