ガーネットは許さない Lv.1(四話)
帰ってきたガーネットにキャリーは、車輪が欲しいことを伝える。
「荒野で馬車が壊れたの、急ぎで作れない?」
彼女の要求に対して、ガーネットは眉を顰める。
「はぁ? うちは時計店で何でも屋じゃないんだけど?」
当然の反応だった。
ここは時計店で鍛冶屋でもなんでもない。
作れないのが普通である。
「まぁ、うちは他とは違うから、いいわ。他でもないあなたの頼みだもの、急ぎで作ってあげる」
満更でもなさそうにガーネットは髪をいじる。
スカした態度だが、キャリーは全く気にしていなかった。それどころか、彼女の両手を握り感謝を伝える。
「ありがとう! これで、オリパスもレサ姉も助かるよ」
「待って、レサトさんと誰?」
眉を顰め聞き直す。
「オリパスだけど?」
キャリーは不思議そうに首を傾げた。
スッと彼女の手からガーネットの手がこぼれ落ちる。
ゆっくりと後退りを始めた。
急にどうしたのか、キャリーにはよく分からない。
ふと、もう一つ渡すものがある事を思い出した。
キャリーは身につけていた鞄を前にずらし、中から一枚の手紙を取り出す。
「はい、これ、ガーネット宛の依頼、バシレイアの教会からレベル五で渡されたの」
いつものように笑顔で手紙を差し出した。
彼女の気持ちに気づきもせずに……
技術の街スタックタウンは、少し前まで神の国バシレイアと戦っていた。
さらにオリパスはある日、あの人と一緒に姿を消した。
「……ない」
ガーネットはボソリと呟く。
「ん?」
うまく聞き取れなかったキャリーは、首を傾げてしまう。それがあまりにも彼女の気持ちを逆撫でるとも知らずに。
ガーネットは差し出された手紙を払いのけ、叫んだ。
「あんな裏切り者の為に車輪なんか作らないいし、あなたの手紙だって受け取りたくないわ!」
彼女は激しい怒りを露わにする。
眉を顰める涙を必死に堪えていた。
睨みながら彼女はキャリーを突き飛ばした。
「出てって……出てってよ!」
いきなりの事にキャリーは困惑する。
どうして彼女が怒っているのか、まるで分からなかった。
慌てて尋ねる。
「ま、待ってよ。なんで怒ってるの?」
彼女の言葉にガーネットは一瞬、動きを止めた。
震える声で尋ね返す。
「あなた、本当に何にも知らないの……?」
キャリーは困り顔で頷いた。
次の瞬間、ガーネットは息を飲み、何かを言おうとするが首を振って堪える。しかし、押さえきれない思いに負け、叫んでしまった。
「メアリー姉ちゃんはバシレイアに殺されたのよ!」
大切な人のことにキャリーは静かに頷いた。
「うん、知ってる」
この目で見ていたからだ。
「知ってる? 嘘をつかないで! オリパスは裏切り者なの、作るわけないでしょ」
彼女の言葉にキャリーは激しく首を振った。
「うんん、違うよ! あいつは嫌いだけど、悪い奴じゃない。あいつだってメア姉を死なせたくなかったの」
「あなた、なんで知ってる」
ガーネットの問いかけき、キャリーは真っ直ぐな目で答える。
「全部見てたから」
ガーネットは思わず言葉を失った。
キャリーの顔を見つめる。
嘘偽りのない全てを悟ったような濁りのある黄色い瞳。
彼女の辛い思いがあっても、表に出そうとしない態度に、
"愛される彼女"にガーネットはたまらなく憎たらしくなる。
胸が苦しくなった。
悔しい思いで満たされる。
あなたのせいで……
私じゃなく、あなたがいたから……
違う、彼女は知らない。
何も知らない。だから、許せない。
許せない。
蠢く不気味な気持ちが、ガーネットの心を狂わせる。
彼女は俯き、鼻で笑った。
「ハッ……なんだ、知ってたの? でも、この事は知らないでしょ?」
ガーネットの言葉にキャリーは動けなくなる。
自分の知らない事とは、なんなのか気になってしまった。
黙って親友を見つめる。
「いい、メアリーお姉ちゃんが死んだのは、私とあなたがいたせいなのよ!」
誇る様に彼女は睨みながら言った。
「……え?」
世界がぐにゃりと歪む。
何を言われたのか分からなかった。
(あたしが居たせいで……メア姉は死んだ?)
処刑台の上に立つ、彼女の姿が目に浮かぶ。
片目と片腕を失い、紅い髪もボサボサで痛ましい姿のメアリー。
あんなにしたのが、自分だとしたら……
だとしたら……
キャリーは膝から崩れ落ちる。
いつどこで彼女を追い詰めたのか、思い出出そうとした。しかし、分からない。
知らない。
それでもキャリーは、自分がメアリーを死なせたという事にショックを受けてしまう。
床に座り込むキャリーを見下ろすガーネットは、彼女の横を通り過ぎ、冷たく吐き捨てた。
「私はどっちもやらない。他を当たりなさい……用がないなら出てって」
彼女の言葉に呆然とするキャリーは立ち上がる。
言われた通り、静かに出て行った。
キャリーが出て行った後、ガーネットは机を突然、殴りつける。
ゴン!
鈍い音が響いた。
ガーネットは震える声で呟く。
「痛い……」
歯を食いしばり、必死で涙を堪えていた。
そりゃ、鉄の机を殴れば痛いだろと言いかけたパトロ。
彼は飛び火を恐れて会話に混ざらずにいた。
「あーあ、ガーネットちゃん、何してるの」
ルミナがガーネットの手を心配しに行く。
ふと、彼女の手から一枚の紙切れがおちる。
大事な資料だとまずいと思ったパトロは思わず拾ってしまう。
紙切れには怪文書と言えるほどの分量で"キャリーちゃんをよろしく"と理由も含めてぎっしりと書き込まれていた。
それはパトロの心配性と胃に効果的なダメージを与える。
「うぅ……」
あやしいものじゃないよ、あやかしだよ。
どうも、あやかしの濫です。
大変な事になりましたね。大変すぎてパトロの胃が……
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