表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
134/174

ガーネットは許さない Lv.1(八話)

 ガーネットの時計店、三階は共同の生活スペースになっている。

 自由に食事や休息を楽しむ事ができるが、いくつか常識的なルールがあった。


 部屋を散らかさない。


 物を壊さない。


 他人の物を勝手に使わない。


 以上が共同スペースを使うルールである。


「なぁ、ピーターくん、これどうするの?」


 右腕を包帯で巻いた白髪の男が苦笑いを浮かべて聞く。

 対して、尋ねられた少年ピーターは見えない天を仰いで、昇天しかけていた。


「やばい、やばいやばい、やばいよ。ガーネットに殺されちゃう」


 彼らの目の前には試作用に作った機械が調整用の部品と薬品と共に置いてあった。


 部屋を散らかさない。


 部品や薬品は、ガーネットの店からくすねた物である。


 他人の物を勝手に使わない。


 ここまでで、ツーアウトである。

 ピーターも後で何とかなるでしょ、と軽い気持ちでいた。しかし、調整の結果、何が起こるのかまでは考えてなかったのだ。


 ガスとバネを利用して矢を飛ばすピーターの発明品は、真っ直ぐ飛んだ先にある、食器棚を滅茶苦茶にしてしまった。


 物を壊さない。


 スリーアウトである。

 さらに……


「これ、ガーネットちゃんのお気に入りのカップ……」


 このアパートでは、住人の中で暗黙のルールがあった。それは家主である、ガーネットを怒らせない事だ。

 フォーアウト、文句なしの有罪ギルティである。


「あぁ、やばいよ、やばいヴァイス! どうしよう? 僕殺されちゃう」


「だから、言ったんだ。外でやれって」


 呆れてため息を吐く。


「仕方ないじゃないか、大っぴらに出来ないんだから」


「なら、自分の部屋でやれよ」


「無理だよ。狭いもん!」


 言い訳をするピーターだが、頭を抱える。


「本当にどうしよう、飛距離と精度を上げようと思ったら予想外の威力だ。もっと、微弱な調整が必要だな……」


 目の前の問題から目を背けようとしている彼であった。

 階段を駆け上がる音が響く。


「マズい! ガーネットが帰ってきた。おい、ヴァイス、隠すぞ」


 慌てて助けを求める。

 ヴァイスはやれやれと肩をすくめた。


「しょうがない、少し時間稼ぎをして来てやる」


「片付けるのを手伝ってよ!」


「お断りだ。そうなれば、俺までおこかれる」


 新参者のヴァイスですら、ガーネットの恐ろしさを理解していた。

 急いで食器を隠すピーターを庇う為、ヴァイスは玄関に向かう。


 扉を開けて迎えうとうとしていた。しかし、勢いよく扉が開く。

 危うくぶつかりそうになる。


「アワワ! すみません、ぶつかった?」


 現れたのは青白い顔色に黒いクマが特徴のパトロだ。

 ヴァイスは当たってないと答える。


「本当にぶつかってない? 我慢している? 後で多額の請求とかしないよね?」


 心配性と言うか、疑り深い彼にとってあまり意味がなかった。

 面倒と思いながらヴァイスは話を逸らす。


「そんな事より、どうしたんです? そんなに慌てて」


 彼の質問に何か思い出したかの様にパトロの表情が変わった。


「そうだ! 大変なんだ。ガーネットさんが!」


 慌てて叫ぶ彼に食器を片付けていたピーターも顔を覗かせる。


「?」

 

 ヴァイスはパトラに連れられ、急いで一階の時計店に向かった。

 そこでは、髪を赤く染めたガーネットと綺麗な金髪の少女がワンワンと泣いている。


「何があったんです?」


 困った様に尋ねるヴァイスにパトロは手短に話した。


「ちょっと喧嘩して、こうなったんだ。僕じゃ慰めきれないから助けてくれ」


「えー」


 めちゃくちゃ真剣に語るパトロをヴァイスは呆れた眼差しで見てしまう。

 自分だって慰めるなんて、素敵な事できる気がしなかった。

 そこに証拠を片付けて来たピーターが階段から顔を覗かせる。


「うわ、これまた随分と……」


 少年の声に気づいたガーネットは泣きじゃくりながら声をかける。


「ビーター、うぅ、ちょっと、てーかしで……この子にー車輪を作ってあげないと、いげないのー!」


 しゃくりと泣き声でぐちゃぐちゃな言い方だが、ピーターはすぐに降りて来た。


「オーケー、サイズは?」


「普通……」


 涙を拭いながら答えた。

 それだけで大体わかりピーターは、材木に印を書き始める。

 まだ、落ち着かない少女二人にヴァイスは優しく声をかけた。


「あぁ、取り敢えず二人とも三階で休んでおいで」


 ガーネットはこくりと頷き、もう一人の少女の手をしっかりと握る。


「キャリー……行こ」


 キャリーと呼ばれた方はうんと頷いた。

 二人はゆっくり階段を登って行く。

 彼女たちの背中を見ていたヴァイスは、見えなくなるとパトロの方を向く。


「パトロさん、悪いんですけどルミナさん呼んできてもらえる? 二人をお願いして来てください」


「分かった。でも、店は誰が見れば……」


「あなたが見ればいいじゃないですか」


 頭を抱えるパトロに言う。

 彼は不安気に聞き返して来た。


「僕に店を回せると思うかい?」


「……」


 ヴァイスは答えない。


「何か言って!」


「取り敢えず、呼んできてください」


 一言だけ言ってあげた。

 しなしなと階段を登るパトロを目で追ってからピーターの方を見る。

 ヴァイスはある事を思い出し、尋ねてみた。


「そういや、片付いたのか?」


 ピーターは親指をあげてドヤ顔を見せる。


「あぁ、バッチリ、棚まるごと片付けたよ」


 お前のどこにそんな力があるんだ?

 疑問が浮かぶが、もう一つ重要な事を聞き直す。


「違う、散らかした機械の方だ」


「あ……」


 ピーターの顔から血の気が引いていった。

 直後、三階から高い悲鳴と怒鳴り声が轟く。


「ピィータァー!」


 鬼の形相で階段を駆け降りてくるガーネット。

 その手にはスパナが握られていた。


「やべ!」


 ピーターは慌てて時計店を飛び出して行く。


 ガーネットは真面目でしっかりしている。だから、曲がった事が嫌いだ。

 自分にも、他人にも、しないでいてほしいと思っている。

 さらに言うと家主でもある彼女は、家の秩序を乱す輩を絶対に許さないのだった。

あやしいものじゃないよ、あやかしだよ。

どうも、あやかしの濫です。

泣きつかれていたのに大変そうですね。

でも、仲良く手をつなぐガーネットとキャリーが本当に良かった。


「ガーネットは許さない Lv.1」は以上になります。

最後まで読んで下さり、ありがとうございました。


「キャリー・ピジュンの冒険」を面白い、興味を持ったという方は、

是非、ブックマーク、高評価をよろしくお願いします。


よろしければ、X(Twitter)のフォローもお願いします。

https://x.com/28ghost_ran?s=11&t=0zYVJ9IP2x3p0qzo4fVtcQ

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ