射影機とドラゴンと雨宿り Lv.3(六話)
降り始めた雨はざーざーと音を立て、国や、街に、そして、丘の上の木に降り注いだ。
走り出したキャリーはバシレイアの城壁を越えて、北北西の森を目指して高速で道を駆け抜けていた。
足が速いキャリーは他の人よりも雨に当たらずにすり抜ける様に走れている。と思う人は多いだろうが、実際は違う。むしろ、他の誰よりもこの今、降り注いでいる雨を浴びているのだ。
早く走れば、その分、前に進む。そうすると少し前に降った雨が地面につく前に当たってしまうのだ。
雨はキャリーに激しく当たり、容赦なく体を冷やす。
服と靴は雨水を吸って鉛のように重く。
綺麗なキャリーの金髪は短いものの、雨に濡れて、彼女の視界を奪う邪魔者となっていた。
街を歩く者は、どこかの服屋で雨宿りをするだろう。
旅をする者だとしても、急ぎでもなければ、どこか雨を凌げる所で雨宿りするのだ。
キャリーはと言うと、どこかで雨宿りする気もないし、急ぐ程の理由もない。ただ、がむしゃらに走って全てを忘れ去りたいと願うだけだった。
何も出来なかった自分に、
許せない仲間に対する憎しに、
そして、あの人の拒絶を……
逃げる様に、しがらみを振り払う様に、走っていると、道の先に黒い雲に赤い稲光が見え隠れする人影が見えた。
彼女はそれが幻覚なのだとすぐに分かった。
分かっていたが、乗り越えられない恐ろしい存在だった。
キャリーは咄嗟に道を変え、森の中へと逃げ込む。
幻覚の人影は風に揺らぎ纏った、黒雲が揺らぐが決して中の姿が見える事はなかった。
ゆっくりと顔を森の中へ逃げ込んだキャリーに向ける。
逃げるキャリーにはそれが狩人の弓矢で狙われている様に、背中を射抜かれる様な殺気を感じてしまう。
キャリーには、恐ろしくて堪らない。
彼女はあの日以降、ずっと平然を保とうとしていた。自分なら出来る。そう思っていた。しかし、それももう限界だった。
「ーーーー!!」
今まで為したことのない叫び声を上げる。
キャリーは無我夢中で逃げ続けた。だけど、恐怖だけはずっと背中に張り付いて振り払うことができない。
「いやだ! いやだ! 来ないで!」
彼女は泣きじゃくりながら見えない恐怖に怯えて森の中を駆け回る。その時、ガクンと木の根に彼女は足を引っ掛けてしまった。
キャリーの頭には祝祭の日、路地裏での出来事が頭をよぎる。
あの時の死人の様に白く痩せ細った男を思い出した。ニヤチャニチャと不気味に笑いながらキャリーを見下ろすあの男がいた。
一瞬、音がなくなった、かと思うとキャリーは今まで走っていたそのままの勢いで転げていった。そして、運悪く、その先にあった、傾斜をゴロゴロと転がりながら落ちていく。
下まで落ちてしまったキャリーはあの日、あの男にされた、暴力の恐怖が稲光の様に頭の中でフラッシュバックする。痛みだけが頭を支配していった。
「ごめんなさい、ごめんなさい! いや! やめて、やめて!」
彼女はうずくまり許しをこいた。しかし、その声は雨の中に消えていく。
男に足を踏まれた痛みが、うずくまってもやってくる。
突然、頭がズキズキと痛む、キャリーは頭を抱えて悶え苦しむ。
鮮明に蘇ってくる逃げられない恐怖を、頭を掴まれ壁に叩きつけられた痛みが、逃げようともがく足が、シスターに治してもらったのに、痛みだけが何度も何度も繰り返される。
悪夢が終わらない。
「ごめんなさい、ごめんなさい……」
キャリーは謝り続けた、あの男に、彼女に、そして、神様にー
彼女は謝りながらも、この恐ろしい悪夢から抜け出したいと願ってしまった。
助けて…………
助けて……助けて……
助けて、助けて、助けて!
誰か!
「助けて……」
キャリーがそう願いを零した瞬間、恐る彼女はぐったりと死んでしまった。
ずっと前から森に入って来た彼女を見ているものがいる。
彼は雨音だけが響き渡る森の中で、キャリーにゆっくりと近づく。そして、そっとしゃがみ込み彼女の顔を覗く。
その顔はとても幼く弱々しく、恐怖に怯えて涙の跡があった。濡れた唇が微かに震えていた。
あやしいものじゃないよ、あやかしだよ。
どうも、あやかしの濫です。
走り出した、キャリーは、不安にも雨に見舞われてしまいましたね。
小学生の時に、よく、高速で動けたら雨に濡れないと思ってました。だけど、多分、逆なんだと思います。
自転車で雨の中走った時、歩きよりもびしょ濡れになったことがあったので、そう思いました。音速になったら、風圧でならなくすみますかね?
あと、発狂する子を見るとなんか、くすぐられる物がありますよね? ね?
でも、申し訳ない気持ちいっぱいで書いてたんですよ。
本当です。胡散臭さぷんぷんですね。
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