街巡り パメラの占い小屋 Lv.1(七話)
暗くひんやりとした部屋で『運命の魔女』パメラは、ゆったりとお茶を啜る。
彼女は飲んだ物を吟味してから口を開く。
「なかなか、美味しいじゃないか。それで、魔法素材の他に何か用があるんだろ?」
チラリと隣に座る髪を赤く染めた少女ガーネットを暗闇に怪しい黄緑色を灯した瞳で見る。
ガーネットはこくりと頷いて、視線を左に座っている白髪の青年ヴァイスの方に向けた。
視線を向けられたヴァイスはペコリと座ったまま頭を下げる。
「『運命の魔女』の名を持つ、パメラ・モイラ・スレッド様に頼みがあります」
彼は普段からよく使う砕けた口調ではなく、固く改まった敬語で言う。
「先に見てもらってからの方が早いでしょう」
ヴァイスはそう言いながら机の上に右腕を置いた。
包帯がグルグルに巻かれている。
彼はゆっくりと解いていった。
そこには雷に打たれた様な傷がある。
そばで見ていたキャリーには、見覚えがあった。しかし、何故そこにあるのか分からない。
彼女は黙って見守る。
ヴァイスは嫌悪を示す様に傷を睨みながら話す。
「この傷はある人物を殺した後に、突然、現れました」
拳を強く握りながらこの右腕に宿った呪いについて語った。
「物に触れれば粉々に砕き、仲間を傷つけてしまう。毎晩、嵐が吹き荒れる様に頭の中で悲鳴が聞こえます。気を抜けば、きっと、狂気に囚われ正気ではいられません」
ヴァイスは助けを求める様に顔を上げてパメラの方に向ける。
彼女はマジマジと腕を見つめていた。
「ん〜これは呪いに等しい祝福の力だね」
「祝福の力! これがですか?」
ヴァイスは声を荒げる。
祝福の力は個人によって様々変わるが、授かった者に恩恵を与えると言い伝えられていた。
特に神の国では授かるものが多く、教会でも初めに教わるものだ。
しかし、ヴァイスの手に宿った物はあまりにも祝福の力とはかけ離れている。
他者を傷つけ、
自分を狂わせる。
あの、あの嵐は……
(こんなのはまるで……)
"あの女の様じゃないか!"
思い詰める顔をするヴァイスにパメラは何も聞くことはなかった。
ある程度、知っていたからだ。
知ってなお、話す必要はないと思った。
これは受け取り方の問題なのだと。
「祝福の力は特別だからね。弱めることが出来ても、無くす事はできないだ」
「なら、せめてどうしたらいい⁉︎」
縋るような思い出で彼は尋ねる。
パメラはお茶を啜りながら軽く言う。
「慣らすしかないだろうね。まぁ、重く考えず右手がもう一本増えたと思って、器用に生きな」
パメラはそう言うと再びお茶を啜った。
「うん、美味しいね。あんたが入れたんだろ?」
しばらく黙っていたオリパスに聞く。
オリパスは少し意外な顔をして頷いた。
「たまには違う人に入れてもらうのも悪くないね……気に入った! あんたを占ってやろうじゃないか」
ニヤリとパメラは笑みを浮かべて言う。
興味が逸れてしまった老婆にガーネットは慌てて立ち上がる。
「ちょっと、ヴァイスの腕は? もう、終わりなの」
彼女の問いかけにパメラはこくりと頷いた。
「あぁ、そうだよ。私は占い師であって医者でも、呪解師でもないんだ。それに」
パメラは見透かすような眼差しでヴァイスを見る。
「色々と抱えているもんがあるんだろ? 祝福の力を消すかどうかは、全部終わってから考えてみる事をすすめるよ」
彼女は暗闇の中、淡く光る黄緑色の瞳で青年を諭す。
ヴァイスは黙って考え込んでいた。
『運命の魔女』パメラは焦る事なく、話を進める。
「それで、オリパス。私に占わせてくれるかい?」
片眉を釣り上げながら聞く。
尋ねられたオリパスは返事に困った。
こんな所で道草を食っていいものか?
遊ぶなんて許されるのか?
彼の脳裏には蠢く感情があった。
(いいや、そんな訳ない……俺はなんとしても、見つけなくちゃいけないんだ)
交渉の糸口とスタックタウンが戦争を止める理由を見つけなくちゃいけない。
席を立つと決めた。次の瞬間、綺麗な金髪に黄色い瞳の少女が目を輝かせて、前のめりにパメラに尋ねる。
「ねぇ! 占いってどんな風にやるの?」
パメラは微笑んだ。
「おや、うちはなんの変哲もないタロットカードだよ。興味があるかい?」
キャリーはうんと頷く。
老婆は両手を広げて言った。
「嬉しいね。でも、残念。占ってやる奴が嫌がるんだ。あぁ、この『運命の魔女』が誘ってると言うのに話を断るなんてよっぽど時間に余裕がないんだろうね〜あぁ、可哀想に〜」
チラリとオリパスを見る。
キャリーも釣られてキラキラと星のように輝く瞳でオリパスを見つめた。
そこまで視線を集められたら逃げられない。
オリパスは何も言えずに黙って頷く。
「よし、そう来なくっちゃ」
『運命の魔女』パメラ・モイラ・スレッドは不敵な笑みを浮かべる。
老婆のお遊びに巻き込まれた、彼らの様子を黙って見ることにしたガーネットは静かにお茶を啜った。
(あの人の占いはほぼ当たる。あんなにやる気なのは珍しい……この紅茶、飲みやすくていわね)
コーヒー派のガーネットでも、紅茶の味に目覚めかける美味しさだった。
あやしいものじゃないよ、あやかしだよ。
どうも、あやかしの濫です。
キャラクターたちの好みは世界観の広がり、飲み物でも好みが分かれるとウキウキしますよね。
『運命の魔女』は紅茶派で気分屋ですね。
自身の住む街とよそ者を天秤にかけたら、興味しかない街の人間にしました。
どんまい、ヴァイス。君が日の目を見るのはもう少し先になりそうだ。
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