Game fo tog Lv.3(三話)
「あ、遅いよー二人とも」
扉を開けると綺麗な金髪に黄色い瞳の少女キャリーが振り返る。
「「お前が早いんだ」」
入って来たオリパスとルークがツッコミを入れる。
いざ向かおうと話した矢先に彼女は一人で先に行ってしまったのだ。
隣にいた親友も呆れてため息をつく。
髪を赤く染め、サイドテールに結び、かわいいフリルのついたスカートを履く少女はキャリーをジト目で見つめる。
「相変わらず、先に行きたがるのね」
「えへへ」
頭を掻く彼女を横目に入って来たオリパスたちを睨む。正確にはオリパス一人だが。
敵意すらこもった視線にオリパスは目を逸らした。
「……」
周囲に気まずい空気が流れる。
スタックタウンの裏切り者を前に少女は立ち上がり、ゆっくりと彼に近づいて行った。
「この、バカ!」
次の瞬間、彼女はオリパスの溝打ちに鉄拳を喰らわせる。
殴られたオリパスは受け止めきれず、倒れてしまう。
彼らの様子に驚くキャリーとルークを横目に少女は拳を撫でる。
何事もなかった様にオリパスの横を通り過ぎて行く。
「初めまして、私はガーネット。ここの時計店と三階のシェアハウスの家主よ」
ガーネットは兜をつけたルークと握手を交わす。ルークもつられて自己紹介した。
挨拶を交わした彼女は振り返り、倒れたオリパスをカエルの死骸を見る様に見下す。
「それで、メアリーお姉ちゃんを殺した奴がなんで戻って来たの? 死ぬためなら私が今ここで、スパナで思う存分殴ってあげようか?」
野蛮な問いかけに、妙案だと苦笑いを浮かべてしまう。だが、オリパスには死ねない理由があった。
「仇を討とうとするファイアナド騎士団とスタックタウンを止めに来たんだ……」
今、ここ、技術の街スタックタウンはかつて最凶と謳われたメアリー・ホルスが率いたファイアナド騎士団と共に、神の国バシレイアと再び戦争をしようとしている。
オリパスは手に入れた平和のために止めようとここに来た。
この事をガーネットは、すでに知っている。
キャリーから聞いていたのだ。
「……」
睨みながらオリパスが起き上がるのを待つ。もし、立たなければ踏み潰してやろうと考えていた。
立ち上がったオリパスを睨み、ため息を吐く。
「言いたい事は色々あるし、メアリーお姉ちゃんの敵でぶっ殺したい気分だけど、このまま死なすつもりはないわ……やるならやり遂げさいよ」
腕を組みながら彼を睨む。
彼女の言葉に当然だと言う様にオリパスは頷く。
ガーネットは顔を逸らして言った。
「勘違いしないでよね。別に許したわけじゃないから。ただ、楽に死なせるよりこっちの方がいいでしょ?」
プイッとそっぽを向いてしまう。
彼女の様子にキャリーは胸を撫で下ろした。
また、怒らせて追い出されたらたまったものじゃないと、思っていたのだ。
ふと、ガーネットは思い出した様に尋ねる。
「ねぇ、前に作ってあげた銃、ちゃんと使えてる?」
彼女の問いかけにオリパスは肩を振るわせた。
彼は言いづらそうにホルスターに入れたラッパ銃を見せる。
「……」
銃口が大きく開いたラッパ銃には以前の戦いでボロボロになっていた。
「もう一丁も、跡形もなく壊された……」
彼の言葉にガーネットの口がポカンと開く。
「……悪いがまた作ってくれないか?」
悪気のない言葉にガーネットは言葉が喉に詰まる。
「……あんた、これを作るのにどれだけかかったと思ってるの! もー!」
弾切れまでは予想してたが二丁とも、壊れるなんて思ってもいなかった。
頭を抱えるガーネットの視界の端で、申し訳なさそうにキャリーも手を上げる。
「あたしもガーネットに直して欲しいものがある……」
彼女はそう言いながら自身の鞄を見せる。
斜めがけの鞄で被せの真ん中には、元々、魔法陣の模様があった。
魔法の中でも極めて高度な四次元空間魔法で、どんな物も入れることの出来るガーネットお手製の鞄。
制作には数多くの手間が掛かっている。
自身の傑作を壊されたガーネットはガクンと力が抜け、座り込んでしまった。
「うそ……銃はともかく、その鞄を作るのにどれだけかかると思ってるのよ……」
信じられないと顔を覆い隠す。
心配するオリパスたちだったが、彼らの耳には、まだ燃える火種の様な小声が聞こえてくる。
「銃は以前作ってるから問題ないわ! いくらでも作ってやる。なんなら、改良してやるんだから! それよりキャリーの鞄は素材からしっかり集めないと、溶けやすい魔鉱石から時空間魔法式で使う時の花とそれから……」
スラスラと呟くガーネットの様子は、逆光に立ち向かうチャレンジ精神と技術者のプライドが滲み出ていた。
「あれならすぐに作ってくれそうだね」
キャリーは安心して彼女を見つめる。
オリパスも同じ様に頷いた。ふと、合わなければいけない人物のことを思い出す。
これからの計画を立てるガーネットに水を刺す様で申し訳ないが尋ねてみた。
「ガーネット、ジモラがどこにいるか、知っているか?」
彼の問いかけにガーネットはギョッと目を見開く。次の瞬間、不快な物を見たかの様に眉間に皺を寄せた。
(すごい、いやそう……)
会話に入れていないルークは思ってしまう。
同じ様にここにくる前、今後の予定について話している時に、オリパスも同じ様な顔をしていた。
まるで、休明けの陰鬱な朝の様にため息が溢れる。
ガーネットは不貞腐れる様に椅子に座り、肘を突きながら分かりやすいほど嫌な顔を浮かべた。
「追い出したわ。出禁よ、出禁」
彼女の返事に誰一人として驚く者はいない。
むしろ、納得する様に頷く。
「あいつはこの街で誰よりもイカれてるのよ。毎日毎日、訳の分からないイダすらをして。道具の配置をご丁寧に上下逆さまにして、作業中に話しかけてくるし、おまけに私にだけ毎回服や髪をイジってくる。本ッ当最悪」
思い出しただけでも腹立たしい。
ガーネットはカッと険しい顔を浮かべる。
「大変だったね」
慰めの言葉をかけるキャリー。
「……」
ガーネットはジッと彼女を睨みつける。
両手を彼女の頬に伸ばす。
何をするのだろうと首を傾げるキャリーの両側のほっぺを摘んで引っ張った。
「イタタタタ! 何するの?」
ムニムニと揉みごたえがあり、ガーネットは無心でつねる。
嫌な奴を思い出していると、何らかの形でストレスを発散させたくなるものだ。
そこにちょうどキャリーがいたので堪らずつねってしまった。
「……」
涙目になる彼女を見て、ガーネットはつねるのを止める。
少しは気が晴れたのだ。
キャリーの頬を撫でると言うよりもこねくり回す様にしながら、ジモラについて教える。
「あいつならサイやディウィレアさんと一緒に街の中枢にいるんじゃない? あの人たちいつも一緒にいるから……」
言い終わると同時にある事を思い出す。
出禁にした後、性懲りも無く彼は戻って来たことがあった。
その時、一枚の手紙をニタニタと笑いながらチラつかせる。
ウザかったのでねじ巻きを投げてやった。
「そう言えば……」
ガーネットはボソリと呟く。
「王様自称して、自警団を作るとか抜かしてたわね……」
「自警団とは、言わないだろ?」
「どうでもいいわよ。そんなこと」
何を企んでいるのか、ガーネットもオリパスも想像がつかない。
それなら尚更、キャリーには分からないが、ほっぺが痛いことは確かだ。
「痛いよ……」
頬をさすりながら呟く。
「ごめんって、後でクッキー焼いてあげるから」
ガーネットは謝りながら猫を撫でる様にキャリーを慰めるのだった。
あやしいものじゃないよ、あやかしだよ。
どうも、あやかしの濫です。
パンチ一発で保留になってよかったですね。
それにしても、会わなくてはいけない人物とはどんな方なのでしょうか?
ろくでもないことは、確かです。
ストレスの吐き口になったキャリーは少し可愛そうでしたね。
「キャリー・ピジュンの冒険」を面白い、興味を持ったという方は、
是非、ブックマーク、高評価をよろしくお願いします。
よろしければ、X(Twitter)のフォローもお願いします。
https://x.com/28ghost_ran?s=11&t=0zYVJ9IP2x3p0qzo4fVtcQ




