街巡り ガラスのウマ工房 Lv.2(二話)
案内されてたどり着いたのは、街の奥にある大きな煙突の中だった。
中には無数のパイプが通っており、あちこちから湯気が出ている。
オットーは一番後ろを歩いていた。
なぜなら、カニンチェンに背後を取られるのが嫌だったからだ。
前が詰まる事はなく多くの人たちが入れるだけの空間が広がっている。
中には膨れ上がったコブの様な大きな丸い機械が置かれており、布で隠されていた。
「みんな! ここまでついて来てくれてありがとう」
感謝を述べたサイは、今日ここに集まった目的を話し始める。
「知っての通り、我らが英雄メアリー・ホルスはあの憎き神の国バシレイアで命を落としてしまった。そして、奴らは勝ち誇ったかの様に終戦を叫び出したんだ。そんな事があっていいはずがない!」
彼の叫びに次々に同調する者たちが現れた。
オットーの手も硬く握られる。
「このまま、終われるはずがない。僕たちは今までの犠牲のためにも、ここまで導いてくれた紅蓮の竜巻メアリー・ホルス、彼女のためにも勝たなくてはいけないんだ!」
彼の熱い思いにファイアナド騎士団やメアリーを信仰していたものたちは叫び出す。
「そうだ!」
「姐さんの敵を撃つべきだ!」
「滅ぼせ! 奴らに地獄を見せてやる!」
「そうだ! 滅ぼすんだ!」
サイは騒ぎ立つファイアナド騎士団の声を汲み取った。
「奴らは自らの兵士に戦わせておいて、光の塔で平和に過ごしていたそうじゃいか! 僕らは戦える者たちは戦場で、戦えない者は工房で、負傷者は這いずりながらも戦って来たと言うのに、奴らはのうのうと今も生きている」
彼の目には強い怒り、自身と違う環境への嫉妬が滲み出る。
サイの母親は病弱で、痩せ果てた。この荒れた大地に耐える事ができなかった。
もし、教会が手を差し伸べてくれれば、国が守る事を放棄しなければ、別れはもっともっと先に伸ばせたはずだったのだ。
これだけならば、自身の境遇の不運で終わる事ができただろう。しかし、違った。
神の国バシレイアはスタックタウンに光の塔で周辺の都と変わらない税金をかけていたのだ。
教会はロクデナシの掃き溜めとして西に無能たちを送りつけて来ていた。
災厄に最悪を与えていたのだ。
「あんな国、滅べばいい……」
演説を続けていたサイだが、静かに自身の怒りを吐き捨てる。
荒くなった息を整え、決着をつける切り札を皆の前に出す事を決めた。
「あの国は広く、肥えている。認めよう! 僕たちだけでは滅ぼせないのだ」
例え、どれだけの武器があったとしても難しい事は理解していた。
「無謀と勇猛は違う。がむしゃらに制圧ができないのならば、全て焼き払えばいいんだ!」
彼は機械に被せられていた布を取り払う。すると、あの輝きがここにいる者たちを包み込んだ。
紅く、紅く、掻き立てる様な力を感じさせる光。
それはまさに彼女を思わせる輝きだった。
「おぉ、この光は!」
「まさにあの人の様だ!」
最前列で見ていたマトは唸った。
「メアリーの力だ……」
彼の反応にサイは期待通りだと笑みを浮かべる。
「この機械はスタックタウンを動かす動力を大きく改造したものです。以前のものに比べ、より効率的に、より強力に動き続けている」
大きなコブの様な機械を見ながら彼は話を続けた。
「これでもまだ、有り余るエネルギーを持つ機械を博士は改良し、煙突につなげました」
「煙突に?」
マトは眉を顰める。
「はい、有り余るエネルギーを一気に放湿し目標を焼き尽くす事ができるんです」
「なるほど、こいつを使ってあの国を滅ぼすのだな」
マトの解釈に頷きながらサイは話を続けた。
「さらに技術者たちが作り上げた殺戮ロボットを放ちます。マトさんには彼らを率いて生き延びたバシレイア国民を皆殺しにして欲しいのです」
マトは腕を組み、大きく頷いた。
「承知! このマト・ドールに任せたまえ!」
神の国バシレイアを滅ぼす計画が進むなか、入り口に一人の伝令が駆け込んでくる。
「マトの旦那、大変だ!」
名前を呼ばれたマトは振り返り伝令に聞く。
「どうした、そんなに慌てて?」
「これは慌てますぜ、旦那! シル……シルバー・ヴォルフ、神の国最強の男シルバーヴォルフがスタックタウンに向かっているんですぜ!」
「なに!」
伝令の発言にこの場にいた者たちは耳を疑った。
シルバー・ヴォルフは紅蓮の竜巻メアリー・ホルスと渡り合ったと言う伝説の老兵である。
彼がここに辿り着けば、計画も野望も潰えてしまう。
そう、誰もが思った。だが、マトだけは違った。
彼はニヤリと笑みを浮かべ、外へ歩き出す。
「ファイアナド騎士団、出陣の準備をしろ!」
彼の様子に思わずサイが呼び止める。
「どこへ行くんです?」
「決まっているだろ。シルバーのジジに会いに行くんだ。その機械が滅ぼすのに必要なのだろ? なら、守らなければならない。それにあの男を殺せねばバシレイアを滅ぼすのは夢のまた夢だ」
マトは言い終わると堂々と出ていってしまう。
オットーはジッと彼を見つめる。
「お前もくるか?」
腕を組む彼に対しオットーは首を振った。
「いや、あんたの邪魔になりそうだから、ここに残る。無茶だけはするやよ」
彼女の軽口にマトは鼻で笑う。
「ふん、俺は期待に応えて生きるだけだ。この力を存分に生かしてみせるさ!」
彼は戦友たちを連れて煙突を後にする。
半分の者たちが消えた後、技術者たちも戦いの準備を始めるとどこかに立ち去ってしまった。
今残ったのは、サイと彼の親友ジモラ、数人の住人に、サソリの右腕オットー、そして、カニンチェンだけだ。
サイは演説で昂る思いを抑える様に深呼吸をした。
「相変わらず、お前の演説は俺を満たしてくれるな」
ジモラは舌なめずりをし、サイの元に歩み寄った。
ねぎらいの言葉を送る。
「マトが、シルバーとかいう爺さんと戦っている間に、ッチャ俺たちにできる事をしよう」
ジモラは何か話そうとしたが、ふと、カニンチェンの方に向きを変える。
「おっと、客人を立たせっぱなしにしていたな」
「客人ではない。仲間だよ」
カニンチェンの訂正にジモラは適当に返事をして話を続けた。
「取り敢えずだが、宿に案内したほうがいいんじゃないか?」
「そうだな。カニンチェンさん、今から宿に案内いたします」
サイたちはそう言いながら煙突の外に向かった。
最後に残ったオットーはもう一度紅く輝く鼓動する機械の窓を覗く。
中は液体に満たされて常に循環する様になっている。
ふと、真ん中の方に二つの袋が見えた。そこに一本の管が繋がっており、空気が流し込まれて液体を動かしていた。
「!」
ある事に気づいた。
ゾッとする考えに彼女は後退りする。
この機械の中に入っていた二つの袋は人間の肺だ。
肺を動かして動力を生み出しているのだ。
(なんなんだ……これは……)
驚いたオットーはもっとマジマジと見ようとする。その時、背後から声が聞こえた。
「オットー」
振り返るとジモラが出入り口の光を浴びながら立っていた。
「おや? ッチャ、随分顔色が悪いじゃないか」
「それがどうしたていうんだ?」
睨みを効かす彼女に、ジモラは舌なめずりをして、肩をすくめる。
「別に……それより、相談があるんだが」
ジモラはオットーにある提案を投げかける。
それは彼女の復讐において外し難い話を持ちかけた。
煙突を出たサイとカニンチェンは宿へと向かっていた。
狭く入り組んだ道だ。あちこちで歯車が周り煙を上げている。
サイは改めてカニンチェンが来た事に喜んだ。
「いや〜あなたが来て下さり本当に助かりました」
「まだ何もしてないよ」
カニンチェンは首を振る。しかし、サイも負けじと首を振って彼の凄さを語りだす。
「あなたは僅かな仲間と共にバシレイアを滅ぼす計画を立てました」
「計画を立てただけさ。実行はしていない」
謙遜するカニンチェンをサイは高く評価した。
「それでも、バシレイアがあなたを隔離するだけの危機感を覚える程の計画だったんです。あなたの頭脳があれば、この街はより大きな物になります。だから……」
サイはお礼を言おうと振り返る。しかし、そこに誰もいなかった。
奥の通路の足場が消えているのに気がつく。
サイは慌てて下を覗くがカニンチェンの姿は見えなかった。
サイの後を追っていたカニンチェンだが、長い工具を持った者たちに道を阻まれ、途中にあった円形の広い空間で立ち止まってしまった。
そこは各方向と階層に行き来できる場所で、くるくると回りながら動く仕組みになっている。
しばらく辺りを観察していると、カニンチェンは街の下層まで降りてしまう。
そこは鉄屑の廃棄所で街のゴミが行き着く場所だった。
降りて来た場所から上に戻るろうとしたが、すでにリフトは上がってしまっていた。
帰る道を無くした彼は仕方なく狭い道を歩き出す。
街を知るのもいい機会だと思ったのだ。
当てもなく歩いていると横道から少女が飛び出てくる。
綺麗な金髪に黄色い瞳の少女、キャリー・ピジュンだった。
あやしいものじゃないよ、あやかしだよ。
どうも、あやかしの濫です。
恐らく技術の街スタックタウンの闇のひとつですね。人体実験、神の国バシレイアが禁じていたのはこういった倫理を超えたものを作らせない為でした。そのため、医療も禁止されていましたね。
ですが、今回は闇だけではなくこの街の素晴らしい物品を見て言ってもらいたいので、軽く受け流してください。
一番下に戦争の原因について書いておきました。気になる方がいましたら、見ていってください。
「キャリー・ピジュンの冒険」を面白い、興味を持ったという方は、
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技術の街と神の国の間には、本当に多くの問題を抱えていました。
最初に話した人体実験、これは宗教的な問題でした。「神の与えてくれた肉体をいじるとはおぞましい」
そう思う方が多く、魔法などの治療法が多かった為避けられてきました。
つぎにサイの演説にあった「税」これはバシレイア側の油断から来たものです。中央の周辺で暮らす人々は豊かな自然と快適な気候で暮らしてきました。そのため、遠くの事情について知る機会は少なかった点。上層部の「そこまで厳しくないだろ」と慢心がこの結果を生みました。
最後に「教会のハキダメ」ですが、これに関しては仕方ないと言うのがバシレイア側の言い分でした。
光の塔にある教会本部に不届きものを置いておけません。
南と北は本部との交流が多く不届きものはすぐに見つかっていました。結果、西と東が多くなります。
次に東ですが、こちらは油断が出来ない環境で魔物が強く半端者や不届きものはむしろ近づきませんし、近づけさせません。と云った事情で西に偏った感じです。
以上が技術の街スタックタウンと神の国バシレイアが抱えていた問題です。
政治などは苦手分野でおかしな部分があるかもしれません、ご指導いただけると幸いです。
もしくは、暖かい目で見守っていただけるとうれしいです。




