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Game fo tog Lv.3(四話)

「彼女こそ、今の世界には必要だったんだ!」


 スタックタウン最大最長の大きな階段の前で、青年は両手を広げて叫んだ。

 若く溌剌とした彼の名はサイ。


 英雄を愛する男だ。


 力強く拳を握りこの街の英雄メアリー・ホルスの素晴らしさを語る。


「腐敗しきったバシレイアから僕たちを解放して道を示してくれた。メアリー・ホルスの様な完璧で究極の存在はいない。誰一人寄せ付けない気迫に、全てを切り裂く祝福の力! 常人ではない彼女がいてこそ技術の街スタックタウンがここまで来られたんだ!」


 饒舌に語る彼の心からは、香ばしくそそるジューシーな情熱が漂う。

 恋する乙女の様に笑みを浮かべていた。


 紅い髪に凛々しい顔立ちのメアリーを空に写す。だが、現実に起きている事を思い出し、すぐに心は冷たくなり、下を向いてしまう。


「サイ、気をしっかり」


 階段に腰を下ろしていた黒髪のロングヘヤーの少女は立ち上がり、ズボンに巻き付いたスカートの埃すら気にせず、サイの背中をさする。


「あぁ、そうだな」


 悲しげな顔を浮かべるサイを映すのは黒紫に輝く瞳だった。

 彼女からは哀れみを感じさせる冷たく広がる甘み。わずかにピリッと舌を痺れさせる嫉妬が感じ取れた。


「ディフィ、ありがとう」


 感謝を伸べる彼に彼女は他の人には見せない微笑みを浮かべる。

 ポーカーフェイスが張り付いたディフィレアの顔のしたからは、中々に複雑で美味な感情が感じ取れた。


 腕を頭で組みながら二人を眺め、舌なめずりをする男が一人。

 彼らを見ていると腹が膨れる。


「だが、彼女は死んだ。バシレイアで処刑されちまった」


 ニタニタと笑いながら言う。


 だらしなくズボンからシャツをはみ出し、無駄なベルトの飾りがついたコートを羽織った男。

 左耳には銅色の大きなリングを付けて、反対側の髪を掻き上げているが、いくつか跳ねて戻っている。

 ギロリとした目は、常に愉快な食事を待ち望み輝いていた。


「ジモラ……」


 肩を落としながらサイは、親友の方を見る。

 この街一番のマットボーイである彼はサイの隣を通り過ぎ、階段を二段飛ばしに登った。


「メアリーがどんな風に処刑されたか知っているか? ッチャ、サーカスの見せ物の様にスパッとやられたらしいぜ! ふざけているよなぁ」


「あぁ、その通りだ! ふざけている。僕たちの希望である彼女を、許せない」


 サイは拳を強く握る。


「まさか、一番そばにいたあの男が裏切るなんて……」


 副団長オリパスの名前がサイの頭をよぎる。


「以前、ここに戻って来たそうだが、彼はこの街を我が物としようと考えているらしい」


 煮え繰り返りそうな話だ。


「信じられるか? 無理だね。僕は絶対、認めない。何もかもが間違っている。あんな奴をそばに置いていた彼女が可哀想だ!」


 彼の熱い思いにジモラは階段から飛び降りて近づく。ディフィレアも小さく頷いた。


「あぁ、そうだな、彼女は可哀想だ」


 手を広げ同感するジモラの横をすれ違い、サイは階段に飛び乗った。


「ディフィ、ジモラ、聞いてくれ!」


 改まった様子で二人に語りかける。


「僕は彼女の意志を注ぐよ。メアリー・ホルスの様な強さはなくても、力強くここ、技術の街スタックタウンを大きくする」


「ええ、素晴らしいわ」


 胸に手を当てて心からしっとりとした甘い尊敬を見せるディフィレア。


「その為には彼女の無念を晴らさなくちゃいけない。まずは憎き神の国バシレイアを滅ぼすんだ!」


 彼は新たな希望となるため、大きな階段の前で宣言した。

 この街を引っ張るのだと、その為には仲間が必要だと彼は続ける。


「ファイアナド騎士団のオットーとマトさんには話してある。二人とも力を貸してくれた。ディフィもジモラも僕に力を貸してくれ」


 溌剌とした眼差しで二人を見つめる。

 ディフィレアはすでに決まっていると彼の腕を取って頷いた。


「えぇ、あなたの為なら何だってしてみせる」


 彼女の恋心とサイの憧れる思いのすれ違い。

 喜劇的なミスマッチには、思わず笑い出したくなる。

 ジモラは含み笑いを浮かべる。


「ムフフ……」


 彼らの思いは至極真っ当だ。

 前を歩いていた人の代わりを務めようとする。


 なんと素晴らしいことか!


 きっと、親愛なるサイと共に歩めば、現実になるだろう。


「ジモラ! 君はどうする?」


 望む様に惹きつける様な甘じょっぱさに、舌なめずりをしたくなる様な酸味。

 答えを待ち望む彼にジモラは手を伸ばす。

 信じていたと目を輝かせ、握り返そうとするサイ。しかし、ジモラは彼の手をすり抜けた。


――物足りない―—


 ジモラの底知れぬ欲望がそう囁く。


「急用を思い出した」


 彼は唐突に呟く。


 あまりの空気の読めなさに温厚なサイでも眉を顰める。


「ちょっと、ふざけないで! こんな時に大事な用事なの」


 怒鳴るディフィレアに肩をすくめながらジモラは答える。


「当然さ、お前の復讐劇にも重要なことだ」


 ジモラはのんびり、大きな階段と二人から離れながら話す。


「実は二人に内緒で色んな人にサインを貰っていたんだ」


「サイン?」


 ジモラは頷き、ペロリと舌を動かす。


「あぁ、この国に住む住人の殆どに、この国に相応しい王は誰か書いてもらったのさ。誰だと思う? ッチャこの俺さ! 嘘だと思うか? 大マジだぜ」


 ニヤリと悪い笑みを浮かべるジモラはコートの裏から丸められた署名書をチラつかせる。


 そこには行きつけの酒場やランサン郵便、ガラス店から小さな占い屋など、数多くの店の者たちやそこを利用する人々の名前がびっしりと敷き詰められていた。

 彼らは皆、ジモラを王様にすると書いている。


 信じられないと目を細めるディフィレアを煽る様に話す。


「これからの先、内政を整えなくちゃいけない。統治する奴が必要だろ? 俺は前線に出る気がないから打ってつけなのさ」


 彼はそう言って署名書を懐にしまい直した。

 ジモラは手を降りながら二人から離れていく。


「大丈夫、指示は仰さ。まぁ、俺は内政を頑張るんで、よろしくな」


 見えなく彼をサイとディフィレアは冷ややかにサラダの様なパサパサな視線で睨む。

 お互いの関係にヒビが入るような別れだがジモラにとって、それすらも堪らない食事である事に変わりなかった。

あやしいものじゃないよ、あやかしだよ。

どうも、あやかしの濫です。

悠長に話すキャラクターってアメリカのコメディアンのイメージが強いのは、

僕だけでしょうか?

「大変だ! ボブ、学校の宿題、初日に全部燃やしちゃったよ!」

なんて、よく分からない話の始まり方もたまには悪くないかもしれませんね。

でも、この展開。ちょっと、羨ましいかも……


「キャリー・ピジュンの冒険」を面白い、興味を持ったという方は、

是非、ブックマーク、高評価をよろしくお願いします。


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