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ガーネットは許さない Lv.1(六話)

 満月の夜、技術の街スタックタウンでは盛大な宴が開かれていた。

 街はライトに照らされ、彼らは好きな様に踊っている。

 そんな中、ガーネットは紅い靴を鳴らして、ある人を探して街を歩いていた。


「ねぇ、メアリーお姉ちゃん見てない?」


「いや、酔った大人たちのところにいるんじゃないか」


 すれ違う人たちに聞いて回るが、街の英雄、メアリー・ホルスの居場所は一向に掴めなかった。

 歩き回っていたガーネットだが、突然、足に痛みが走る。


「ッ……」


 壁にもたれかかって見ると、かかとが擦れてしまっていた。


「ッ……」


 頬が下がる。


 ガーネットは仕方なく、賑やかな通りから人気のない小さな広場に向かった。

 ここはまだ、街が発展途上の時に作られた公園で、ガーネットもちょくちょく訪れる場所である。

 彼女は靴を脱ぎながら小さな木下に腰を下ろした。


「気に入ってたのに……」


 ガーネットは履き直しながら紅い靴を見つめる。


 これはメアリーに憧れて買った靴だ。

 あの人の紅い髪と同じ紅い色をしている。


 見つけた際、一目惚れで、すぐに買ってみた。しかし、靴のサイズがまだ合っていなかった。

 今こうして、靴擦れを起こしてしまったのだ。


 それでも履いてきたのは、メアリーに見せたかったのだが、彼女には会えずにいた。


 どこにいるのか、不貞腐れながら紅い靴を睨む。

 そんなガーネットに、声をかけるものがいた。


「綺麗な靴だな、まるであの女の様だ」


 悪態をつく様に吐く言葉に、ガーネットは思わず顔を上げる。次の瞬間、視界が真っ暗になる。


(何も……見えない。まさか!)


 これは魔法によるものだとすぐに気づく。

 争う術もなく彼女は意識を失ってしまった。



 目を覚ますとガーネットは街の外に出ていた。

 大きな腕に抱き抱えられている。

 目の前には険しい顔を浮かべるメアリーとオリパスが武器を構えていた。


「その子を離せ!」


「おっと、それ以上、近づくんじゃねぇぞ。この娘がラット・ドックの餌にされたくなければな!」


 せせら笑う様にフードを被った女が叫ぶ。

 先程、襲ってきた魔女だ、とガーネットはすぐに気づく。


 もう一人、自分を締め付けている男からは女物の香水の香りが漂っていた。

 男の腕は肥大化してゆき、首を締め付ける。


「ウッ……」


 彼らはメアリーとオリパスに武器を下ろす様に命ずる。

 二人は大人しく武器をしまった。


 ガーネットの安全を先にしたのだ。

 自分らが優位になったと確信した魔女は、不当な要求を言い出す。


「私たちの目的はお前の命だ。お前は世界中から嫌われているメアリー・ホルス。お前が死ねば、この戦争は終わんだ」


 あまりにも強引で卑怯な要求だった。

 こんな事にあの人の余力を割きたくない。

 ガーネットはもがき口を挟んだ。


「そんなふざけた要求と通るわけないわ! メアリー姉ちゃん、私に構わずやっちゃって!」


 きっと、彼女ならあっという間に助け出してくれる。そう信じていた。

 メアリーも期待に応える様に武器を取る。


 全力でこの二人を倒す気だった。しかし、魔女は予想していたかの様に、不敵な笑みを浮かべる。

 彼女は懐から遠くの場所を映し出す、水晶玉を取り出した。


「おっと、言い忘れていた。この娘以外にも、もう一人、お前の可愛いお友達が、私たちの手の中にあるんだった」


 ぼんやりと淡い光を放ちながら水晶玉の中に人影が浮かび上がる。


 綺麗な金髪に、黄色い瞳をした少女の姿が見えてきた。

 そこにいたのはかつて共に戦い、メアリーの側にいた最速の少女、キャリー・ピジュンである。


 嘘だと思った。


「嘘だと思うか? なら、私たちを殺せばいい。だが、数日後にはこの娘の死体が海辺で見つかるだろうさ」


 魔女の言葉にメアリーの動きが鈍る。


 キャリーは誰よりもメアリーに懐いていた。

 もし、本当にあの子が捕まっていたとして、何かあってはいけない。でも、このまま、魔女の言いなりになってほしくはなかった。


 それはいけない!


 ガーネットは急いで叫ぶ。これは嘘なのだと。


「こんな奴らの言うことなんて信じなくてもいい、メアリー姉ちゃん、あの子ならきっと大丈夫だから!」


「おだまり!」


 余計なことを言わせない為に、男は強く首を締め付ける。

 息ができず、苦しくなった。

 ガーネットはもがき、足をばたつかせる。


 彼女の履いていた紅い靴がスッと抜け落ちてしまった。

 締め付ける力は強く意識が遠のいていく。それでも、ガーネットは信じていた。


(メアリーお姉ちゃんが……助けてくれる)


 しかし、彼女の期待していた展開にならなかったのだ。

 メアリーは武器を下ろした。

 そばにいたオリパスも驚いたが、誰よりもガーネットが目を疑っていた。


(うそだ、うそだ、お姉ちゃん。何かの間違えだよね?)


 唇が震え、歯が軋む。

 彼女たちは完全に降伏した。


「分かった、あたしの命は好きにしてくれ。その代わり、彼女たちを解放しろ」


「あぁ、約束してやる。なんなら、契約の魔法だって使っていい。おい、離してやれ」


 魔女の言葉に男はすぐにガーネットを解放する。

 急に思う様に息が吸えて咽せてしった。


 奴らは砂風と共に姿を消す。

 一人解放されたガーネットの元にメアリーたちは駆けつけた。


「大丈夫か」


 優しく声をかけるメアリーにガーネットは顔を合わせる事ができなかった。

 彼女の中で様々な思いが渦を巻く。


 メアリーお姉ちゃんが屈した?


 私のせいで言う事を聞いてしまった……


 違う、私じゃない。


 あの子のせいでメアリーお姉ちゃんは……


 じゃあ、私は何のために?


 誤った考えが溢れかえる。


 これは違う、ガーネットは目を逸らそうとした。しかし、一度浮かんだ思いはそう簡単に消せない。


 メアリーは、ガーネットではなくキャリーのせいで要求を飲んだ。つまり、自分はあの子よりも下なのだと、価値が低いのだと思い知った。


 きっと、メアリーは言わない。しかし、彼女の中にはそんな考えがあったのだと気づいてしまう。

 それでもガーネットはメアリーを嫌うつもりはない。だって、この人のおかげで今こうして助かったのだから。


 でも……


「メアリー姉ちゃん……」


 不安げに尋ねようとした。


 本気で奴らの言う事を聞いてしまうのか、心配だった。

 メアリーはニッと優しく笑う。


「もう大丈夫だ。あたしがなんとかする」


 彼女の言葉にきっと大丈夫だとガーネットは願ってしまう。

 地面に転がった紅い靴にメアリーは気づいた。


「綺麗な靴だな、可愛くてお前にピッタリだ」


 スッと差し出す彼女にガーネットは、静かに受け取る。しかし、頭をよぎった考えのせいで履き直す事ができなかった。


「うん……」

あやしいものじゃないよ、あやかしだよ。

どうも、あやかしの濫です。

メアリーは決して、どちらかを優遇したつもりはない。

それでも、ガーネットにとってこの決断は、酷なものだった。

比べる必要がなくても、自然と優劣がついてしまう。

先生はあの子の方をよく見てるんだと客観的に気づいた時の嫉妬心は嫌悪すら覚えそうですよね。

「キャリー・ピジュンの冒険」を面白い、興味を持ったという方は、

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