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ガーネットは許さない Lv.1(五話)

 時計店を出るとシクシクと少女の啜り泣く声が聞こえる。


 幽霊かと思ったパトロは身構えてしまう。しかし、声のする方に行くと二階に続く階段にしゃがみ込みながら泣くキャリーだった。


 こういう慰めるのは自分には向かない。

 バードスクールで適任がいるとしたら、ミラ、ルミナ、マチルダあたりだろう。


 男性陣で出来るやつなどパトロ自身を含めていないと神に誓ってもよい。しかし、このまま、目を逸らしていては、後々困る事が多い、とルミナがぎっしり書き込んだメモの中には書いてあった。


 ランサン郵便協会の荷物が溜まりに回らなくなることや、ガーネットの時計店二階にいられなくなり、スタックタウンにいられなくなる事を懇切丁寧に書き込まれている。


 本当に起きるかどうかは分からない。それでも、パトロの不安を煽ぐには十分、いや、過剰な程の内容だった。


(お腹が痛い……)


 重苦しいため息をしてからパトロはキャリーに近づく。


「やぁ、えっと……隣いいかな?」


 ぎこちない挨拶だったが、キャリーは何も言わず頷いた。


(これは本当に隣座っていいのか?)


 疑ってしまう。それでも、座らなきゃどうしようもなかった。

 気になる事は多いが、とりあえず隣に座る。


「……」


「……」


 どこから切り出せばいいか、分からず静かな時間を過ごす。

 どう話しかければいいか分からないパトロは必死に考え込んだ。


(気にするなと言うべきだろうか? いや、それは違うな。落ち着いたら……こうじゃないだろ……)


 ジッと見つめているとキャリーが首を傾げる。


「なに?」


 眉を顰めて、困り顔で睨み返す。

 パトロは慌てて距離を取った。


「あわわ! ごめんなさい。近すぎました!」


 キャリーは首を振る。


「別に気にしてないよ」


 彼女の返事に苦笑いしかできなかった。会話は終わってしまい、外なのに重苦しい空気が漂う。

 このままでは気まずくて、キャリーが可哀想に思えた。


 パトロは人知れず焦ってしまう。

 静寂を破ったのはキャリー本人であった。


「ねぇ……」


「ギャァ! 何でしょう?」


 間抜けな声で答える。

 キャリーは改めて聞き直す。


「ねぇ、ガーネットの言っている事は本当なの?」


 困り果てた彼女は真剣な眼差しで見つめる。

 彼女の顔を見てパトロは、話すべきか悩んでしまう。

 話せば、辛い思いをさせてしまう。


 それにランサン郵便協会から離れてしまうかも知れない。しかし、話さなければきっといつまでも苦しい思いをする。

 自分を許せなくなるかも知れない。だが、例え、ここで話さなくてもどこかで耳にするだろう。


 結局は同じ事だ。


(絶対、認めようとしないだろうけど……)


 色んな事を考えた末にパトロは頷く。


「うん、ガーネットの言っている事は正しい」


 彼の言葉にキャリーは息を飲む。


「うそ……」


 ほら見た事か!


 パトロは、内心で叫ぶ。

 最悪な事は誰しも認めたがらない。

 天真爛漫で元気が有り余るキャリーみたいな子は特にそうだ。

 一人頷く。


「嘘かどうか、認めるのは君に任せるけど……キャリーお嬢様がここを離れた後、メアリーは〈邪悪な魔女〉に脅されて神の国バシレイアに投降する事になったんだ」


「〈邪悪な魔女〉?」


 キャリーは首を傾げる。

 説明できない部分をあらかじめ避ける為、パトロは早口で断りを入れる。


「〈邪悪な魔女〉は、霧の国ブリッジランドで悪名を轟かした魔法使いだ。魔法に関してはからっきしだ

から彼女については、これ以上は聞かないでね!」


 息を整え、補足できる部分を詳しく話した。


「キャリーお嬢様は、知らぬ間に彼女の手中にいたんだ。同時にガーネットさんも〈邪悪な魔女〉に捕まってね。メアリーさんの前に出されたんだ。言うなれば、交渉材料かな? この一件のすぐ後にメアリーさんはオリパスくんと共に姿を消したんだ」


 彼の話を聞いていたキャリーは頭を抱える。


「きっと、メア姉は、ガーネットを助けたんだ。でも、あたしが……あたしが知らないうちにドジを踏んだせいで……」


 気付かぬうちに人質になっていたに。

 キャリーは、全く心当たりがない。

 言い表せない思いが胸を締め付ける。


 知らない。


 彼女を困らせた。


 いつか分からない。


 でも、メアリーを死に追い詰めてしまった。


「……」


 頭を押さえる。もし、ここまま握りつぶせたらどれだけ良かった事だろう。

 ここで、ようやくガーネットが怒っている訳に気づく。


 メアリーと共に消えたオリパスと一緒にいる事、バシレイアから依頼を持ち帰ってしまった。

 ガーネットにはたまらなく憎らしかったはずだ。

 そんな思いをさせるなんて、自分が許せない。


 奥歯を噛み締める。


 このままじゃいられない。


 突然、キャリーは立ち上がった。


「ガーネットに謝ってくる!」


 唐突な行動に、隣にいたパトロは身を固める。


(こいつ、なに言ってんだ!)


 破天荒な行動に賛成できない。

 ガーネットは真面目な性格で、曲がったことが嫌いなタイプだ。かと言って、馬鹿正直になるのも違う。


 パトロは面倒な記憶を思い出す。

 以前二階の時計を直した際。


「ありがとう、ガーネットさん。本当に手先が器用なんだね」


 お礼と一緒に賞賛の言葉をつけてしまった。しかし、彼女はお気に召さなかった様で、鋭い視線で言い返される。


「ふん、当然よ。大体、ネジの巻き戻しと時間の調整なんて誰でもできて当然なのよ。もう少し意識したらどうなの」


 短い髪を払いながら言う彼女の言葉には棘しかなかった。


 正直、トラウマで関わるのがすごく嫌になった。

 こんな前例があるのだから、きっと、キャリーが謝っても無駄な気がする。そもそも、仕方ない事なのだから。


 この件にはランサン郵便が噛んでいる。

 キャリーは本当に何も知らずにいたのだ。だが、このまま否定しても何も変わらない。

 先々の不安を抱えながらパトロは応援する。


「うん、きっと大丈夫だよ」


(絶対、言い争い起きる。言い争い起きる)


 彼が抱く不安など何一つ伝わらず、キャリーは元気な声で頷いた。

あやしいものじゃないよ、あやかしだよ。

どうも、あやかしの濫です。

パトロは基本マイナス思考です。

マイナス×マイナスな考えで、なんやかんやプラスに向かう感じですね。

大抵の社会人思考な気がしています。

慰めるのに向いていると彼があげてくれた人たちの中で、マチルダだけ、まだ出ていませんね。

少し紹介させてください。

彼女は南の国担当の受付嬢で、しっかり者の魔法使い眼鏡女子です。

「キャリー・ピジュンの冒険」を面白い、興味を持ったという方は、

是非、ブックマーク、高評価をよろしくお願いします。


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https://x.com/28ghost_ran?s=11&t=0zYVJ9IP2x3p0qzo4fVtcQ

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