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街巡り パメラの占い小屋 Lv.1(九話)

 随分と話し込んでしまった。

 オリパスは人を待たせた結果、荷物を全て持たされ、今はパメラの占い小屋の前に立っている。


「それじゃあ、パメラおばさんまたね」


 髪を赤く染めた少女、ガーネットが暗い小屋で涼んでいる老婆に手を振った。

 ガーネットの隣にいる綺麗な金髪に黄色い瞳の少女キャリーも手を振って別れを告げる。


「また来まーす!」


 最後に彼女たちと共に来ていた白髪の青年は小さく頭を下げるだけだった。

 思っていた事を言ってもらえなかったのだろう。

 眉間に皺を寄せて、考え込んでいた。


「ヴァイス、そんな皺を寄せると隣の人みたいになるよ」


 キャリーが彼の服を引っ張りながら言う。


(なぜ俺なんだ……)


 よく分からないと首を傾げながらオリパスも別れの挨拶をする事にした。


「話を聞かせてくれて、ありがとう」


「なに、噂好きの年寄りが話したい事を話しただけさ」


 小さく笑いながらパメラはティーカップを掲げる。

 隣にいたパメラの弟子、チャロットはあまりいい顔をしていない。


(まだ、お腹が痛いのだろう)


 オリパスは言うか迷ったが声をかける事にした。


「お腹、お大事に」


 チャロットは何か口を開きかけるが何も言わず、黙りしてしまう。


「?」


 最後まで不思議な子だとオリパスは思った。


 覚えていないが彼女に何か話した事で、少しだけ周りが見える様になった気がする。

 オリパスを含めた四人は、ガーネットの時計店へと帰る事にした。


 帰り道は少し危険だが直線的に帰るため、手すりの無い少し広めの道を進んだ。

 下を見ると鉄屑を運ぶベルトコンベアーが見える。


(落とさない様にしなくては……)


 オリパスは荷物を持ち直す。


 相変わらず、先を進むのはキャリーであり、彼女を追う様にガーネットが小走り目について行く。

 不思議とその姿を過去の自分のメアリーに重ねてしまう様な気がした。しかし、自分はもっと追いつけたにいたのだと戒める。


 白髪の青年ヴァイスはぼんやりと少女たちの後を歩いていた。

 ヴァイスの背中を見ながらオリパスは疑いのまなざしをむける。


(いったいなぜ、彼がここにいるのか? 何かを企てているのか?)


 いいや違う。


 オリパスは首を振る。

 青年の右腕を見つめながら彼がいる理由を整理した。


(おそらく、腕の呪いで『運命の魔女』パメラを頼りに来たのは本当だろう。だが、いい結果は得られなかったみたいだ……)


 彼のうな垂れる背中を見ていると後ろめたさをひしひしと感じてしまう。

 目的を持って来た彼と違って、オリパスは迷いながらここへ来た。

 答えを求めていた。しかし、見つかるとは思ってもみなかったのだ。


 占わられた後、技術の街スタックタウンの技術者が食いつきそうな話を聞かせてもらうことができた。

 なんであれ、解決の糸口である。


 ここから南に降りていった場所にある南の国、もしくは食の国と呼ばれる豊かな場所だ。

 その国では食した物や量で恩恵を得られる。


 代わりに魔物や生物は強く、魔法では歯が立たないモノもいる話だ。

 パメラはそこでなら余りある道具が生きるはずだと教えてくれた。


 試すしかない。


(その為には……)


 オリパスは前を歩く少女を見つめる。

 綺麗な金髪に黄色い瞳、親友と楽しそうに話す少女がいた。


(俺は……俺はまた……)


 あの子に頼るのか?


 背後から無数の手が引き止めてくるのを感じる。

 体の中に鉛がある様に重く、考える事すら辛い。


(頼ってはダメだ。頼ってはいけない……)


 願う様に思う気持ちとは裏腹に、自身の無力さは一番自覚している。


 技術の国、スタックタウンから南の国までどれほどの距離があるか?


 たどり着く前に戦争が始まってしまうかもしれない。

 彼女ならその問題を心配せずに済む。


(キャリーに頼り続けるのか?)


 空虚な胸に無造作な塊が詰め込まれた様に痛む。

 メアリーと最後に過ごした夜が脳裏に浮かぶ。

 オリパスはただ、彼女の後を追うことしか出来なかった。


 今も変わらない。


 変えられない。


 なら、何もしないのか?


 終わりのない葛藤に呑まれつつあった。


 深い闇に沈んでいく。


 沈んでいく思考の中で誰かの声が響く。


 "弱い癖に余計なこと気にしちゃって。いつか、恩返しできるように、今は助けて貰えばいいでしょう"


 オリパスは思わず後ろを振り返った。しかし、そこには誰もいない。


「……」


 それでも誰の声かは思い出せた。

 魔法使い見習いの少女チャロットだ。

 脇腹を抑えながら言った言葉にオリパスは小さく頷く。


(あぁ……今はまだ頼るしかない。何もできず終わるのだけは、ダメなのだ)


 後ろめたさと惨めな劣等感を抱えながら前を見る。

 視線の先にはずんずんと先へ進んでしまったキャリーが見えた。


 朝露の中、巻き込まない様、置いていこうと思ったあの日、ついて行くと彼女は言った。

 その目には迷いなどない。


 キャリーを見ながらオリパスは胸をキツく握りしめる。


「いつか、お前に返させてくれ」


(その為にも止めなくちゃ、いけないんだ!)


 両手に抱える荷物を持ち直しながら、再び歩き始めるのだった。

 その時、大きな爆発音が起きる。


「!」


 突然の事に四人は足を止めてしまった。

 辺りはグラグラ、ガタガタと揺れ動く。


「どこかで爆発したのね」


 武器を作る中で火薬を使う場所も多く、原因は想像できる。

 すぐに揺れが収まると思っていたが止まらずにいた。

 空からネジが落ちて来くる。


(まずい!)


 気づいたのも束の間、鉄骨がガーネットの真上に落ちてきた。

 オリパスは慌てて駆け寄ろうとした。


(ダメだ、間に合わない!)


 早く走れない彼は歯を食いしばる。だが、彼女を助けようとするのはオリパスだけではない。

 キャリーは祝福の力を使い、雷を纏った。


 一瞬のうちに安全な元来た道へとガーネットとヴァイスを擦れて行く。

 オリパスが気づいた時には三人は後ろに立っていた。


 流石の動きに安堵の息が漏れる。


 この速さがあれば、危険とは無縁なのだろう。

 一瞬の出来事に冷や汗をかいたガーネットは思わず膝から崩れ落ちる。

 不運の引き金になるとも知らず。


 彼女たちが歩いていだ場所には危険を防止する手すりがない細い足場だ。

 崩れ落ちるガーネットを支えるものは、何もなかった。


「あぁ! 落ちちゃう」


 キャリーは慌ててガーネットの手を掴む。

 ぐるりと周り彼女と位置を入れ替えた。

 ガーネットは側にいたヴァイスの腕に抱かれ無事である。しかし、キャリーは自分の事を忘れていた。


「キャリー!」


 ガーネットの叫び声、キャリーは真っ逆さまに折り重なる街の下へと落ちていってしまう。

 

 

 木陰から差し込む様に建物の隙間からこぼれ落ちる光。

 ズキズキと痛む背中にうなされながら、キャリーは目を覚ます。


「ここは……」


 ぼんやりと目を開くと何層にも折り重なる鉄骨や歯車の天井が見えた。

 自分が落っこちたのは覚えている。しかし、到底、あそこから落ちて来たとは思えない。

 少し離れたところでベルトコンベアーから鉄屑が落ちているのが見える。


「あそこから来たのかも……でも、登れない」


 壁を伝って走ることは出来るが、逆さまに走れない。

 キャリーは諦めて違う道を探す事にした。


 瓦礫の山を越えて行くと通路にたどり着く。

 狭い通りを抜けて道を探していると分かれ道に抜けて出た。


 そこで会いたくない男に再会してしまう。


「あり得ない、いや、君も脱獄して来たのかな?」


 カラッとした声で、せせら笑う様に男は言う。


 声の方に顔を向けるとキャリーは思わず目を見開いた。

 そこには長い白髪に枯れ木の様に細長い手足。

 手には腕と同じ長さぐらいの棒状の何かを包んだ布を握りしめている。


 首を傾げて見下ろすのは刑務所に収監されているはずの男、カニンチェンだった。


「どうして、お前が……?」


「いいや、違う。どうして、君がここにいるんだい? だ」


 クスリと微笑みながらキャリーを指差した。

あやしいものじゃないよ、あやかしだよ。

どうも、あやかしの濫です。

スタックタウンは足場が悪い上にみんな好き放題、物作りをしています。

爆発なんて日常茶飯事なんでしょう。

カニンチェン・ノイマン、不思議と彼の名前を口ずさんでみたくなるんですよね。

次回、エピロール、最後までご視聴よろしくお願いします。

「キャリー・ピジュンの冒険」を面白い、興味を持ったという方は、

是非、ブックマーク、高評価をよろしくお願いします。


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