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街巡り ガラスのウマ工房 Lv.2(一話)

 街を見渡せるほど、大きな煙突を背に、虎の娘オットーは果てしなく続く荒野を眺めていた。

 雲がゆっくりと動く様に景色は流れていく。


 今、彼女が腰掛けている床は大きな街の上にあり、街全体が巨大な船の様にゆっくりと動いている。

 静かに景色を眺めていると微かな音が近づいてきた。


 オットーの黒いつむじから黄色の髪色に変わるちょうど上に、生えた丸い獣の耳がぴくりと動き、彼女は振り返る。


 視線の先には赤い髪に赤髭を生やした筋肉質の男が数人の仲間を引き連れてやってきた。

 彼は葉巻を蒸し、紫色の煙を吐く。


「よお、待たせたな」


 頼もしい低い声にオットーは笑みを浮かべた。


「マトさん、他の奴らはまだ来てない。もう少ししたら……」


 彼女が言い終わる前に視界の外から声がする。

 目をやるとわずかな隙間に建てられた階段から一人の青年が姿を見せた。


「いや、待たなくて大丈夫」


 紅蓮の竜巻を信仰する青年サイだ。


 彼の後から次々と人が登ってくる。

 この街一番のマットボーイであるジモラ。そして、白髪混じりの灰色の髪に白衣を着た老人と、この街に済む技術者たちが来た。


 サイは礼儀正しく、堅物なセリフを並べる。


「サソリの外骨格、マト・ドール。僕たちの呼び掛けに答えてくれてありがとう。共に紅蓮の竜巻メアリー・ホルス、彼女の敵を打とう」


 マトはニヤリと歯を見せながら笑う。


「当然の事。こちらもスタックタウンの技術者たちの武器の援助に感謝している。ところでこれで全員か?」


 マトが辺りを見渡しながら尋ねる。

 彼らが集まったのは顔合わせだけではない。

 これからある場所に向かう為である。


 オットーはこのまま進めてしまおうと思ったがサイが首を振った。


「いいえ、マトさん、実はもう一人、助っ人を呼んでいるんだ」


 彼はそう言いながら後ろの方に立つおかっぱあたまの少女を見ながら言う。


「伝令のものがもうすぐだと言っていたから、少し待ってほしい」


「助っ人? ほぉ、このマト・ドール以上の男なのか?」


 腕を組みながら強者を期待するマトに対し、離れた場所にいたオットーが思わず口を挟む。


「陰気臭いクソ野郎だ……」


 ただ、彼女の悪態は聞こえず、代わりにリフトがギギギとつんざく様な音を立てながら上がってくるのが聞こえてきた。


 登ってきたのはテントを被せた馬車だ。


 中からぬっと長い白髪に枯れ木の様に細い手で布を避けて一人の男が姿を見せる。

 革靴を履いた細く長い足を茶色く変色した地面に乗せて降りてきた。

 オットーは眉間に皺を寄せ、冷たい視線を送りながら尋ねる。


「誰だ、テメェ?」


 男は薄ら笑いを浮かべ答えた。


「いいや、違うね。サソリの右腕オットー。君とはすでに会っているだろ?」


 確かに、彼らはすでに会っている。しかし、他の者たちとは今顔を合わせたばかりの為、彼はこの中で一番強いものに視線を向けて自己紹介をした。


「初めまして、カニンチェン・ノイマンだ。マト・ドール、あなたの事は刑務所の中からでも噂は聞いているよ」


 カニンチェンは続けて、サイと後ろの博士の方に向きを変えて感謝を伝える。


「サイくん、博士、脱獄の準備とここまでの馬車を用意してくれてありがとう」


 カニンチェンは一息置き、口を開いた。


「ご依頼通り、神の国バシレイアを滅ぼし、技術の街スタックタウンを勝利に導くことを誓おう」


 その姿は延びっぱなしの髪や細い体型からは想像できない気品に満ちていた挨拶だった。

 挨拶を終えたカニンチェンはふと、ある約束を思い出す。

 彼は身を返して馬車の荷台へと向かった。


「そうそう、脱獄のお礼に約束していた物を持ってきました」


 彼はそう言いながら荷台から大きな荷物を引っ張りだす。

 くぐもったうめき声と共に寝巻き姿の少女が降ろされる。


 腕は後ろ手に縛られて、目と口は覆い隠されていた。

 少女は引きずり落とされた痛みに苦しみながら恐怖に震えている。


 その光景にオットーの毛が逆立つ。

 自身よりも若く、なんの関係のない村娘をさらった男に激しい怒りを覚えたのだ。


 なぜ、こんな男と手を組む。


 なぜ、その子をさらう必要があった。


 今すぐにでも問いただしたい。しかし、声を荒げる訳にもいかず、彼女は沈黙を貫いた。

 贈り物にサイの後ろに立っていた博士は大いに喜びの声を上げなる。


「おぉ、なんと、素晴らしいことか! ありがとう、カニンチェン。これで私の研究も進めることができる。うむ、若く血色はいい。これならば……」


「頼まれたのだから、当然の事ですよ」


 少女の顔を掴みながら吟味する博士に対し、男は軽く微笑む。


「いや、こうしてはいられん! サイ殿すまないが私は先に帰らせてもらうよ。そこのお前たち、手を貸せ! この娘を連れて行くんだ!」


「え? は、博士! 例のモノはどうするんですか!」


 博士はサイの話も聞かず、ファイアナド騎士団の者を二人呼び寄せ、あっという間に贈り物の娘を連れて、どこかに行ってしまった。


 唖然とするサイにジモラは話を進めさせる。


「ッチャ、まあ、博士もこの街の人間だと言う事だ。ッチャ、ッチャお披露目ぐらいならお前でもできるだろ? サイ」


 サイはため息を吐く。だが、ジモラの言う通り、お披露目ぐらいならば、彼にもできる。

 彼は集まってくれたモノたちを前に声を張り上げた。


「今日みんなに集まってもらったのは見せたい物がある。僕について来てほしい」


 そう言いながらサイは歩き出した。続く様にマト率いるファイアナド騎士団、ジモラとディフィレア、街の人たちが続いていく。


 オットーはカニンチェンの横に出て来た。


 睨む様な視線を向けるが彼は気にしない。と言うより見えていない様に思えた。

 何も感じず、どこ吹く風とした様子に昔の仲間たちを思い浮かべる。


(カンに触るが……メアリーの姐さんの為だ……)


 自分に言い聞かせて、オットーは何も言わずに長い行列に続くのだった。

あやしいものじゃないよ、あやかしだよ。

どうも、あやかしの濫です。

何やら怪しい集会が行われているさなかに雑に放り出され、雑に連れてかれた子がいますね。

彼女のことを覚えていますか?

えぇ、レサトさんと仲良くしてた子です。

キャリー・ピジュンの冒険「街巡り ガラスのウマ工房 Lv.2」

楽しんでいただけると幸いです。


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