射影機とドラゴンと雨宿り Lv.3(四話)
祝祭から一週間経った頃、ランサン郵便のギルドは落ち着きを取り戻し、少し静かになっていた。
「ふわぁ、は~暇ですね。イタッ!」
「何言ってるの、事務作業が残ってるでしょ」
椅子に座りながらあくびをするムグレカにたいして、ミラは配達証明書の束で喝を入れる。
「そう言われても、ほとんどする事がないじゃないですか。あの子が手紙も荷物もほとんど、持って行ってくれたし。他の依頼もいつも来ている人達が持ってったし……事務作業はほぼ、終わってないですよ」
「それもそうね」
ミラは確かにと頷き、掲示板の近くにある丸机に座った。
「喝を入れといて、納得するの早くないですか? あと、なんでそっちに?」
「こっちの方が日が当たって気持ちいのよ」
「そうですか、あっコーヒー淹れて来ましょうか?」
ムグレカは立ち上がりながらミラに聞く。
「じゃあ、お願い」
ミラは怠けた様子で頼んだ。仕事中だが休日の様にのんびりと過ごしてる二人。しかし、ミラはどこかざわざわとした感情が胸の内で動き回るのを感じる。
彼女にはこの気持ちが、務怠慢への罪悪感でない事だけはハッキリと分かっていた。
窓の外を見てると晴れ晴れとしていて、気持ちのいい天気だった。
青空に雲がちょうど良く浮き動き、ミラはその雲をボーッと見ていられた。
しばらくして、ムグレカがコーヒーを持って二階から戻ってきた。
「どうぞ」
彼はコーヒーをミラの前に置いて、一緒に丸机を挟んで座った。
ミラはお礼を言ってからコーヒーを啜る。苦味の中にほんのりと酸味のある、
「うん、コーヒーの味がする」
独り言をこぼした。
「そりゃ、コーヒー淹れてきたんですから」
受付嬢が時々見せる、よく分からない独り言にツッコミを入れるムグレカ。
ミラはムグレカの顔を見てから確かにと笑ってしまった。
「あの子には、感謝しかないですね」
ムグレカはコーヒーを飲みながらキャリーの話をする。
「キャリーちゃんの事?」
「はい、あの子が祝祭の翌日に来てくれて、本当に助かりました」
ムグレカは嬉しそうにそう言った。
「……」
ミラはどうしてか、彼の笑顔を見てより一層、胸のざわめきが大きく感じた。
コーヒーの黒い液体にわずかに反射する自分の顔を見て彼女は口を開く。
「あの子、前はがむしゃらに仕事を受ける子じゃなかったのよ。がむしゃらは……前から合ったわね。でも、依頼は西部なら西部、東部なら東部って感じで受ける依頼はまとめてたのよ。それで、全部終わったら、たまにこっちに遊びに来たりするの」
「何か問題でも?」
ムグレカはミラの話を聞いても正直、ピンとこず、訪ねてしまった。
「実はね。キャリーちゃんが依頼を全部引き受けたあの日、教会……分かってると思うけど、あっちの神様がいる方の教会ね。そこのシスターさんが来たじゃない」
「あぁ、綺麗な人でしたね」
「その人から言われたの。あの子が戻ってきたら、怪我をしてるのだから教会に行く様にと伝えてって」
「そうですね。僕も聞こえていました」
「んで、夕方、キャリーちゃんが戻って来た時にその事を伝えたんだけど、なんだか上の空と言うか、ボサっとしてるのか、うんと大丈夫、平気しか、言わなかったのよ……」
ミラは頬をついてムスっと眉を顰めた。
「はい、聞いてました」
「あなた、どこで聞いてたの?」
「いつも、座ってる。事務スペースですよ。てか、余計な事も吹き込んでませんでしたか?」
ムグレカはそう言いながらその日の事を振り返った。
「ただいま……」
「お帰りなさい、そう言えば今日、教会のシスターがキャリーちゃんを呼んでたわよ」
「あっ」
「あっ、じゃないわよ。怪我した状態で依頼受けてたの?」
「うん」
「無理しないでちょうだいね」
「大丈夫」
「まだ、教会は開いてるから、行って来なさい」
「うん」
「夕食は大丈夫?」
「平気」
「よかったら、家で食べていきなさい」
「平気」
「なんなら、うちに泊めてあげるわよ」
「うん、大丈夫」
大体、こんな会話だったはず……とムグレカは顎を抑えながら思い出していた。
「あの子、うちに来るって言っていたのに結局、来なかったのよ!」
ミラは拳を握りしめて、立ち上がる、がすぐにシュンと空気が抜けた様に机に突っ伏した。
(あれは僕でもわかる。遠い目をしていたぞ……)
そう思いながら彼はミラを見ながら苦笑いを浮かべる。
ミラは顔を上げて、眉を顰めながら考え込む。そして、聞こえないほど、小さく掠れた声が一瞬出たが、すぐに口を塞いだ。
キャリーが祝祭の日に大切な人を失っている事を話そうとしたミラだが、その事を話してしまうとキャリーの立場が危険になるかもしれない。それに普段どうりに見せ様とする、友人にどう接すればいいのか、分からなかった。
見守る事しか出来ない自分は、友人失格なのかもしれない……
どうにも出来ないこの考えをミラはコーヒーと共に飲み込んだ。
話を聞いていたムグレカは、ンーと唸りながら考え込んで、ミラにもう一度、聞き直した。
「何か問題でも?」
「分からないは、ただ……ただ、心配なのよ」
ミラはそう言いながら右下に目線を送る。
あやしいものじゃないよ、あやかしだよ。
どうも、あやかしの濫です。
キャリーちゃんが名前しか出てないよ! いや、回想シーンで一瞬だけ出ましたけど……
次回は、ちゃんとキャリーちゃん出てきますんで!
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