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Game fo tog Lv.3(十話)

「ナイスヒットー!」


 スナイパーに狙われていたジモラがガッツポーズを見せる。

 視線の先にはマントを纏った少女と彼女のお腹に激突したキャリーが落ちてくるところだった。


「喜んでる場合か!」


 ジモラの横を走りながらオリパスは怒鳴る。

 彼は急いで落ちてくる少女を抱えた。だが、両手が塞がり、キャリーに手が届かない。


(ちくしょう!)


 彼女は手すりの隙間を抜けて、真っ逆さまに下へ落ちていく。


「危ない!」


 間一髪、下にいた人が助けてくれた。

 少女を引き上げたオリパスが下を覗き込む。


 そこには白髪に右腕を包帯で巻いた溌剌とした青年がキャリーの足を掴んでいた。

 彼の顔を見た瞬間、オリパスは唖然とする。


「おや〜知り合いかな」


 そんな様子を隣で見ていたジモラは、ニヤリと笑う。


「そこの兄ちゃんありがとう。上まで放り投げてくれないか?」


「そんな事はしない。お前らの知り合いか?」


 キャリーを抱き抱えながら聞き返す青年にオリパスは答えられずにいた。


 彼がなぜここに?


 ただ一つの疑問で今は頭がいっぱいだ。


「キャリー!」


 そこに後を追ってきたルークたちが駆けつける。

 ルークもまた目を疑った。


 振り返り青年は、兜を被ったルークに気づく。

 ハッと目を輝かせて彼は嬉しそうに挨拶をする。


「お久しぶりです。ルークさん」


 平然と微笑む彼にルークは震える声で呟く。


「ヴァイス……どうして、お前がここに?」


 浮かぶ疑問に彼はどこか申し訳なさそうにしながら、抱えた少女をルークに引き渡す。


「後ほど、話しましょう」


 彼はあっという間に立ち去っていった。



 

 ルークと若者たちは階段を登り、オリパスとジモラの元に登ってきた。

 長い橋で下を覗くと先程の通路とさらに下に市場が広がっている。

 オリパスはルークの元に近づき、彼の腕に抱かれる黄色い少女キャリーの顔を覗き込んだ。


 ぐったりと気を失っているが、顔色もよく、呼吸もしていた。

 安堵のため息を微かに漏らす。しかし、何も言わず向きを変える。


「いや〜スースーした。酒場のミントソーダを飲んだ時の様に清々しいね」


 複雑な顔を浮かべるオリパスと違い。ジモラは愉快な気持ちにステップを踏んでいる。

 彼はポケットから返しの付いた紐を取り出す。


 そのまま、気を失っている少女の手を縛った。

 まだ、ぐったりとしている彼女を揺さぶり起こす。


「おい、おい、起きろ。起きろよ! あぁ、起きたな。お前には聞きたいことがあるんだ」


 意識を取り戻した少女は、目の前のジモラに驚き体を捻って逃げようとする。だが、腕をしっかりと捕まれて逃げられない。


 自分の置かれた状況に気づき顔を青くする。


「誰の差金だ? いや、分かるぜッチャ。サイか? いや、アイツなら直接ヤリに来るはずだ。ディファレアだな。まぁ、当然だよな。鬱陶しそうにしていたし」


 ジモラは肩をすくめながら、不気味な笑みを浮かべる。

 低くゆったりと笑い出した。


 先程まで騒がしくしていた彼の静けさは、周囲にいた者を凍りつかせる。

 怖くて様子を見ることしか出来なかった。


 突然、コートに隠していたナイフを取り出す。

 暗殺を企てた少女の首元に撫でる様に当てた。


「他に誰がいる? もう一人ぐらいいるだろ? あいつには場所を言ってない。俺はお前の顔なんて知らない。尾行するにも誰か頼ったろ?」


 鋭い刃先と目の前の狂人に、怯えた彼女は助けを求めるようにオリパスたちの方を見る。

 ジモラはそれを許さない。


「こっちを見ろ。なぁ、こっちを見るんだ」


「ジモラ、いい加減にしろ」


 彼の尋問を見ていられなかったオリパスは口を挟む。


「その子をこれ以上怖がらせる必要はない。お前なら気づいてるだろ?」


「あぁ、舌が蕩けそうな恐怖の食感と絶望的な期待の甘酸っぱさを感じる」


 目を見開きながらオリパスたちの方を見る。


「俺を殺そうとしたんだ。黙って見過ごすほど可愛い心じゃないんでね。何せ王様だからなッチャ、威厳ぐらい持たなくっちゃぁ」


 舌なめずりをしながらジモラは話す。


「この中に裏切り者がいるのは確かだ」


 彼の言葉に捕まった少女の目が見開く。

 彼女は激しく首を振る。

 暴れる暗殺者を抑えながらジモラはニタニタと笑いながら忠告した。


「今、名乗り上げてくれれば、二人とも牢屋行きで許してやる。どうだ! 出て来る気になったか? あぁ!」


 彼の問いかけに答える者は誰もいない。

 静まり返る周囲にふと、ジモラは思いつく。

 突然立ち上がり、少女を引っ張りながら橋の端へ向かった。


「手品は好きか? 前に酒場で教わったんだ」


 ちょうど、放置された大きな布を引っ張る。

 ジモラは逃げられない様にナイフを突き立てながら、橋のぎりぎりに少女を立たせた。


「今から彼女を消す」


 彼はそう言うと手にした布を広げ、自分と少女を見えなくする。しかし、太陽の光に照らされて、二人の影がくっきりと見えた。


 一旦、布をどかして、彼女がまだ生きている事を周囲に見せびらかす。


 含み笑いをしながらカウントダウンを始めた。


「三、二、一」


 ジモラはもう一度布を広げ、自分たちを覆い隠す。


 シルエットとなった彼はすぐに布を手放した。

 同時に少女を蹴飛ばす。


 ドサッと音と共に甲高い悲鳴が橋の上に響き渡る。


 布が落ち切った時にはジモラは晴れやかな笑顔で、誰もいない空間を見せびらかしていた。


「タダーン!」


 彼の茶番を見ていた誰もが唖然となる。


 次に様々な感情で顔をこわばらせていく。 嫌悪を表す者や、王となる男に絶望する者、暗殺者に同情し悲しむ者と様々な感情が浮かび上がる。


 ジモラは大きく息を吸い込んだ。

 豪勢な食事の準備が整い、料理の香りを堪能する。

 心の底から高笑いを浮かべた。


「HaHaHa、最高だね! こんなに腹が満たされるのは久しぶりだ」


「満たされる?」


 ジト目の女性が訝しむ。


 ジモラは頷いて答えた。


「あぁ、そうだ、俺は感情を食す程度の祝福の力がある。喜び、怒り、悲しみ、絶望、希望と人の強い思いが現れた時、それを食うことができるんだ」


 皆の感情の味に酔いながら話を続ける。


「中でも美味なのが強い怒り。ッチャッチャ刺激的で全身が震える程癖になる」


 ギロリと鋭い視線が向けられる。


「その怒りが今、俺に向けられているな。分かる、分かるぜ」


 彼はジワジワと歩み寄り一人の青年の前に立った。


「なぁ? お前だろ?」


 目の前に立たれた青年の顔から血の気が引き、青白くなっていく。

 ジモラは彼の様子にすでに堪能しており、気にも止めず持ち物を物色する。


「あの女とは、どう言う関係だ? 恋仲か? 名前はなんて言うんだ? どうして、さっき名乗り上げなかった」


 あれこれ聞くが彼は怯えて答えない。

 ジモラは呆れて話を変えた。


「一つ、気になる事があるんだが」


 そう言いながらオリパスの方を振り返った。


「なんで、お前まで怒るんだ?」


「当然だ。殺す必要性なんてなかった」


 睨みをきかせる彼にジモラは指を振って否定した。


「いいや、あるね。俺は殺されそうになったんだ。やり返す権利がある。それに俺はまだあいつを殺しちゃいない」


「本当ですか!」


 怯えていた青年が目を輝かせる。

 ジモラはニッと微笑み頷いた。


「あぁ、すぐ下で倒れて寝ているよ」


 彼の言葉を信じた青年は駆け出した。


 急いで橋の下を覗く。しかし、一番低い所まで取っ掛かりはなく誰もいなかった。


 次の瞬間、背中に強い衝撃を受ける。


 ジモラがまた、蹴飛ばしたのだ。

 青年は恐怖に顔を歪ませ、声をあげて落ちていく。


 ジモラは肩をすくめて言う。


「俺は、嘘は言っちゃいないぜ」


 彼の横暴で暴力的な態度にジト目の女性が大きくため息を吐く。


「はぁ……占いの婆に言われてきたけど、やっぱり無理。こんな奴に構ってられない。みんな、こんな奴に国を任せる気?」


 彼女の問いかけに頷く若者たち。

 ジト目の女性はジモラを睨む。


「ウチらはウチらでこの国を引っ張っていく」


 吐き捨てる様に言って、彼女は立ち去る。

 続く様に若者たちも次々と解散していった。

 やがて残ったのは、オリパスたちだけだ。


 一気に人が引いた橋には風が吹く。


 ジモラはようやくいなくなった若者たちに思わず、お腹を抱えて笑い出してしまった。


「何がおかしい?」


 オリパスの言葉に首を降りながら答える。


「いや、マットボーイと言われるこの俺に半信半疑でついてきて挙げ句の果てに結局、自分たちで頑張るとよ。初めっからそうしてればいいよかったものを、ムフフ……HaHaHa!」


 彼の笑いは、世界を嘲笑い、面白がる様で、どこか泣く様に不気味で、悍ましく見えた。


 こんな奴に構っていてもどうしようもない、と思ったオリパスは立ち去るかと思い立ったその時、背後から一人の少女が飛び出すのに気づく。


 綺麗な金髪に黄色い瞳の少女、キャリー・ピジュンだ。


「タッチ!」

イカてやがる……

ジモラの祝福の力は、昔に書いていた小説に出てくる相棒の能力なんですよ。

その時は味覚だけで食えやしませんでしたが、

そいつも常にヒャッハーしてましたね。


「キャリー・ピジュンの冒険」を面白い、興味を持ったという方は、

是非、ブックマーク、高評価をよろしくお願いします。


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