Game fo tog Lv.3(十一話)
どれだけ気を失っていたのだろうか?
キャリーが意識を取り戻すとゾロゾロと立ち去る若者たちが見えた。
「気がついたか?」
兜を被ったルークが声をかける。
キャリーはこくりと頷いた。
「歩けるか?」
心配する彼にキャリーは笑顔を見せて頷く。
「うん!」
下ろしてもらうと誰かの笑う声が聞こえる。
嘲笑う様な、嘆く様な、どちらとも言えない不気味な笑い声。
声の方を見ると、だらしなくズボンからシャツをはみ出し、無駄なベルトの飾りがついたコートを羽織いる。
左耳には銅色の大きなリングを付けて、反対側の髪を掻き上げているが、いくつか跳ねた頭をした男がお腹を抱えて笑っていた。
「きみの悪い男だ……」
顔は見えないが睨みつける様にルークは言う。しかし、そんな事どうでもよかった。
キャリーはゆっくりと歩き出す。
次第に早く。
オリパスの横を通過していった。
祝福の力を使わなくてもすぐにたどり着く。
キャリーは目を輝かせて叫んだ。
「タッチ!」
その場にいた誰もが目を丸くする。
何をしているのか分からないのだ。
ジモラは笑うのを辞め、キャリーを見下ろす。
彼女は誇らしげに見上げていた。やがて、何の事か思い出した彼は頭を抱えて、天を見上げる。
「ハハハ、これは参ったな。俺とした事が、すっかり忘れていた」
何の話か、忘れてしまったオリパスにキャリーは目を輝かせて話す。
「王様を認める署名所!」
「あっ!」
ポカンと口を開けて思い出す。
ジモラがスタックタウンの人々に書かせた署名書のことだ。
途中の暗殺者で忘れていた。
ジモラは嬉しそうにしゃがみ込み、キャリーと話す。
「すっかり油断しちまった。やるな、キャリー。だが、お前が頑張る必要はないだろ?」
首を傾げるジモラ。
関係ない彼女がなぜ、そうまで関わろうとするのか分からなかった。
キャリーは胸を張って答える。
「メア姉が、平和を望んだから。あたしはその為に頑張る」
黄色い瞳は真っ直ぐに前を見ていた。
彼女からはホットミルクに蜂蜜を入れた様な甘ったるい物を感じる。が暖かった。
思いを感じたジモラは難しい顔を一瞬浮かべる。
「……」
黙っている相手に胸が熱くなり、恥ずかしさを覚える。
そんなキャリーにジモラは不安を煽ぐ。
「これで命を狙われる様になったな」
ニンマリと嬉しそうだった。
キャリーは目を見開き石の様に固まってしまう。
オリパスはため息をついて否定した。
「そんな事にはさせない。だが、危険なものには変わりない……」
彼の言葉にルークが口を挟む。
「この子は、俺が守る。お前は自分の事をしろ」
胸を張るルークに頼もしく思う。
出来立てのパンのように明るくはしゃぐ元気なキャリーの横で、難しい顔を浮かべるオリパス。
オリパスの迷いのフルーティさにジモラは気になる事を尋ねる。
「そもそも、お前たちはどうやって戦争を止める気だ?」
立ち上がり二人を交互に見る。
「黒幕を見つけて倒すのか? だが、そんな奴はいない」
「技術者たちを止める」
オリパスは言うが、ジモラは嘲笑い否定した。
「それこそ、火に油さ、逆光に立ち向かおうと戦うだろ? 余計奴らの好き放題になる」
「なら、どうすればいいの?」
眉首を傾げるキャリーにジモラはニヤリと答える。
「目標を与えるのさ」
「目標?」
繰り返す様に呟くキャリーにジモラは頷く。
「あぁ、奴らは自らの技術を活かせる場所を必要とする。なら、用意してやればいいのさ」
「その口ぶりだと何か案がある様だな」
外野にいたルークが口を挟む。
外野でも大歓迎と指を刺しながら頷く。
「そうとも! 南の国に技術を送るのさ。そうすれば、技術者の仕事ができるし」
彼の言葉にオリパスは目を見開く。
「しがらみもなく、食料のパイプラインが確保できるわけか」
荒れた土地であるスタックタウンでは食料の自給自足が厳しい。しかし、食の国とも言える南の国と関係を気付ければ、問題は改善されていくのだ。
おまけに神の国でも、霧の国でもない為因縁もない。
「その通り!」
小刻みに足踏みをして喜ぶジモラ。
「国は豊かになり、みんなハッピーで退屈しない」
「でも、具体的に何をするの?」
先の見えない話しにキャリーが尋ねる。
ジモラは微笑みながら答えた。
「そ、れ、は、君たちで用意してくれ。俺はその間に技術者のリストをまとめておくからさ、それと説得用にお金を集めておいてくれ」
彼はそう言って離れていく。
「待って! 王様の署名所!」
キャリーは、慌てて叫ぶと彼は大丈夫と答えた。
「これはまだしばらく預かっとくぜ。三日後、準備ができたら展望台の喫茶店で落ち合おう。その時にちゃんと君に渡すさ」
彼はそう言いながら足早に去っていく。
気づいた時にはもう見失っていた。
「行っちまったな」
頭を掻くルークに、キャリーは寂しく頷く。
(せっかく頑張ったのに……)
オリパスはどっと疲れた様にへたり込んだ。
「あんな奴はさっさと離れてくれた方がいい」
真っ直ぐと遠くを見つめる。
「俺たちは三日後までに金と目的を集めなきゃいけないんだ」
彼は言い終わるとぐったりと倒れてしまう。
ジモラを追いかけてって疲れてしまった。
急に倒れて、心配になりキャリーは顔を覗き込む。
オリパスは気を失って寝ているだけだった。
真似してキャリーも寝っ転がる。
技術の街スタックタウンを止められるか、まだ分からないが、オリパスの寝顔と今日やった事を考えると、いい気持ちで胸がいっぱいになるのだった。
キャリーたちと別れたジモラは、親友のサイと話した大きな階段に向かう。しかし、そこには誰もいなかった。
「……」
ジモラは一瞬、凍りつく様な虚しさを感じる。
「彼女の無念を晴らさなくちゃいけない。まずは憎き神の国バシレイアを滅ぼすんだ!」
サイの話を思い出す。
彼は本気で仇を取ろうとしていた。
それは実に面白い事なのだが、順調そうでつまらない。だから、離れたのだ。
今日、オリパスやキャリーと関わりジモラは確信する。
彼らがこの街の隠し味になる事を。
それは、食事を楽しむ上で大事な事だった。
食べ慣れてしまうと、食事はただの作業に変わる。
不変なことを忌み嫌うジモラに取って順調は退屈を招く味なのだ。
彼らはそれを崩してくれる。
言わば、味変というやつだった。
「〜♪〜〜♪」
これからの事を考えると鼻歌を歌いたくなる。
階段を降りながら、ジモラは踊り出した。
退屈を蹴飛ばし、正しさと言う鎖も蹴飛ばす。
全てを踏み躙る様に降りていく。
この街で信用も期待もされない男は、ただ、自由に国の行末に期待しながら、食した感情を堪能していた。
ふと、昔食べた味を思い出す。
——この国を頼んだ——
甘く暖かい、優しい期待の味。
胸にトンと重いものが乗っかる。
(あれはすごく好きな味だったな……)
ジモラはぼんやりと夕暮れに染まる空を見ながら、二度と食べられない事を思い出す。
また、食べたいと思ってしまった。
(食べなければよかった……)
ひもじい思いにジモラはお腹を抑える。
彼は目を背ける様に大きな階段を後にするのだった。
あやしいものじゃないよ、あやかしだよ。
どうも、あやかしの濫です。
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よろしければ、足を運んで回答してくださると嬉しいです。
ジモラのモデルには二人いて、名前と性格で名前は好きな本から取りました。
そして、性格はDCコミック「バットマン」のジョーカーです。
今回の階段を下りるシーンは映画「ジョーカー」の名シーンをオマージュしました。
次回、キャリー・ピジュンの冒険「Game fo tog Lv.3」最終回
最後までお楽しみください!
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